第七話 後編
本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。
○詩を読むように読んでいただきたい
○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい
このような勝手な願望からです
一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。
じゃあ、また来年
木に向かって呟く
もしかして、お義父さんたち、か?
葵は俺を見て、微笑んだ
んー、正確には父母も含んだ魂の集まり、って感じかな
こっちの世界に留まっているような、強い思いを持った霊でなくてもね、こうしてお墓参りして、その人のこと思い出してあげると出てきてくれるんだ
結婚報告して、お墓参り一緒に来てるよって伝えたの
何て答えてくるんだ?
いろんな意識が一気に流れ込んで来るんだ
ガヤガヤガヤって
でも、一番聞きたい声が、その中で強調されて聞こえてくるの
おめでとう、良かったねって
お墓参りも十年目になるけど、やっぱり最初のうちは父も母も何も言ってくれなかった
ずっと否定し続けてたものに、実際自分たちがなっちゃったわけだから
気まずかったんだと思う
でも、ご先祖様たちと混ざり合ったりするうちに、少しずつ声が聞けるようになったの
でも、あっちの世界に行くわけじゃないから、姿ははっきり見えない
思い込みなんじゃないかって何度も思った
自分が考えてることなのか、みんなが話していることなのか、今でも分からなくなる時あるもの
手を動かしてるとね、何となくその区別ができるって何年目かで気づいたんだ
そう言って、目の前の木に再び視線を戻した
村の人はね、ここに木を植えるだけで、こうやってお参りすることはしないんだ
良くないことが起こるって
変だよねえ
こうやって、一年に一回、手を合わせるくらい何てことないのに
そうしてあげるだけで、みんなは喜んでくれるのに
村の大人たちは、朝にこの鏡が一斉に光っているのが面白いみたいで、それに向かって一生懸命お祈りしてるんだよ
跪いて、土下座するみたいに
私はそれを見るのが本当に嫌だった
心底ゾッとした
何に祈ってるんだろうって
そんなことより、すぐそばの霊たちに応えてあげれば良いのに
存在を感じてあげれば良いのに
気持ちを、すこしでも伝えてあげれば良いのにって
葵は立ち上がって、山の縁まで歩いた
なるほど、麓に小さな集落が見える
あそこが、葵の育った、村
毎日が、嫌でしょうがなかった
びびちゃんやみんなと出会ってなければ、あたしは生きていけなかった
早く村を出たい、早く大きくなりたい
そればっかり考えてた
葵が村を睨む
その目にあるのは悲壮や無念、ではなかった
遺恨、怨恨、憎悪
そして、絶望だった
元恋人の咲人が、葵を拉致しようとして、それを助けた俺たちに矛先が向いた時、葵は咲人を殴り、俺たちに手を出したら呪い殺すと脅した
後になってその話を聞いた時と、同じ目だった
復讐すべき相手を見るような、
ゾクリとするほどの、
冷たく静かで
乾いた、眼差し
あんな村、早くなくなれば良いのに
葵
堪らず俺は、葵を呼んだ
いつもの光を宿した瞳が、俺に向けられる
葵
お前の生まれた所がすげー辺鄙な場所で、世間から隔離されたところだってのは聞いていた
実際来てみて、想像以上で驚いた
そこにある悪習も、それでお前がどれだけ辛い思いしてきたかってのも、理解してるつもりだ
でも、
それでも俺は、ここに来るのを、結構楽しみにしてたんだよ
葵は、少しハッとしたようだった
俺は、お前の故郷に
感謝、してぇんだ
ザッと風が吹き、葵の髪が美しくはためく
吊り下がっている鏡が一斉に揺れ、太陽光をあらゆる方向に反射した
花火の中にでも飛び込んだような感覚に陥る
幾多の彷徨う人魂というものを可視化できたなら、もしかしたら、このような世界なのかもしれない
およそ非現実的な光景に、目眩にも似た症状に陶然としながら、俺は言葉を続けた
そこが、どんだけ肥溜めみてぇな所でも、そこに、どんなクソみてぇな習慣があろうとも
自分の妻の故郷を悪く言われるのは、気分の良いものじゃねぇ
葵は俺を見つめたまま、光の中で瞬いた
どんな所であっても、そこは、
お前が生まれた場所だから
風が止み、現実世界に戻る
最後に、葵から赤い光が差した
葵は一度俺から目を離し、チラリと村の方を見る
そして再度、俺に視線を戻した
ごめん、瞬さん
なんか、あたし、自分の故郷悪く言って
感謝しなきゃなのに、ね
俺は、心底安堵した
葵の言葉に、その目の光に
俺の意見に共感、してくれたことに
葵にとっての故郷が、絶望や憎悪の感情で、染まらずに済んだことに
たとえ、そこでの経験がそうであったとしても、俺は葵に、過去の自分を褒めてあげられるような、慰めてあげられるような、一筋の光を差し込ませることができた気がした
しかし、同時に俺の中で、水に墨汁を落としたような後悔が、じわりと広がる
これはただの、俺の自己満足に過ぎない
愚痴も弱音も滅多に口にしない、葵のマイナスの言葉だからこそ、俺は、それを遮らずに聞くべきだったのかもしれなかった、と
お前の場合は、感謝、とも違う気もするがな
保険を掛けるような俺の言葉にも、葵は微笑んでくれた
瞬さんと来れて、良かった
葵の元へ歩み寄ろうとした
が、やめた
複数の人の気配を、背後に感じたからだ
子どもの声もする
葵も気づき、そちらを見やる
そして、優しく目を細めた
二人とも、おっきくなったねえ
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