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取り憑かれて  作者: 恵 家里
第十四幕 守護と変化
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第一話

本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。


○詩を読むように読んでいただきたい

○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい


このような勝手な願望からです

一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。

 とりあえず、こちらの要求通り、ホテルは営業こそ続けてはいるが、人食いの森は閉鎖され、部屋を襲った男の情報が送られてきた


 男は、五年前に雇われ、厨房で下働きをしていた

 仕事は真面目にし、不平不満言うことなく昼夜働いていた

 しかし、二年ほど前から様子がおかしくなり、遅刻や無断欠勤を繰り返すようになった

 理由を尋ねると、サークル団体なのかボランティア団体なのか、はたまた何かの宗教団体なのか分からないが、とにかくそこに自分の居場所を見つけ、その活動に注力していたために仕事が疎かになったのだと言う

 恐らく今回のことも、その団体に唆されてのことだろう

 この男が何を言っているのか、全く分からない

 我々の知らないところで、この男がホテルを巻き込んで、何か良からぬことを企て、あるいは団体に指示され行ったのだ

 ホテル側は、何も関与していない


 とのこと


 自己保身のための、責任の集中化と擦り付け


 どこの世界でも行われることだ

 全ての責任をたった一人に押し付け、公開処刑を行うことで、問題解決をした気になれるのは、ある意味幸福なことだろう


 このホテル側の話を全て信じろというのは無理な話だ

 ため息をついて、森の閉鎖の継続と男の処遇について進言しておく

 解雇なんてされたら、堪ったものではない

 あの化け物を飼っているやつは、あの男だけではないだろうが、黒と分かっている人間をわざわざ野に放つのは危険過ぎる

 また、あの男が化け物を作り、人食いの森を統治していたとは考えられない

 ノルマを達成できなければ、食われる

 男はそう言っていた

 つまり、化け物を作ったやつはまた別にいて、あの男もまた、飼われていた

 それがホテル側が言うところの団体なのかは不明だが、失態を犯した男をこのままにしてはおくとは考えにくい

 森が閉鎖され、成り代わりの量産がストップされた状況で、やつ(ら)はどう手を打って来るだろう

 人食いの森は、果たしてあの一箇所だけなのだろうか

 他にもあんな森が存在し、ずっと前から、今でも稼働しているのだとしたら?

 全人類を総入れ替えでもする気か?

 そうしたところでどうなる?

 成り代わり同士は、互いをどう認識している?

 今まで街ですれ違う人に、化け物が紛れていなかったのは、ただの偶然か?

 化け物を認識した今だからこそ、見えるようになったのだろうか


 疑問ばかりが際限なく浮かんでくる中、俺たち四人は現在、各自情報収集し、その内容を日々交換し合いながら共同生活を送っている

 ママとオーナーには、悠のボロアパートの窓と床が壊れ、修復に時間がかかるので、それまでの間うちに住まわせると説明した

 春樹はバーター


 どこまでも仲良しねぇ


 と、ママは呆れ、


 若さだねぇ


 と、オーナーは豪快に笑った


 一人で行動しない

 守護霊を常に憑依させておく


 この対策が功を奏したのか、そもそも俺たちに追手などなかったのかは断定できないが、この一週間、何事もなく時間は流れた

 その間に、進展したことがもう一つ


 国家公安委員会特別対策係


 ここに葵が、仕事の関係者を頼ってアポイントを取ることに成功した

 悪魔の農道事件を解決に導いた霊能者に、調査依頼をしたいと申し出た結果、無事に承諾されたらしい

 調査結果はまとまり次第、例の霊能者から葵に直接連絡が行く、ということだった


 明日ね、S県の仕事終わりに、あのホテルに行きたいんだ


 葵の唐突な発言に、夕飯が始まって間もなくだった俺たちは、全員もれなく度肝を抜かれた

 春樹はかぼちゃの煮つけを思い切り喉に詰まらせ、悠は味噌汁を吹き出し、俺はぶり大根でむせ返った


 お、おめー

 せっかくここまで何事もなく来てんのにさ

 わざわざ自分から、危険に晒されに行ってどーすんだよ?

 霊能者の調査結果、待ってりゃ良いだろ?


 珍しくまともな悠の意見


 何か、そこに行かなきゃならない理由があるんだよね?


 最もな春樹の意見

 葵は控えめに頷く


 しろ(・・)びび(・・)ちゃんにね、パトロールしてもらってるんだけど、去年からずっと続いていた変な感じがね、ここ最近、一層強くなったるみたいなんだ


 それがホテルの方からしてるってこと?


 春樹が、何か納得するような表情になる

 去年、葵があっちとこっちの世界の境界線が曖昧になっている、という話をしたのも、この人食いの森が出来てすぐだった


 恐らく、あの時には、もう既に


 変な感じはね、ホテルに限ったことではないんだけど

 でも、多分

 あの森が、閉鎖されたからなんだと思う


 葵は、少し思いつめたように、短く息を吐いた


 たくさん、いるみたいなの

 助けてって訴えてる子たちが


 その言葉に

 キン、と部屋の空気が凍った

 俺たちは氷漬けにでもされたように、動けなくなる

 葵の、言葉の意味を理解するのと同時に、自分たちが相手としようとしているやつ(ら)の異常性を、今さらのように再認識したからだ


 あの、ホテルでは

 あるいは、あの森と繋がる別の場所では、何らかの方法で化け物が作られ、日々人間を食わせることで成り代わりを生み出している

 それがストップした今、行き場を失った霊たちがうじゃうじゃと現れ始めた、ということは


 その霊たちは

 成り代わりになれなかった化け物の成れの果て

 もしくは、化け物を生み出していたもの

 このいずれかである可能性が高い

 そして、その霊たちを、葵は助けたがっている

 鎮魂、によって


 その子たちの話を聞けば、人食いのことだとか、もっと詳しく分かると思うんだ

 食べられた人を助ける方法の手がかりも、見つかるしれない


 葵は、悠、春樹の顔を順に見た後、最後に俺と目を合わせた


 何となく、か?


 俺の問いに、葵は困ったように微笑む


 首を回す

 指を鳴らす

 頭を掻く

 ため息をつく


 悠、春樹

 明日夕飯、頼めるか?

本作品では、挿絵並びに登場人物の肖像、ストーリーの漫画などを描いていただける方を募集致しております。プロアマ不問

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