第五話 後編
本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。
○詩を読むように読んでいただきたい
○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい
このような勝手な願望からです
一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。
おめーら大丈夫か?
怪我は?
ホッと息を吐いた悠が、僕らに聞いてきた
僕は大丈夫
瞬は?
ああ
取っ捕まった時は焦ったがな
何とかなるもんだ
軽い
瞬が冷静なのはいつものことなんだけど、軽い
おめーいつの間に、りゅうと仲良くなったんだよ?
オレもちゃんと見たのは初めてだったけど
りゅう?
悠の言葉に、瞬は眉を軽く上げた
その一方で僕は、釈然として頷いた
そうだ
真紅の竜の正体
いつも寝てばかりいて、ちっとも姿を現さないりゅうだ
いざという時頼りになる、と葵は言っていたけど
本当に、そうだった
いざという時
っていうのが、瞬の性格とも合致したのかもしれないな
そんな単純な話ってわけがないんだけど
なんだ、気づいてなかったのかよ
おめーがあのバケモンと戦ってる時さ、憑いててくれてたんだよ
りゅうが
悠の説明に、眉間のシワを伸ばしきれずにいる瞬
真っ赤な竜の、葵の守護霊だよ
瞬に取り憑いて、一緒に戦ってるみたいだった
息ぴったりって感じだったから、特訓でもしてたのかなーって
僕も説明を加えたが、瞬の表情は大した変化を見せなかった
独り言のように呟く
いや、してねぇ
どうりで、世界新記録を連発できたわけだ
世界新記録どころじゃないよ
完全にゲームの世界の動きだったって
とぼける様子も、自己評価を上げにかかることもしない瞬に、僕は込み上げてくる笑いを堪えるのに必死だった
悠が後を継ぐ
生身の人間が、垂直飛びで五メートル飛べるかっての
垂直飛びの世界記録は?
一二二センチメートル、だったはず
ボックスジャンプでは一六〇センチメートル超
な?
せいぜいそんなもんだって
空中の待機時間もおかしかっただろ?
おめーだけ重力かかってねーみてーで
木の幹を走ってたもんね
瞬はフッと息を吐くと
火事場の馬鹿力では、なかったんだな
と、残念そうに呟いた
ずっと笑いを堪えていた悠と僕は、吹き出すしかない
とにかくまぁ、お陰で助かったわけだ
マジで、やべーなんてもんじゃねーよ、ここ
みんなが出てきてくれなかったらマジでやばかった
サーベルタイガーの霊はりりという、普段はゴロゴロ寝てばかりのトラ猫だった
灰色の鴉はしろ
みんな戦闘モードになると、元の姿が分からなくなる程に、獰猛化、凶暴化、巨大化していた
ああやって、葵に近づいてきた悪霊は退散させてたのかな、と思うと、悪霊に同情すら覚えてしまった
葵
悠が呼びかけた
葵は静かに眠っている
葵に、また無茶させちまった
悠の声色と表情が、明らかに暗くなった
僕は、何か言わねばと口を開く
が、瞬の方が早かった
戻るぞ
風邪、引かせちまう
瞬が葵を抱えようとすると、
オレが背負う
と、悠が目を伏せたまま言った
瞬は僕と一度、顔を見合わせると、
頼む
と言って、悠の背中に葵を預けた
悠を真ん中に、僕らは並んで歩いた
会話は、なかった
みんな、今起きたことを、自分の中で整理するだけで、精一杯だったんだと思う
少なくとも僕は、次々と浮かび上がっては大きく膨れていく疑問の数々で、頭が弾け飛びそうだった
ホテルはこの事実を知っている?
知っていて見ぬふりを?
化け物に人を食わせて何をしようとしている?
なぜ事件にならない?
失踪した人の家族は?
ホテルに、今日起きたことを言うべき?
自己責任だって言って済む話じゃないよ
人食いの犠牲者は、たくさんいて、これからも増え続けるかもしれないのに
疑問と不安が熱を持ち、血液に乗って全身に巡る
背中だけが、じっとりと冷えて重たい
指先が、痺れたように震えている
お腹に大きな穴を開けられたようだ
喉が渇く
飲み込んだ唾が、タールのように首に張り付いた
心臓がサンドバッグにされ、その衝撃が目元まで響いて、眼球がこぼれ落ちそうだ
頭では、早くも除夜の鐘が鳴っている
一つ、二つ
一〇八までは、とても耐えられそうにない
でも
身体のあちこちから沸き起こるアラートに耐えながら、隣を歩く悠を見やる
後悔と自責の念が抑えきれず、震える白い息とともに、口から漏れ出ているのが分かった
わりー
こんな所に、みんなを連れてきちまって
歯を食いしばるように、悠が声を絞り出した
僕は、
いや、僕らは、
そんな悠の頭を、両側から小突く
お前がトラブル拾ってくんのは
いつものことでしょ?
悠は葵を背負っているため、小突かれた頭を擦ることも出来ず、いってーと不服そうな声を漏らした
しかし、その表情に、少しだけ安心が加わったような、柔らかさが戻る
悠は葵を背負い直すと、顔を上げた
おめーらがそんなだから、
懲りねーんだよ
瞬と二人同時に吹き出して、声を揃える
同感
前を向いて、僕たちは並んで歩く
真ん中は、いつも悠だ
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