第一話
本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。
○詩を読むように読んでいただきたい
○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい
このような勝手な願望からです
一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。
オレが初めてオカルトの世界に足を踏み入れたのは、四歳の時
相方は従姉の真悠
場所は市の郊外にある廃校
二人でバスに乗って、死ぬほど歩かされて、結局廃校に着く前に、オレが廃人になったっていう良い思い出
の、はずなんだけど、バスに乗って歩いて、なんて記憶は全く残っていない
何年も後になって真悠からその話を聞き、何となくオレの手を引く真悠の後ろ姿を見上げた映像が、浮かんできただけだ
果たしてその記憶が、その時のものだったのかどうかすら怪しい
その頃は、ほぼ毎週末、真悠はオレの家に泊まりに来ていた
オレも連休や真悠の学校が長期休暇の時は、真悠の家に行っていた
そのたびに心霊スポット巡りが、季節関係なく催されたらしい
その時に覚えた、心臓が喉を駆け上がってくる感覚
どんなに時を経ても、これだけは鮮明に残っている
でも、その他のこと、例えば行った先々で一体何をしたのか、何があったのかとかは、時間の経過とともに忘れていった
真実もその頃には生まれていたはずだが、ほとんど真悠と行動をともにしていたため、世話をしたり遊んだ記憶は曖昧だ
異界ドライブで思い出した文珍事件の記憶が強烈過ぎて、真実と過ごした何気ない日常は、すっかりアルバムの中だけに追いやられてしまったようだ
ガキの頃のオレが、赤ん坊の真実を抱いてたり、一緒に寝たり遊んだりしている写真が、実家にあったはずなんだけど
まぁガキの頃の記憶なんて、みんなそんなもんだろう
小さい頃の思い出について、大いに話が盛り上がったところで、葵が風呂の用意ができたと言ってくれた
風呂の中で、二人がガキの頃の話を聞く
瞬
家と図書館を往復
春樹
霊と人間を往復
うん
大体想像通り
春樹は、ガキの頃こそ霊も人間も区別なく話しかけてたみたいだけど、何を言っても反応しねー霊とは関わらねーって、割と早い段階で決めてたみたいだし、ガキの頃は向こうから関わってくることもなかったようだ
多分、見える力が強すぎて、こっちの世界と関わりを持てない霊ですら、見えちまってたんだろうって、オレ予想
年齢を重ねて、その力をコントロールできるようになった代わりに、あっちの世界からのアプローチも増えてしまったんだろう
さらに、類まれなる才能しかないオレと一緒に行動するようになったことで、引き寄せ体質に拍車がかかったのかもしれない
もしかしたら、葵に出会ったことで、余計に
葵がオレや春樹ではなく、瞬を選んだのは、そこなんじゃないかって思うところもある
自分と一緒にいても、霊も怪異も全く寄せつけない瞬ならって、葵は考えたんじゃないかって
だってさ
オレたち三人の中で誰を選ぶって
顔なら間違いなくオレだろ?
その上、ユーモアとファッションとトークのセンス、運動神経も抜群ときたもんだ
器用で気配りができて、神レベルのコミュ力と堪能な語学力で国内外問わず、オレが営業をかけた顧客満足度は殿堂入り
ぶっちぎりのトップ成績にも関わらず、それを少しも鼻にかけることなく、同僚、後輩への細やかな配慮を怠らない
会社の女性社員がオレの名前を呼ぶ時は、漏れなく語尾にハートマークが付いている
十人女の子がいたら、そのうちの八人はまず間違いなく、オレに惚れるだろう
残り二人は春樹に譲ってやる
こいつの懐の深さには、悔しいが完敗だ
オレが今まで出会ったどんな人間よりも、こいつは人間として出来ている
相手が傷つくようなことはぜってー言わねーし、何でも共感、同感してくれて、どんな時でも器用に立ち回ってくれる
真面目で努力家、成績優秀
何気に大学入試の総得点は、春樹が一番高かった
何でも卒なくこなせるように見えて、手先が割と不器用ってギャップがあるところが良い
まぁ強いて短所を言えば、自己評価がべらぼうに低いってところだな
でまぁ
大変気の毒ではあるのだが、瞬の貰い手がないわけだ
ぱっと見、高身長の知的男性
毎日欠かさない読書とトレーニングで、そりゃあ誰もが羨む知識と筋肉を備えている
のだが、
如何せん口が悪くて空気読まなくて着痩せするもんだから、大抵の人間はそれに気づかずに終わる
全人類を敵に回してやる的な目つきと、殺戮兵器がたたえるべき雰囲気を持ち合わせるこいつに、喜んで話しかけられるやつがいるとすれば、そいつは勇者か魔王かのいずれかだろう
オレは前者な
まぁ、いつでもバカみてーに冷静で、喧嘩が異次元につえーから、そこが頼れるっちゃ頼れるところではある
でも、ふつー女の子は嫌がるもんだろ?
何言っても、つまんなそーで面倒くさそーにして、あちこちで喧嘩してくる男なんか
シャワーで全身の泡を洗い流す、瞬の身体をまじまじと眺める
うん
誠に遺憾ながら、いい身体してる
思わず、あの胸に抱かれる葵を想像してしまった
じろじろ見んな
気持ちわりぃ
うん
誠に有り難いお言葉ですこと
瞬と春樹が順に湯船に入り、水かさが上昇する
それに押されるように、言葉が出た
とりあえず、墓参りもできたし、葵の兄ちゃんにも会えたし、いい旅行だったんだろ?
オオアマバラミス様の所にも行ってくれたんだもんね
ありがとう
瞬は長く息を吐くと、目を閉じて言った
オオアマウワテバラミスな
風呂の前にしようと思ってたんだが、悠が邪魔したせいで話しそびれてたことがある
この後話すから、酒はいつもより控えろよ
オレと春樹は、揃って瞬の顔を見た
何か、深刻な話?
少しな
解決済みだと葵は言ってるが、
俺には、見えねぇから
その言葉に、オレは嫉妬心にまみれた自分の調子の良い考えを、戒めずにはいられなかった
こいつは
口はわりーし空気読まねーけど
人の気持ちが分かんねーやつじゃない
見えねーってことへの無力さを、
一番痛感じちまってるのは
他の誰でもない
瞬、なんだ
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