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取り憑かれて  作者: 恵 家里
第二幕 再会と告白
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第六話

本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。


○詩を読むように読んでいただきたい

○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい


このような勝手な願望からです

一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。

 完全に二人の世界だ


 車内前方に乗る僕たち二名は、ただの傍観者に成り下がる

 羨ましい

 というよりは、悠の照れまくった姿が新鮮すぎて、驚きを含んだ笑いが込み上げてくる

 それは瞬も同じだったようで、僕と目を合わせると、ほくそ笑むような、からかうような表情を見せた


 葵ちゃんの告白は、けっこう衝撃だった

 でもあの時、僕らにすがって泣いてくれたことへの、優越感にかなり寄った満足感が、ストンと落ちた感覚になった


 過去の経験や、それに基づく未来予想

 それが良い意味で裏切られた時、ポカンと一つ穴が空く

 そこにどんどん幸運だとか、期待だとかが流れ込んできて、胸が、満たされていく

 早鐘を打つ心臓

 その振動が、指の先から頭のてっぺんまでを痺れさせていく

 そうなると、この上ない僥倖をもたらした相手に、世界に、これまでの自分に、全てに感謝したくなる気持ちになるんだ

 僕が、悠や瞬に会った時に感じた感覚

 これをきっと、葵ちゃんも感じたんだと思う


 瞬が僕たちを、一人ずつ家まで送ってくれた

 葵ちゃんの家は駅前のマンションだということで、駅の西側から回っていく順路が決定する

 まずは僕、その後葵ちゃん、そして悠の順番


 数年前、ちょうど葵ちゃんが越してきたくらいの時に、大々的なリフォームやらリノベーションやらが終わり、金持ちファミリーがこぞって購入したという、言わば高級マンション

 葵ちゃんはそこに住んでいる

 驚く僕たちに、ちゃんと事情があるのだと、葵ちゃんは説明してくれた


 葵ちゃんが住んでいるマンションの部屋は、バー二本松のママの家族が、もともと住んでいたもの

 あのマンションを購入できてしまう財力への驚愕よりも、ママに、家庭があったことへのそれが、遥かに上回った


 ママには二人の娘さんがいて、今は渡米中

 いつ戻って来ても良いように、家具などそのままにしているそうだ

 自分だけで住むには居心地が悪いが、かと言って全くの他人に住まわせるつもりも、ましてや譲るつもりもない

 葵ちゃんが住んでくれれば、自分もたまには遊びに行けるし、何より人に住んでもらったほうがメンテナンスが少なくて済む

 ということで形式上、ママの所有するマンションに葵ちゃんは居候、という形で住むことになったらしい

 確かに葵ちゃんなら、掃除とかもしっかりしそうだし、安心して住んでもらえるよな

 と、納得する


 ママに家族

 ママに娘

 ママに、

 奥さん?

 昔はノーマルだったのかな?

 やっぱり本当の自分に気づいちゃって、奥さんと別れたとか?

 娘さんは知っているのかな?


 再び脳内をママが占拠

 ママがお父さん

 ママなのに父親

 ママであってパパ

 親父からの、ママ?


 ダメだ

 字面で考えてたら、混乱してきた


 僕のアパートの前で車が停車し、混乱した頭を抱えたまま、助手席からズルリと下りる


 じゃ、またね


 じゃあな、と瞬

 悠は、何とも言えない顔でひらひらと手を振り、葵ちゃんは


 今日はありがとう、春樹さん

 また、ね?


 と、最後に首を少し傾けながら、笑いかけてくれた

 どんな表情も素敵だけど、やっぱりこの笑顔には、未だにドキリとしてしまう


 僕も笑顔を返して、ドアを閉め、自分の部屋に向かう

 時刻は二二時を回ったところ

 今日は、ゆっくり湯船に浸かってから寝よう


 今日はありがとう、春樹さん


 葵ちゃんの言葉が、笑顔が、頭の中でリピートされる

 何度も

 何度も


 カメラアングルは自由自在

 瞳に、唇に、クセのある長い髪に

 頬を伝った、涙に

 脳内の画面いっぱいに、映し出されていく


 葵ちゃんが、僕の胸に顔をうずめる


 泣かないで

 もう、大丈夫だから


 背中を強く抱く

 葵ちゃんが顔を上げて、僕を見つめる

 その大きな瞳に引き寄せられるように

 唇に吸い寄せられるように

 葵ちゃんに取り憑くように

 目を閉じて、

 顔を、

 近づけていく


 突如、落とし穴にでも落ちたかように、ガクッと身体が沈んだ

 慌てて目を見開いて、上体を起こす

 バシャッと顔に水しぶきがかかった

 肩から下が温かい

 そして、服を着ていない


 僕は入浴しながら、眠ってしまったようだ

 曖昧な妄想と夢の境界

 自分の愚かさと間抜けさを、ため息で吹き飛ばして浴室から出る

 今度は本日のハイライトが、頭の中で上映され始めた


 瞬の車

 悠の車酔い

 葵ちゃんの膝枕

 一人で肝試し

 悠と一緒に肝試し

 葵ちゃん探してたら瞬

 葵ちゃんは霊と会話

 悠が取り憑かれて

 葵ちゃんが除霊

 葵ちゃんの顔が変わって


 びっくりしたけど、こうやって霊と話すんだなぁって

 すごいって

 けど、葵ちゃんはすごく悲しそうで、元気づけたくて

 何か自分でもよく分かんないこと言ったら、葵ちゃんが泣いて、悠が起きて、初めて霊見たって喜んで


 回想を一度打ち切って、ドライヤーで髪を乾かす

 葵ちゃん、すごく嬉しかったんだろうな

 ずっと気味悪がられたり、忌み嫌われてたり、拒否されて、距離置かれて、ひどい言葉もたくさん浴びせられて


 それが、受け入れられた

 何も否定されることなく、自然に、実にあっさりと

 共感はできないけど、共有はできるって瞬は言ってた


 そうなんだ


 自分に全く理解できない世界でも、相手にとって、それが当たり前なら共有すればいい

 その人にとって幸せなこと、大切にしてるものなら認めてあげれば良い

 そうなんだねって言ってあげれば良い

 喜んでいたら良かったねって言ってあげれば良い

 それだけなんだ


 歯を磨いて、布団に潜り込む

 先ほどの続きが始まる


 帰りの車

 葵ちゃんの告白

 びび(・・)ちゃんの紹介


 僕もすごい興奮したし、本当にすごいって思った

 何て表現すれば良いのか分からないくらい

 ただ、すごいって


 葵ちゃん

 どうか、安心してほしい

 君は、僕たちに出会えた

 君の大切にしている世界は、

 僕たちが全部、受け止めるから


 窓ガラスに映る僕は、そう葵ちゃんに語りかけていた


 葵ちゃんに会った時に感じた高揚感

 葵ちゃんの告白で、漂っていたモヤがちゃんと形を成した時の、満ち足りた気持ち

 それは、空にかかる虹を、見つけた時の気持ちと似ている


 出会えた幸運

 美しいものを、目の当たりにした時の気持ち

 初めて出会った時の、印象はそのままに

 鮮やかに、美しく、その輝きを増しながら

 時に儚く、時に力強く

 心臓の下の方から、

 血液とともに押し出されては、全身に満ちるほどの

 不変性と連続性を持って


 抑え込んでおくのが、

 耐えきれなくなる

 ほどの


 第二幕  再会と告白  完

本作品では、挿絵並びに登場人物の肖像、ストーリーの漫画などを描いていただける方を募集致しております。プロアマ不問


SPECIAL THANKS TAMO

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