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取り憑かれて  作者: 恵 家里
第十四幕 守護と変化
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第四話 後編

本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。


○詩を読むように読んでいただきたい

○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい


このような勝手な願望からです

一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。

 椿さん、ホテルで見えたもの、感じたこと

 教えていただいても構いませんか?


 葵が丁寧に問う

 が、前髪をかき上げた石黒くんの答えは、意外なものだった


 あんたさぁ、こん前からなんで馴れ馴れしく名前で呼んでくるん?


 さっき葵が先生って呼ばれたことに、悠が突っかかってきたのが気に入らなかったのだろうか

 でも、橘さんは、ずっと椿くんって呼んでるし、名前にさん付けで呼ぶのは、名前というものを大切にしている、葵なりのスタイルだし、そもそもでその呼び方は、何らおかしいことではない

 どんなに打ち解けた仲になっても、結婚しても、葵は僕らのことを変わらずに、さん付けで呼んでくれている

 これが僕は、結構嬉しかったりした

 だから、石黒くんのこの発言には、正直イラッとしちゃったんだけど、葵は少しも嫌な顔することもなく、にこやかに言い改めた


 あ、そうですね

 ごめんなさい

 石黒さんは、


 苗字はもっと嫌いだっつの


 は?

 もう何が何だか分からない

 小学生ってよりは、何を言ってもイヤイヤする三歳児じゃないか

 さすがカチンときて、石黒くんを睨んだ

 いや、石黒もダメなんだっけ

 あ、悠が僕以上にムカッ腹立ててる

 瞬が立ち上がろうとしてる

 やめてよ、子どもに手を上げるとか

 いや、子どもじゃないんだっけ


 クスクスという笑い声で、頭の熱が下がる

 見ると、葵が口に手を当てて、本当に可笑しそうに笑っていた

 葵は笑いを収めると、口を開いた


 不便ですよ

 お呼びすることできないとか


 そして、イシグなんたらくんを見た


 なんでお名前がお嫌いなのですか?


 女みてぇだけぇ


 あ、そこは激しく同意


 悠と葵が声を揃える


 私も以前は嫌いでしたよ

 男みたいだって


 オレもー

 もっと男らしい名前が良かったって何度思ったことか


 だぁろ?


 でも、今は好きですよ


 なんで好きになったん?


 葵は、キレイな指を顎に当てて考える素振りを見せた

 そして、


 馴れ、ですね


 と、少し頭を傾けながら言った


 馴れだな


 悠も同意する


 馴れかぁ


 うなだれる石◯くんに、葵は僕までドキッとするくらいにっこりと微笑んだ

 そして、この上なく優しく、柔らかに話しかける


 大切な人に、たくさん呼んでもらってください

 きっと、

 好きになりますから


 僕の胸の奥で、何かが鳴いた

 愛おしく、愛くるしく、じんとするような声に、頭の中がキレイに洗い流されて、足元がふわりと浮いた感覚を覚える


 椿くん

 葵先生の仰る通りですよ、椿くん

 あのホテルで見つけたもの全てをお話しましょう、椿くん

 椿くんが感じたもの

 椿くんが考えたこと

 椿くんが見えたもの

 椿くんが思うがままにお話しましょう、椿くん


 椿くん椿くん、うっせぇばぁか


 私は、椿くんの大切な人ではないのですか?


 必要以上に呼ぶなっつの


 つまり私は、椿くんの大切な人なのですね?


 うっせぇばぁか


 いいから早く話せよ、バッキー

 橘さん、お茶おかわり


 悠が茶杯を前に出しながら言った

 平然を装っているが、笑いを堪えているのが分かる


 はい、ただいま


 あ、聡一朗さん、私が淹れますよ

 皆様もいかがですか?


 葵が席から立ち上がった


 頼む


 瞬も茶杯を置いた


 僕もおかわり


 おい、しれっと何がバッキーなん


 あだ名なら良いだろ?


 完全にからかっている悠の表情


 悠さん天才

 その手があった


 感心する葵に、橘さんが吹き出す


 ざけんなや

 んだ、そのアイスみてぇなあだ名ぁ


 良いじゃねぇか、バッキー

 クールで男らしいだろ


 アイスなだけに


 僕もバッキーに一票


 ではバッキーさんということで


 勝手に多数決してんじゃねっつの


 私も今後はバッキーとお呼びして宜しいですか?


 良いわけなかろぅ、ばぁか

 普通に呼べや


 んだよ

 良いあだ名考えてやったのに


 うっせぇ

 次呼んだら殺したる


 上等だ

 やってみやがれ


 悠が立ち上がると、椿くんも勢いよく椅子から跳ね上がった

 橘さんと葵が、笑いながら止めに入る

 小学生の喧嘩みたいなやりとりが二人の間で繰り広げられ、瞬はため息混じりにお茶をすすった

 僕はそんな瞬の様子を見て、恐る恐る話しかける


 瞬

 ごめん、なんか

 もっと慎重にいかなきゃだめだったのに

 勝手に、いろいろ喋っちゃって


 瞬は面倒臭そうに僕を横目で見ると、茶杯を置いて、もう一度ため息をついた


 多数決でいったら、俺の惨敗だろ?


 多数決?

 意外な言葉に、僕は目をパチクリさせた


 あいつらとは、これから長い付き合いになるってことだ

 前にも、あっただろ?同じこと


 そう言って瞬は、顎をクイッと動かす


 同じこと?

 石黒くんや橘さんとは初対面なのに

 瞬が言っていることがやっぱり分からず、その指し示された方向を見た

 そこには変わらず、グループ漫才を始めた四人の姿がある


 変わらねぇって思ってたのに変わった

 でも、変わったはずなのに、何も変わんなかった

 だろ?


 その言葉に、胸の奥がハッとするように揺れた

 瞬と、漫才グループを見比べる


 僕が、大学で二人と出会った時

 僕たちが、葵と出会った時

 その時と、同じ感覚


 懐かしくて新鮮な、衝撃と安心

 間違いない


 あーっはっはっはっはっはっはー


 葵が大口開けて笑う

 僕は、そんな葵を目で追う

 そして、


 当たり前に、そこにいる存在に出会えた幸運

 いや、

 再開できた僥倖に


 この時はまだ、

 呆然とすることしか、できなかった

本作品では、挿絵並びに登場人物の肖像、ストーリーの漫画などを描いていただける方を募集致しております。プロアマ不問

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