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取り憑かれて  作者: 恵 家里
第十三幕 共感と守護
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第三話 中編

本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。


○詩を読むように読んでいただきたい

○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい


このような勝手な願望からです

一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。

 目的地、Uホテルに到着

 リニューアルされて、輝かんばかりのエントランス

 このオレが感心してしまうほどの、気配りの効いた丁寧なフロント対応

 さすが超人気老舗ホテル

 リピート客が絶えないわけだ

 予約はオレの名前で取ったので、三人に少し待ってもらって、オレが受付を済ませる

 自分の名前と住所を書きながら、にこやかに佇むフロント係に、そっと人食いの森のことを聞いてみた


 フロント係は、やはりにこやかに答える

 このホテルの裏には、確かに弊社が所有する人工林があり、観賞用に様々な植物を育てているということ

 しかし、人食いの森などというものでは決してないということ

 きっと、見たこともない姿の植物を見て、面白可笑しく噂を立てた人がいるのだということ

 そう懇切丁寧に説明してくれた


 オレは、とりあえず納得したような素振りを見せる

 が、行く気満々だという雰囲気を少しも隠そうとしないオレに、フロント係はにこやかな表情を消し去った

 オレに少し顔を近づけ、声をひそめる


 と、上から言うように言われております

 ここだけの話にしてください

 決して、あの森に足を踏み入れてはいけません

 世にも怖ろしい、人食いが夜な夜な現れます

 この忠告を冗談だと笑い、行ってしまわれた方々が、再びこの受付にいらっしゃることはありませんでした

 あの森は、我々の管理の外にあります

 いえ、もう人間が管理できるような世界ではありません

 繰り返しになりますが、決して、あの森に足を踏み入れてはいけませんよ

 あの森で起きたことは全て自己責任、当ホテルは一切の責任を負いかねます

 ゆめゆめ、お忘れ下さいませぬよう


 そう言って、フロント係はゆっくりと、これでもかと丁寧に頭を下げた

 つまり、だ 


 つーまーり


 オレが、ホテルの最上階である五階の部屋と、結論に達したのはほぼ同時だった


 サイコーに、こえーから行けってことだな


 ま、最初からそのために来たんだし

 本当に事故なんて起きていたら閉鎖してるだろ、ふつー


 荷物を置いて、奥にある壁一面の窓に近づく

 部屋からの眺めもサイコー

 普段は景色でしかない山々が、すぐ手に届くところに広がり、その木立の隙間から漏れ出る淡い光ですら、一本一本が丁寧に手作りされたジオラマのようだ

 こっち側はホテルの正面らしい

 十五メートルほど真下では、車が入れ替わり立ち替わり、停車と発進を繰り返している

 ここからでは、例の人食いの森は見えない

 ホテルの裏って言ってたな

 暗くなる前に下見しとかねーと

 葵に万が一、なんてことがあったら、人食いに食われる前に瞬に殺されちまう


 で

 やっぱり温泉宿に来たからには、長旅の疲れと冷えを取らねーことには始まらない

 案内を確認する

 温泉がある一階は、フロントと休憩室以外は大浴場で占められていて、露天風呂もあるようだ

 泉質とかはよく分かんねーけど、とにかく美人の湯だ

 葵が入っちまったら、それがどこの風呂だろうが美人の湯になっちまうんだけどさ


 設定温度の違う大浴槽、寝湯、打たせ湯、ジェットバス、泡風呂、電気風呂、檜の露天風呂、立ち湯、サウナも二種類

 全部入るには、身体が一つではとても足りない

 とりあえずジェットバスで心地良く揉みほぐされながら、湯に浸っている瞬と春樹を目で追う

 二人とも、低めの温度設定の風呂に、気持ち良さそうに浸っていた

 春樹はもともと(ぬる)めの湯が好きだし、家では割とカラスの行水族である瞬も、こういう所では気に入った湯を見つけて長く入る

 二人で何やら話しているのは、恐らく腰抜け風呂に最適な湯の温度についてなどであろう

 参戦すべく、二人が入る風呂にオレもお邪魔する

 ふと、瞬と葵の風呂事情が気になり始めたので、一緒に入っているのかと聞いてみた

 もちろん答えがイエスなら、その細かな情報を共有したいところだ

 瞬は有り難いことに、オレを頭のてっぺんまで美人にしてくれようとしたが、溺死という代償はあまりに重すぎたので、無念の途中リタイアとなった

 気を取り直して、檜風呂に浸かる


 おめえら、あの森が目当てで来たんだろ?

 やめろやめろやめろ

 あそこはやべえなんてもんじゃねえ

 ぜってえ後悔するから行くのはやめておけ

 生きて戻ってこれた人間なんて、いやしねえんだ


 常連客の(てい)で話しかけてきたおっさんがいた

 真っ赤な顔と大声で、人食いの森への誘導を行うのが使命なのだろう

 ゲームのモブキャラみてーに、風呂に入ってきた他の客にも同じことを、同じ顔と大声で繰り返している


 生きて戻って来た人間がいないのに、どうして事故や事件ではなく、人食いだと分かるのか問題

 わざとらしい設定の矛盾も、かえって期待感を持ち上げることに貢献してくれているようだ

 頭をタオルで拭く頃、オレたちの心身は、ともに最高の状態に温まっていた


 風呂から上がって、葵と合流し、そのままの足で外へ出る

 ホテルの裏に回ると、お(あつら)え向きに植物園まで四〇〇メートルという看板があった

 人の往来によって踏み固められた獣道を歩く

 この時期なので、引っかかるような背の高い草は生えていない

 太陽の時短営業の徹底ぶりのお陰で、外気に晒されている顔や手は、白い息を吐き出すたびに冷えていった

 しかし、コートの下で高鳴り続ける胸は、逆にどんどん熱を帯びていく


 園内で発生した事故等に、当ホテルは一切の責任を負いかねます

 ご覚悟をお持ちでない方は、立ち入りをご遠慮くださいませ


 実に丁寧にお入りくださいと言っている立札に、全員で顔を見合わせて笑う

 植物園という名の人食いの森は、二〇〇メートル四方くらいで、高さ三メートルほどのコンクリート塀で囲まれていた

 ホテルに一番近い塀の一部が、ネットフェンスになっていて、ここから中の様子を伺うことができる

 木や雑草が、いかにも自然そのままにしてますーって感じでうじゃうじゃと生えていた


 塀伝いにぐるっと一周して元の場所に戻った時、春樹がネットフェンス横のコンクリート塀に、隠し扉を発見した

 塀に正方形の切込みが入っていて、左端を押すと扉が開くようになっている

 手を離すと勝手に閉まる仕様だ

 ちょうど大人一人が、思い切り屈んで入れる位の大きさ

 ゲームが人生の一部になっている人間にとって、これほど冒険心をくすぐられることはない

 RPGの主人公の役回りは、当然オレ

本作品では、挿絵並びに登場人物の肖像、ストーリーの漫画などを描いていただける方を募集致しております。プロアマ不問

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