第一話
本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。
○詩を読むように読んでいただきたい
○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい
このような勝手な願望からです
一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。
とりあえず、こちらの要求通り、ホテルは営業こそ続けてはいるが、人食いの森は閉鎖され、部屋を襲った男の情報が送られてきた
男は、五年前に雇われ、厨房で下働きをしていた
仕事は真面目にし、不平不満言うことなく昼夜働いていた
しかし、二年ほど前から様子がおかしくなり、遅刻や無断欠勤を繰り返すようになった
理由を尋ねると、サークル団体なのかボランティア団体なのか、はたまた何かの宗教団体なのか分からないが、とにかくそこに自分の居場所を見つけ、その活動に注力していたために仕事が疎かになったのだと言う
恐らく今回のことも、その団体に唆されてのことだろう
この男が何を言っているのか、全く分からない
我々の知らないところで、この男がホテルを巻き込んで、何か良からぬことを企て、あるいは団体に指示され行ったのだ
ホテル側は、何も関与していない
とのこと
自己保身のための、責任の集中化と擦り付け
どこの世界でも行われることだ
全ての責任をたった一人に押し付け、公開処刑を行うことで、問題解決をした気になれるのは、ある意味幸福なことだろう
このホテル側の話を全て信じろというのは無理な話だ
ため息をついて、森の閉鎖の継続と男の処遇について進言しておく
解雇なんてされたら、堪ったものではない
あの化け物を飼っているやつは、あの男だけではないだろうが、黒と分かっている人間をわざわざ野に放つのは危険過ぎる
また、あの男が化け物を作り、人食いの森を統治していたとは考えられない
ノルマを達成できなければ、食われる
男はそう言っていた
つまり、化け物を作ったやつはまた別にいて、あの男もまた、飼われていた
それがホテル側が言うところの団体なのかは不明だが、失態を犯した男をこのままにしてはおくとは考えにくい
森が閉鎖され、成り代わりの量産がストップされた状況で、やつ(ら)はどう手を打って来るだろう
人食いの森は、果たしてあの一箇所だけなのだろうか
他にもあんな森が存在し、ずっと前から、今でも稼働しているのだとしたら?
全人類を総入れ替えでもする気か?
そうしたところでどうなる?
成り代わり同士は、互いをどう認識している?
今まで街ですれ違う人に、化け物が紛れていなかったのは、ただの偶然か?
化け物を認識した今だからこそ、見えるようになったのだろうか
疑問ばかりが際限なく浮かんでくる中、俺たち四人は現在、各自情報収集し、その内容を日々交換し合いながら共同生活を送っている
ママとオーナーには、悠のボロアパートの窓と床が壊れ、修復に時間がかかるので、それまでの間うちに住まわせると説明した
春樹はバーター
どこまでも仲良しねぇ
と、ママは呆れ、
若さだねぇ
と、オーナーは豪快に笑った
一人で行動しない
守護霊を常に憑依させておく
この対策が功を奏したのか、そもそも俺たちに追手などなかったのかは断定できないが、この一週間、何事もなく時間は流れた
その間に、進展したことがもう一つ
国家公安委員会特別対策係
ここに葵が、仕事の関係者を頼ってアポイントを取ることに成功した
悪魔の農道事件を解決に導いた霊能者に、調査依頼をしたいと申し出た結果、無事に承諾されたらしい
調査結果はまとまり次第、例の霊能者から葵に直接連絡が行く、ということだった
明日ね、S県の仕事終わりに、あのホテルに行きたいんだ
葵の唐突な発言に、夕飯が始まって間もなくだった俺たちは、全員もれなく度肝を抜かれた
春樹はかぼちゃの煮つけを思い切り喉に詰まらせ、悠は味噌汁を吹き出し、俺はぶり大根でむせ返った
お、おめー
せっかくここまで何事もなく来てんのにさ
わざわざ自分から、危険に晒されに行ってどーすんだよ?
霊能者の調査結果、待ってりゃ良いだろ?
珍しくまともな悠の意見
何か、そこに行かなきゃならない理由があるんだよね?
最もな春樹の意見
葵は控えめに頷く
しろやびびちゃんにね、パトロールしてもらってるんだけど、去年からずっと続いていた変な感じがね、ここ最近、一層強くなったるみたいなんだ
それがホテルの方からしてるってこと?
春樹が、何か納得するような表情になる
去年、葵があっちとこっちの世界の境界線が曖昧になっている、という話をしたのも、この人食いの森が出来てすぐだった
恐らく、あの時には、もう既に
変な感じはね、ホテルに限ったことではないんだけど
でも、多分
あの森が、閉鎖されたからなんだと思う
葵は、少し思いつめたように、短く息を吐いた
たくさん、いるみたいなの
助けてって訴えてる子たちが
その言葉に
キン、と部屋の空気が凍った
俺たちは氷漬けにでもされたように、動けなくなる
葵の、言葉の意味を理解するのと同時に、自分たちが相手としようとしているやつ(ら)の異常性を、今さらのように再認識したからだ
あの、ホテルでは
あるいは、あの森と繋がる別の場所では、何らかの方法で化け物が作られ、日々人間を食わせることで成り代わりを生み出している
それがストップした今、行き場を失った霊たちがうじゃうじゃと現れ始めた、ということは
その霊たちは
成り代わりになれなかった化け物の成れの果て
もしくは、化け物を生み出していたもの
このいずれかである可能性が高い
そして、その霊たちを、葵は助けたがっている
鎮魂、によって
その子たちの話を聞けば、人食いのことだとか、もっと詳しく分かると思うんだ
食べられた人を助ける方法の手がかりも、見つかるしれない
葵は、悠、春樹の顔を順に見た後、最後に俺と目を合わせた
何となく、か?
俺の問いに、葵は困ったように微笑む
首を回す
指を鳴らす
頭を掻く
ため息をつく
悠、春樹
明日夕飯、頼めるか?
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