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取り憑かれて  作者: 恵 家里
第十二幕 共有と共感
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第七話 後編

本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。


○詩を読むように読んでいただきたい

○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい


このような勝手な願望からです

一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。

 じゃあ、また来年


 木に向かって呟く


 もしかして、お義父(とう)さんたち、か?


 葵は俺を見て、微笑んだ


 んー、正確には父母も含んだ魂の集まり、って感じかな

 こっちの世界に留まっているような、強い思いを持った霊でなくてもね、こうしてお墓参りして、その人のこと思い出してあげると出てきてくれるんだ

 結婚報告して、お墓参り一緒に来てるよって伝えたの


 何て答えてくるんだ?


 いろんな意識が一気に流れ込んで来るんだ

 ガヤガヤガヤって

 でも、一番聞きたい声が、その中で強調されて聞こえてくるの

 おめでとう、良かったねって

 お墓参りも十年目になるけど、やっぱり最初のうちは父も母も何も言ってくれなかった

 ずっと否定し続けてたものに、実際自分たちがなっちゃったわけだから

 気まずかったんだと思う

 でも、ご先祖様たちと混ざり合ったりするうちに、少しずつ声が聞けるようになったの

 でも、あっちの世界に行くわけじゃないから、姿ははっきり見えない

 思い込みなんじゃないかって何度も思った

 自分が考えてることなのか、みんなが話していることなのか、今でも分からなくなる時あるもの

 手を動かしてるとね、何となくその区別ができるって何年目かで気づいたんだ


 そう言って、目の前の木に再び視線を戻した


 村の人はね、ここに木を植えるだけで、こうやってお参りすることはしないんだ

 良くないことが起こるって

 変だよねえ

 こうやって、一年に一回、手を合わせるくらい何てことないのに

 そうしてあげるだけで、みんなは喜んでくれるのに

 村の大人たちは、朝にこの鏡が一斉に光っているのが面白いみたいで、それに向かって一生懸命お祈りしてるんだよ

 跪いて、土下座するみたいに

 私はそれを見るのが本当に嫌だった

 心底ゾッとした

 何に祈ってるんだろうって

 そんなことより、すぐそばの霊たちに応えてあげれば良いのに

 存在を感じてあげれば良いのに

 気持ちを、すこしでも伝えてあげれば良いのにって


 葵は立ち上がって、山の縁まで歩いた

 なるほど、麓に小さな集落が見える

 あそこが、葵の育った、村


 毎日が、嫌でしょうがなかった

 びび(・・)ちゃんやみんなと出会ってなければ、あたしは生きていけなかった

 早く村を出たい、早く大きくなりたい

 そればっかり考えてた


 葵が村を睨む

 その目にあるのは悲壮や無念、ではなかった

 遺恨、怨恨、憎悪

 そして、絶望だった


 元恋人の咲人が、葵を拉致しようとして、それを助けた俺たちに矛先が向いた時、葵は咲人を殴り、俺たちに手を出したら呪い殺すと脅した

 後になってその話を聞いた時と、同じ目だった

 復讐すべき相手を見るような、

 ゾクリとするほどの、

 冷たく静かで

 乾いた、眼差し


 あんな村、早くなくなれば良いのに


 葵


 堪らず俺は、葵を呼んだ

 いつもの光を宿した瞳が、俺に向けられる


 葵

 お前の生まれた所がすげー辺鄙(へんぴ)な場所で、世間から隔離されたところだってのは聞いていた

 実際来てみて、想像以上で驚いた

 そこにある悪習も、それでお前がどれだけ辛い思いしてきたかってのも、理解してるつもりだ

 でも、

 それでも俺は、ここに来るのを、結構楽しみにしてたんだよ


 葵は、少しハッとしたようだった


 俺は、お前の故郷に

 感謝、してぇんだ


 ザッと風が吹き、葵の髪が美しくはためく

 吊り下がっている鏡が一斉に揺れ、太陽光をあらゆる方向に反射した

 花火の中にでも飛び込んだような感覚に陥る

 幾多の彷徨う人魂というものを可視化できたなら、もしかしたら、このような世界なのかもしれない

 およそ非現実的な光景に、目眩にも似た症状に陶然としながら、俺は言葉を続けた


 そこが、どんだけ肥溜(こえだ)めみてぇな所でも、そこに、どんなクソみてぇな習慣があろうとも

 自分の妻の故郷を悪く言われるのは、気分の良いものじゃねぇ


 葵は俺を見つめたまま、光の中で瞬いた


 どんな所であっても、そこは、

 お前が生まれた場所だから


 風が止み、現実世界に戻る

 最後に、葵から赤い光が差した

 葵は一度俺から目を離し、チラリと村の方を見る

 そして再度、俺に視線を戻した


 ごめん、瞬さん

 なんか、あたし、自分の故郷悪く言って

 感謝しなきゃなのに、ね


 俺は、心底安堵した

 葵の言葉に、その目の光に

 俺の意見に共感、してくれたことに

 葵にとっての故郷が、絶望や憎悪の感情で、染まらずに済んだことに


 たとえ、そこでの経験がそうであったとしても、俺は葵に、過去の自分を褒めてあげられるような、慰めてあげられるような、一筋の光を差し込ませることができた気がした

 しかし、同時に俺の中で、水に墨汁を落としたような後悔が、じわりと広がる


 これはただの、俺の自己満足に過ぎない

 愚痴も弱音も滅多に口にしない、葵のマイナスの言葉だからこそ、俺は、それを遮らずに聞くべきだったのかもしれなかった、と


 お前の場合は、感謝、とも違う気もするがな


 保険を掛けるような俺の言葉にも、葵は微笑んでくれた


 瞬さんと来れて、良かった


 葵の元へ歩み寄ろうとした

 が、やめた

 複数の人の気配を、背後に感じたからだ

 子どもの声もする

 葵も気づき、そちらを見やる

 そして、優しく目を細めた


 二人とも、おっきくなったねえ

本作品では、挿絵並びに登場人物の肖像、ストーリーの漫画などを描いていただける方を募集致しております。プロアマ不問

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