第三話 後編
本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。
○詩を読むように読んでいただきたい
○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい
このような勝手な願望からです
一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。
失礼します
お辞儀をした体勢を更に低くしていき、隠し扉から中に入る
手をほろって様子を伺う
虫や鳥の鳴き声もしない
静かなものだ
やっぱり夜にならないと、仕掛けは動かないのだろう
何か起こることを、少しは期待してたんだけど
大きく白い息を吐き出して、元の隠し扉から出ようとした
が、ぴったりと塀にはめ込まれた扉は、中から開くことができない
一瞬焦ったが、外から押し開けてもらって無事脱出できた
つまり、だ
行きは隠し扉から、帰りはフェンスをよじ登って出るってことか?
他に出口らしきものはなかったはず
それか誰か一人をここに待機させておいて、いつでも外から開けてもらえるようにしねーとってことか?
頭を捻っていると、
お前ら、これ、どう思う?
そう瞬が、神妙な顔つきで聞いてきた
オレは当然とばかりに答える
下見来て正解だったなー
夜だったら方向感覚狂うだろうし、この隠し扉しか入口ないって思い込んでたらさ、出られねーってぜってー焦ってた
うん
隠し扉、見つけて入ったは良いけど、中から開かないって夜に分かったら、パニックだよね
夜になったら人食いの仕掛けが動くんだろ?
こりゃーマジでビビるぜ
興奮気味に、オレと春樹と頷き合った
すると瞬は、あからさまに呆れたようにため息をつく
お気楽だな、お前ら
オレたちのテンションが爆上がりしている中、瞬の反応は、まぁいつも通り、ではある
しかし、見ると葵の表情までも暗い
いつもはニコニコ保護者みてーに、オレたちのこと見てるのに
葵、どした?
葵は、うーん、と少し逡巡すると、塀を見上げて口を開いた
お客様の安全確認のため、なんだろうけど
その視線の先には、手のひらサイズの直方体があった
寒空の下、氷のような日差しを受けて、凶器のように黒光りしている
あれって
監視カメラ、だよね?
ほら、森の中の木にも付いてる
葵の言葉通り、フェンス越しに見える森、その手前の木の枝にも、同じように鈍い輝きを放つ人工物が見えた
レンズは、こちらを向いている
悠さんや春樹さんの言う通り、夜になるのを待って初めてここに来たら、この仕掛けにほとんどの人はパニックになるよ
この、人食いの森?面白いってみんな満足してるんだよね?
中にどんな仕掛けがあるのか分からないけれど、あたしなら怖くて、もう二度と来たくないって思っちゃいそう
葵は、そう言って白い息を吐き出した
あのカメラで様子を確認して、パニックになる前に助けに来てくれるのかな?
葵の言葉に、オレと春樹は暫く絶句した
この森は当然、ホテルが管理している
つまり、完全に安全が保証されている
だからこそ、人間は恐怖を楽しむことが出来るのだ
オレたちは下見して、隠し扉が中からは開かないこと、よじ登ることができそうなフェンスがあるのは、ここだけだということを知ることができた
だから、中で何が起きようとも、このフェンスまで戻って来れば良い
そう考えて夜に臨むことができる
でも、下見しないほとんどの客はどうだろうか
葵の言う通り、多少のパニックは必須だ
少なくとも、今得られる情報からでは、人食いの森についての評価に、疑問や矛盾を感じずにはいられない
葵の顔が浮かないのは、当然だった
でも
でも、だ
オレは湧き上がった不安を、振り払おうと必死になった
せっかく四人で来た温泉宿
人間が作ったお化けなんて、オレにとってはエンターテイメント以外の何者でもない
別に女の子が、キャーキャー言ってるのを見たいわけではない
本物を知っているのだと、作り物を卑下しているわけでもない
本物には本物の怖さがあるし、作り物には作り物の怖さがある
視覚、聴覚、時に嗅覚や触覚にすら訴えてくる計算された恐怖
それをしっかりと引き出された後で訪れる、解放感
ホラー映画の鑑賞を楽しむように、それを体感するのもオレは同じように楽しめた
楽しみたかった
遅刻してきた言い訳をする子どものように、オレは葵に答えた
オレが思うにさ、中に出口があるんだと思うんだ
それがホテルに繋がってる秘密通路でさ
森の中は迷わないように、夜はイルミネーションがついてさ、みんなそこへ向かって恐る恐る行くわけ
秘密通路に行ったらホテルの人が、お疲れ様でしたーって、このことは口外厳禁ですって言ってさ
この中に閉じ込められるってことはないと思うぜ?
ほとんどオレの経験則からの願望だ
人口的な心霊スポット、お化け屋敷なんてこんなもんだっていう、ただの憶測
もちろんこれは、ほとんど全体像が見えない人食いの森に対する、不気味な違和感を払拭する根拠になるものでは、決してなかったのだけれど
葵、この森、なにか良くない霊とかいるのかな?
春樹が心配そうに聞く
ううん、何にもいないよ
そこは大丈夫
ごめんね、せっかくの楽しみ、壊すようなこと言って
悠さんの言う通り、入ってみたらいろいろ楽しめる仕掛けが、夜になったら動き出すのかもしれないね
いつの間にか、空が薄暗い
森から不気味さを分けてもらったかのように、妖しく、冷たく、静かに浮かんでいる
そろそろ部屋に戻って夕飯の時間だ
三人に号令をかける
完全に暗くなったら、もう一度ここへ来て、しっかりスリルを味わった後で、もっかい温泉に入って二次会といこう
そこで、ここが怖かったとか、あそこがヤバかったとか、四人でわいわい語るんだ
オレがフザケて
春樹がノッてきて
瞬が
瞬?
見ると、オレの少し後ろを歩く瞬は、さっきからずっと浮かない顔をしたままだ
まぁこいつの場合、こういう顔がノーマル状態ではあるのだけれど
何かやっぱ気になんのか?
あの森
瞬はチラッとオレを見ると、小さくため息をついた
別に、気になるってほどではない
ただ、
ただ?
責任は負わねぇとか言っておいて、森に面白おかしく入って行っては慌てふためく人間を、監視カメラで毎晩見てるやつがいるんだと思うとな
既に二〇メートル以上、森からは離れていたはずなのに、急に背中に何かが張り付くような気配を感じた
誰のものか分からない、人間のものかどうかも分からない息遣いが、耳元で聞こえた気がした
血なまぐさい臭いが、鼻についた
独り言のような瞬の言葉が、やたらはっきりと聞こえる
相当、趣味わりぃって
本作品では、挿絵並びに登場人物の肖像、ストーリーの漫画などを描いていただける方を募集致しております。プロアマ不問
次回、明日投稿予定




