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取り憑かれて  作者: 恵 家里
第十三幕 共感と守護
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第三話 後編

本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。


○詩を読むように読んでいただきたい

○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい


このような勝手な願望からです

一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。

 失礼します


 お辞儀をした体勢を更に低くしていき、隠し扉から中に入る

 手をほろって様子を伺う

 虫や鳥の鳴き声もしない

 静かなものだ

 やっぱり夜にならないと、仕掛けは動かないのだろう

 何か起こることを、少しは期待してたんだけど


 大きく白い息を吐き出して、元の隠し扉から出ようとした

 が、ぴったりと塀にはめ込まれた扉は、中から開くことができない

 一瞬焦ったが、外から押し開けてもらって無事脱出できた


 つまり、だ


 行きは隠し扉から、帰りはフェンスをよじ登って出るってことか?

 他に出口らしきものはなかったはず

 それか誰か一人をここに待機させておいて、いつでも外から開けてもらえるようにしねーとってことか?

 頭を捻っていると、


 お前ら、これ、どう思う?


 そう瞬が、神妙な顔つきで聞いてきた

 オレは当然とばかりに答える


 下見来て正解だったなー

 夜だったら方向感覚狂うだろうし、この隠し扉しか入口ないって思い込んでたらさ、出られねーってぜってー焦ってた


 うん

 隠し扉、見つけて入ったは良いけど、中から開かないって夜に分かったら、パニックだよね


 夜になったら人食いの仕掛けが動くんだろ?

 こりゃーマジでビビるぜ


 興奮気味に、オレと春樹と頷き合った

 すると瞬は、あからさまに呆れたようにため息をつく


 お気楽だな、お前ら


 オレたちのテンションが爆上がりしている中、瞬の反応は、まぁいつも通り、ではある

 しかし、見ると葵の表情までも暗い

 いつもはニコニコ保護者みてーに、オレたちのこと見てるのに


 葵、どした?


 葵は、うーん、と少し逡巡すると、塀を見上げて口を開いた


 お客様の安全確認のため、なんだろうけど


 その視線の先には、手のひらサイズの直方体があった

 寒空の下、氷のような日差しを受けて、凶器のように黒光りしている


 あれって


 監視カメラ、だよね?

 ほら、森の中の木にも付いてる


 葵の言葉通り、フェンス越しに見える森、その手前の木の枝にも、同じように鈍い輝きを放つ人工物が見えた

 レンズは、こちらを向いている


 悠さんや春樹さんの言う通り、夜になるのを待って初めてここに来たら、この仕掛けにほとんどの人はパニックになるよ

 この、人食いの森?面白いってみんな満足してるんだよね?

 中にどんな仕掛けがあるのか分からないけれど、あたしなら怖くて、もう二度と来たくないって思っちゃいそう


 葵は、そう言って白い息を吐き出した


 あのカメラで様子を確認して、パニックになる前に助けに来てくれるのかな?


 葵の言葉に、オレと春樹は暫く絶句した

 この森は当然、ホテルが管理している

 つまり、完全に安全が保証されている

 だからこそ、人間は恐怖を楽しむことが出来るのだ

 オレたちは下見して、隠し扉が中からは開かないこと、よじ登ることができそうなフェンスがあるのは、ここだけだということを知ることができた

 だから、中で何が起きようとも、このフェンスまで戻って来れば良い

 そう考えて夜に臨むことができる

 でも、下見しないほとんどの客はどうだろうか

 葵の言う通り、多少のパニックは必須だ

 少なくとも、今得られる情報からでは、人食いの森についての評価に、疑問や矛盾を感じずにはいられない

 葵の顔が浮かないのは、当然だった


 でも


 でも、だ

 オレは湧き上がった不安を、振り払おうと必死になった

 せっかく四人で来た温泉宿

 人間が作ったお化けなんて、オレにとってはエンターテイメント以外の何者でもない

 別に女の子が、キャーキャー言ってるのを見たいわけではない

 本物を知っているのだと、作り物を卑下しているわけでもない

 本物には本物の怖さがあるし、作り物には作り物の怖さがある

 視覚、聴覚、時に嗅覚や触覚にすら訴えてくる計算された恐怖

 それをしっかりと引き出された後で訪れる、解放感

 ホラー映画の鑑賞を楽しむように、それを体感するのもオレは同じように楽しめた

 楽しみたかった

 遅刻してきた言い訳をする子どものように、オレは葵に答えた


 オレが思うにさ、中に出口があるんだと思うんだ

 それがホテルに繋がってる秘密通路でさ

 森の中は迷わないように、夜はイルミネーションがついてさ、みんなそこへ向かって恐る恐る行くわけ

 秘密通路に行ったらホテルの人が、お疲れ様でしたーって、このことは口外厳禁ですって言ってさ

 この中に閉じ込められるってことはないと思うぜ?


 ほとんどオレの経験則からの願望だ

 人口的な心霊スポット、お化け屋敷なんてこんなもんだっていう、ただの憶測

 もちろんこれは、ほとんど全体像が見えない人食いの森に対する、不気味な違和感を払拭する根拠になるものでは、決してなかったのだけれど


 葵、この森、なにか良くない霊とかいるのかな?


 春樹が心配そうに聞く


 ううん、何にもいないよ

 そこは大丈夫

 ごめんね、せっかくの楽しみ、壊すようなこと言って

 悠さんの言う通り、入ってみたらいろいろ楽しめる仕掛けが、夜になったら動き出すのかもしれないね


 いつの間にか、空が薄暗い

 森から不気味さを分けてもらったかのように、妖しく、冷たく、静かに浮かんでいる


 そろそろ部屋に戻って夕飯の時間だ

 三人に号令をかける

 完全に暗くなったら、もう一度ここへ来て、しっかりスリルを味わった後で、もっかい温泉に入って二次会といこう

 そこで、ここが怖かったとか、あそこがヤバかったとか、四人でわいわい語るんだ


 オレがフザケて

 春樹がノッてきて

 瞬が


 瞬?


 見ると、オレの少し後ろを歩く瞬は、さっきからずっと浮かない顔をしたままだ

 まぁこいつの場合、こういう顔がノーマル状態ではあるのだけれど


 何かやっぱ気になんのか?

 あの森


 瞬はチラッとオレを見ると、小さくため息をついた


 別に、気になるってほどではない

 ただ、


 ただ?


 責任は負わねぇとか言っておいて、森に面白おかしく入って行っては慌てふためく人間を、監視カメラで毎晩見てるやつがいるんだと思うとな


 既に二〇メートル以上、森からは離れていたはずなのに、急に背中に何かが張り付くような気配を感じた

 誰のものか分からない、人間のものかどうかも分からない息遣いが、耳元で聞こえた気がした

 血なまぐさい臭いが、鼻についた

 独り言のような瞬の言葉が、やたらはっきりと聞こえる


 相当、趣味わりぃって

本作品では、挿絵並びに登場人物の肖像、ストーリーの漫画などを描いていただける方を募集致しております。プロアマ不問


次回、明日投稿予定

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