第二話 前編
本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。
○詩を読むように読んでいただきたい
○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい
このような勝手な願望からです
一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。
悠と二人で風呂から上がると、いつものように葵が二次会の準備をしてくれていた
が、葵が手に持っているのはワインではなく水だった
葵はママと昼から飲んでたわけだから、いくら何でも休憩が必要だろう
こいつのアルコールの強さは、びびが取り憑いていることと関係があるのだろうか
検証してみたいような、みたくないような
葵が俺たちに気づき、グラスから口を離して笑顔を向ける
さすが飲み過ぎたかも
悠さん、春樹さんも戻ったら、少し話したいことあるんだ
ちょっと嫌な気分にさせちゃうと思うんだけど
大丈夫
瞬から聞いてる
悠はそう言って、葵から水を受け取った
間もなく春樹にも、水の入ったグラスが渡され、前代未聞の酒なし二次会がスタートした
悠も春樹も、俺や葵の口から何が語られるのかと、いつになく緊張した面持ちだ
俺と葵は揃って水を飲むと、顔を見合わせた
葵の目
虹の間から差し込むような、柔らかで湿潤な光を確認する
そして、俺はあの夜に起きたことを二人に話すべく、ゆっくりと口を開いた
葵の故郷に行く一泊二日の弾丸旅行
一日目を予定通り消化し、夕飯を食べ、いい気分でホテルに向かう途中だった
ビルを見上げる人々
口々から発せられる、困惑の声
どうしたんだろ?
葵も倣って天を仰ぎながら、俺の数メートル前を歩く
葵、今すぐ俺の方に走って来い
できるだけ落ち着いて、静かに言ったつもりだった
が、どうしても抑えきれない焦燥が、言葉尻に熱を持たせてしまう
葵は振り返って大きな瞬きを一つすると、何も言わずに地面を蹴った
聡いやつで助かる
俺は手を伸ばし、葵を胸に抱きとめた
腕で頭を包み、耳を塞ぐ
その瞬間、群衆から悲鳴が上がった
ダシャ
俺の目の前、五メートル程の所に、十分な加速度を持って、それは叩きつけられた
鮮血が、こちらに手伸ばしてくるかのように流れ出ている
金髪に近い色の髪が、別の生き物のようにのたうっている
まるで、ずっとそうやって生きてきたかのように、本来そうすべきだったように、
それは、
コンクリートに張り付き、密着し、一体化していた
どう見ても即死だったが、葵を抱えたまま一一九番をする
髪や服装、袖から覗く肌の様子から、恐らく二十代前半の女性
他の目撃者が一一〇番をしている応答が聞こえたので、そっとそこから立ち去ることにした
葵、歩けるか?
ん
葵の手を引き、それに背を向けるように歩く
瞬さん
安心する声のはずなのに、何故かヒヤリとしてしまった
まだ、あの子、残ってるの
ヒヤリとした理由は、これだ
鎮魂
葵は、たった今自殺した女性、関わりを持ったことも、持たなくても良い相手に対して、それを行おうとしている
そう悟った
俺の表情を読んで、葵が微笑む
心配しないで
強い恨みを持って亡くなったわけじゃないから
絶望しちゃって、どこにも居場所がなくなっちゃって、自ら命を絶った
それなのに、あたしがここに居合わせちゃったから、反応しちゃって、成仏できないでいるだけなの
ちゃんと説明して、どうしたいか聞いてあげたいんだ
なんだ、そりゃあ
言いたいのを堪えて、葵の目を見た
青みがかった白目に、漆黒の瞳
いつもの葵だ
俺はため息を一つつくと、右腕を葵の頭に乗せた
ちゃんと、戻ってくるんだよな?
俺の右腕が、僅かに動く
うん、待ってて
そう言うと、葵は長く息を吐き出した
吐き終えると、
おいで
大丈夫
と、呟いた
次の瞬間、
右腕に伝わってくる体温が、急降下した
その感覚に、俺の血の気が引いていく
葵
名前を呼ぼうと口を開いた
瞬さん
右腕の下から、声
ハッとする
体温が戻っている
そのまま右腕を葵の後頭部に回し、顔を覗き込んだ
葵
葵は、更に輝きを増した瞳で俺を見据え、微笑んだ
終わった、のか?
今ので?
本当に、
ほんの、一瞬だった
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