第五話 前編
本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。
○詩を読むように読んでいただきたい
○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい
このような勝手な願望からです
一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。
ブチブチブチブチブチブチ
化け物の触角が食いちぎられた
突然現れた、白い影によって
それは森の中に飛び込み、触角のなくなった化け物の頭を咥え、振り回し、噛み砕いた
ぎん
ぎんが見たこともないような怖ろしい形相で、普段の大きさの何倍にも巨大化して、化け物を蹴散らしている
ぎんだけではない
悠のそばでは五メートルを超えるサーベルタイガーのような霊が、化け物を引き裂いては踏みつけていた
瞬の前には、ルビーのような赤い竜
真紅の竜が、その長い身体をしならせて、化け物を次々となぎ払っている
その勇猛果敢な霊たちに、僕は呆然と見惚れてしまった
すると不意に、身体をものすごい力で引っ張られる
お腹に腕を回されて、取り込まれた洗濯物のように持ち上げられてた
うおっ
すぐ上で悠の声がした
声の方を見ると、悠もやはり洗濯物のようにぶら下がっている
葵
隣から瞬の声
これでやっと僕は、自分の状況を理解することができた
葵が、僕たち三人を抱えて、ものすごい速さで森を駆け抜けているのだ
葵
葵、止まれ
自分で走る
瞬が焦ったように怒鳴っている
が、葵は全く聞こえていないようだ
スピードが緩んだ時、そこはもう森の入口、フェンスの前だった
そっと手が話され、地面に下りる
葵
急いで立ち上がり、振り返った
葵の顔を見て、思わず総毛立つ
顔中に細かい白い鱗と黄金の毛並みが斑に生えていた
それは一刻ごとに、その位置を変化させている
それだけではない
目の位置も、前だったり少し離れたところだったり、細かったり丸かったりと定まっていない
びびちゃんとかいちゃんの二体を憑依させているからと分かるまで、たっぷり数十秒を要した
二つの霊が混じらずにそれぞれ独立して、葵に深く取り憑いている状態、そう悟った
相手がどんな姿であれ、正体が分かると恐怖心や嫌悪感は一気に減退する
葵は、蛇と鹿の両方の特性や能力を発揮させることで、あの化け物の集団から、僕たちを脱出させてくれた
憑依させる力も強くなったという、鎮魂について説明してくれた瞬の言葉を思い出した
シャーバゥシーカカッゴフッ
葵が森を睨みながら、言葉を発した
かいちゃんだけを憑依させている時は、ちゃんと人語を喋ってたけど、二体同時だと、それがうまくいかないらしい
森を見たが、化け物の姿はない
葵は、何か伝えようとしている?
葵、何を伝えたいの?
葵の額に、僕の額を当てる
この行動に、確信があったわけではなかった
ただ、葵が僕たちに取り憑いた霊と話しているように、こうすれば、葵が何を言おうとしているのか分かる、そう思ったから
でも、そうはならなかった
葵の額に触れた瞬間、びびちゃんとかいちゃんが、ものすごい勢いで僕に襲いかかってくる映像が、頭の中に流れ込んできた
うわっと短く叫んで、葵から頭を離す
葵の顔は、元に戻っていた
憑依が、解けた?
葵はそのままぐったりと、僕にもたれかかった
呼吸が荒い
すごく、苦しそうだ
しまった
僕は、自分の軽率さを呪わずにはいられなかった
大の男三人も抱えたまま走ることができたのは、びびちゃんとかいちゃんを憑依させていたお陰だ
でも、使っているのは葵の身体
限界を超えた動きをして、身体が悲鳴を上げないわけがない
それにさっき、化け物から僕たちを守るために、守護霊を一気に解放している
僕が憑依を解いてしまったせいで、葵にその負担が一気にのしかかった
今、すべきではなかった
せめて、この森から脱出してから憑依は解くべきだったのに
春樹、フェンス登って外に出ろ
急げ
自責と後悔で呆然としていた僕に、瞬が怒鳴った
外から扉開けんだよ
葵、そっから出すぞ
悠は既に、半分ほどフェンスを登っている
二人の機転の速さに驚きながら、自分の不甲斐なさに泣きたくなった
でも、そんなことをしている場合ではない
葵を瞬に預けて、フェンスに手をかけた
が、視界の端に、あの黒いシルエットが映り込む
思わず焦点を、それに合わせてしまった
瞬、後ろ
森から、あの化け物が現れ始めていた
追いついてきた?
それとも、新たに出現した?
だとすると、一体どれだけの数がいるんだ?
春樹、葵頼む
瞬が僕を呼び戻した
見えるってことは、殴れるってことだろ?
そ、そうなのかな?
瞬の喧嘩相手は、ここ最近、人間の枠組みから大きく外れてきているな
って、瞬にも見えてる?
さっき葵の守護霊たちは、この化け物を食いちぎっていた
だから、勝手に霊に近い存在なのかなって思ってたけど
でも、あの触角は僕たちを捕まえようとしていた
向こうが触れられるなら、僕らの方から触りにいくことも可能、ってことになるのかな
そんなことを考えているうちに、一体の化け物の触角が瞬に向かって伸びる
瞬は造作も無いといった様子で、それ掴み、思い切り自分の方に引っ張った
化け物が森から引きずり出され、フェンスの影が写る地面に叩きつけられる
ように見えた
化け物は、地面に触れるか触れないかというところで、文字通り、光の下に晒された影のように消えてしまったのだ
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