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取り憑かれて  作者: 恵 家里
第十三幕 共感と守護
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第七話 後編

本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。


○詩を読むように読んでいただきたい

○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい


このような勝手な願望からです

一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。

 日の出だ


 朝の澄んだ空気を、何の障害もなく透過した光

 それを受けた化け物たちは、それこそ日の下に晒された影のように、瞬く間もなく消えていった

 瞬は、その光の恩恵を存分に受けるように、およそ人外な力で壁を蹴り、空中で身体を捻り、一回転して美しすぎるほどに着地した

 りゅう(・・・)が瞬の身体の周りで、神楽を舞っている

 ため息が出た


 おめー今度のオリンピック出とけ

 飛込でも体操でもいいから

 二冠狙いもありだ

 霊ってドーピングに引っかかんねーよな?


 小学生が考えそうなことに無駄に頭を使っていると、宙を舞っていたあい(・・)ちゃんが、急にその動きを止めた

 どうしたのかと見上げた途端、身体が稲妻のように落下した

 内臓と絶叫が口から飛び出す寸前、

 全身複雑骨折を覚悟した間際、

 身体がふわりと持ち上がった

 歩くよりもずっと柔らかい衝撃で、地面に下り立つ


 ジェットコースター、嫌いになりそう


 冷たい汗を拭いながら、内臓と呼吸を元の状態に戻した

 春樹は?


 いた

 建物の壁や木の幹から伸びた光る糸

 それが春樹の下で網目状に絡み合い、ちょうどそのハンモックにもたれかかるようにして、春樹はいた

 身体にはぎん(・・)が巻き付いているので、恐らく無事だろう

 瞬が駆け寄って春樹を起こす

 オレはそれを横目で確認しながら、ホテルの出入口に走った

 当然、靴は履いていないが、それを取りに戻るためではない


 葵


 葵はまだ男と一緒だ

 化け物がまだ残っていたら?

 あの男は、葵を化け物に食わせるような口ぶりだった

 朝日にやられて、みんな消えたとは限らない

 消えてたとしても、包丁を持った男が半狂乱で何をしでかすか分かったもんじゃない

 そもそもで半分以上狂ってたし

 それに、葵はオレたちを助けるために、また守護霊を一気に解放した

 ずっと首を締め上げられて朦朧としていたはずなのに、そんなことをしてしまったら

 ちょっと意識が飛ぶくらいで済むはずがない


 エントランスにいた客や従業員が、何事かという表情で見てくるが、構ってなんかいられない

 二つのエレベーターのドアが閉まり、上昇していくのを確認する

 階段へ向かう

 駆け上がる

 駆け上が


 いや、これってほぼ飛んでんな

 一踏みで、十数段ある階段を飛び越えた

 重力を感じない

 身体が綿のように軽い

 地面を掴んだ足の指一本一本に、血液が巡るのが分かる

 靴下の繊維の流れを感じる

 その下にくっついた全ての砂粒の位置が見える


 うん

 オレもオリンピック出るわ

 走り幅跳びでも三段跳びでもいいから

 二冠狙いもありだ

 霊はドーピングになりません


 あっという間に五階に到着し、部屋の位置を確認した

 二〇メートル程離れた廊下の壁に、小さく書かれた部屋番号が、拡大コピーされて視界に飛び込んできた

 視力のギネス記録も狙えそうだな

 文字通りオレは飛ぶようにして、葵を残してきた部屋に駆け込んだ


 葵


 葵は仰向けで倒れていた

 化け物の姿はない

 割れた窓ガラスから、柔らかな光と澄んだ空気が部屋いっぱいに降り注いでいた

 そのそばで、あの男も泡を吹いて失神している

 包丁も床に落ちていた

 血痕はない

 何度も名前を呼びながら、葵を抱き起こす

 瞬と春樹もすぐに部屋に到着し、三人で葵を囲むようにしゃがんだ


 葵


 瞬が葵の肩を揺する

 ん、と少し呻いて、葵は薄目を開けた

 ホッとしたのも束の間、いたっ、と葵は眉をしかめる

 心臓が氷水に投げ込まれたように縮み上がった

 その後、ものすごいスピードで脈打ち始める


 どうした?

 怪我したのか?


 瞬の問いに、葵は眉をしかめたまま答えた


 びび(・・)ちゃんに取り憑いてもらってね、脅かしたの

 突き飛ばされちゃって、テーブルの角に、

 後頭部を強打した、

 ものと、思われます


 言葉の意味を飲み込むのに数秒要した

 笑ってしまった

 なるほど

 男が泡吹いている理由も分かった

 オレなら間違いなくチビってる

 葵の頭を、瞬が撫でた


 でっけぇタンコブ


 やはり、何の解釈も入れない言葉だったが、全員が漏れなく吹き出した


 みんなは?

 怪我とか、大丈夫?


 いつもの、柔らかな笑顔に、胸がいっぱいになった

 朝日が差し込んだ時みてーに、全身がぽかぽかとする


 問題ねぇ


 大丈夫だよ

 びっくりしたけど


 二人の返答に、葵は虹がかかったような笑顔を見せた後、オレに目を向けた

 オレは


 謝らなきゃって思った


 結婚して初めての年越し

 瞬の言う通り、二人でゆっくり家で過ごしてれば良かったんだ

 そうすれば、こんな怖い目にも遭わずに済んだ

 おめーが誕生日会やりたいっていうの聞いて、オレは、まずはおめーに、サイコーの誕生日を祝ってやりたかった

 夢みてーに楽しくて、一生忘れられないような思い出を作ってやりたかった

 それが、このザマだ


 口を開いた瞬間、空気を切り裂くような北風が頬を突いた

 目を瞑り、もう一度開ける

 葵を見る

 その両の瞳は、更に輝きを増しているようだった


 悠さん


 葵は心配そうに、それでいて全てを分かったように笑った


 あなたは、何にも悪くないよ


 せっかく開いた口から、言葉が、出なくなった

 諦めて口を閉じる


 まただ

 心臓がイカれちまってる


 葵

 知ってるか?

 心臓って一つしかねーんだぞ

 どうしてくれんだよ


 葵の頭にそっと手を回し、胸に引き寄せた

 規則的で、穏やかで、何よりも力強い鼓動を求める


 葵


 オレは


 おめー専用の心臓がほしいよ

本作品では、挿絵並びに登場人物の肖像、ストーリーの漫画などを描いていただける方を募集致しております。プロアマ不問

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