第六話 後編
本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。
○詩を読むように読んでいただきたい
○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい
このような勝手な願望からです
一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。
本当に、あの日はいろいろなことがあった
葵を迎えに行き、俺は予告しておいた用事を済ますべく、すぐには帰路につかず、市街地にあるデパートの地下駐車場に入っていった
用事って、ここ?
車から下りながら、葵が不思議そうに訊ねる
ああ
ギブスも取れたことだし
そう言って左手の甲を、葵に見せた
悠も両親もうるせぇからな
結婚指輪
ぱちくり、と音の出るような瞬きを、一度、葵がした刹那、暗い地下駐車場が明るくなったように思えた
嬉しい
少し紅潮した、幸せそうな笑顔
これだけで、目的はほぼ達成したようなものだ
でも、指輪だと
ああ
だから、少し考えた
デパートの入口に向かって歩き出す
葵は少し後ろを歩く
ドアを開け、先に葵を通す
そこからは横に並んで歩いた
エレベーターを上がってジュエリーショップへ
名乗るとすぐに、店員が平べったいアクセサリーケースを奥から持ってきた
恭しく蓋が開けられ、葵の感嘆の声が漏れる
リングピアスが四種類
大きさ、あしらわれている宝石の色がそれぞれ違う
つけっぱなしで問題ねぇ素材のピアスだ
宝石はベタだが、ガーネット
気に入ったのがあったら、これを結婚指輪の代わりにしたい
ガーネットは一月の誕生石
誰が決めたんだか知らねぇが、石言葉は
真実、情熱、友愛、繁栄
そして何より
これ
葵が、一つのピアスを指差す
ワインレッドのガーネット
大きさはちょうど指輪サイズ
だよな
キャンプで着た水着と
葵が好きなワインと同じ色
店員が試着を勧める
葵は、そうっと左耳にリングを付けた
鏡を確認した後、俺の方を向く
どう?
赤色の光が、葵の瞳とともに揺らいだ
決まりだな
葵は顔をガーネットと同じ色に変化させ、笑った
目の前にいた店員も、何故だか一緒の顔色になっている
じゃ、今度は瞬さんのね
意外な言葉に、今度は俺が強めの瞬きを強いられた
同様に葵が名を告げると、店員が再び奥からケースを持って現れた
瞬さんも、気に入ったのあったら、選んで?
正直、俺の結婚指輪は何でも良いと思っていたから、不覚にも驚いてしまった
葵が笑う
鳩が豆鉄砲って顔してる
そりゃあ、そうだ
つられて笑いながら、俺も即決
内側にアクアマリンが埋め込まれたシンプルな指輪
幸福、富、聡明、沈着
改めて石言葉を思い出すと、何だかくすぐったい気分になる
サイズや刻印の文字を確認し、俺たちは店を後にした
前もって、調べてたのか?
シートベルトを締めながら、葵に問う
それはお互い様だよ
指輪、瞬さんにはつけてほしくて
自分はつけねぇのにか?
うん、ごめん、キモいね
顔を見合わせて失笑する
サイズも既に店に伝えていたらしく、完成までは二週間ということだった
でもピアスってのは考えなかったよ
本当にありがとう
それは、お互い様だろ
葵が笑う
その後、誕生石やら石言葉、アクセサリーの起源について話をしながら、釜飯屋で夕飯を食べた
むふふふ
気持ち悪い笑い声が、過去から現在に俺を引き戻す
ピアスはたまに付けてるもんなー
オレもそれしかねーって思ってた
誰よりも指輪だと騒いでいたやつが、何か言ってる
辛い出来事ばっかりじゃなくて良かったよ
すっごい盛りだくさんな一日だったね
僕なら完全にキャパオーバー
帰った後も相当盛りだくさんだったのだが、そこは割愛することに、する
ま、とにかく、だ
悠が俺のダンベルを持って、右ストレートを打った
新、生活が、始まる、わけだ
左ストレート、右アッパー、左アッパー
きっつ、何キロあんだ?
二〇キロ
大して重くねぇよ
にじゅ
早く片付けろ
焼肉、てめぇで払わさせるぞ
早急に完遂いたします
ロボットダンスのような動きで、クローゼットに服をしまい始めた悠に笑いながら、春樹が俺に話しかける
新生活でさ、楽しみな分、不安もあると思うけど、今日みたいに、これからもいろいろ話してくれたら嬉しいな
おう、これからは遠慮なく遊び来れるしな
今まで遠慮なんてしたこともねぇやつが便乗する
瞬
二人が、声を揃えて俺を呼んだ
俺は何故かハッとして、動きを止めて二人を見る
四人でいれば、大丈夫だって
俺は、
何かに取り憑かれていたわけでもないくせに、
憑き物が取れた感覚に陥った
机の引き出しを開ける
まだ空っぽだ
必要最低限の文具を、ガチャガチャと入れた
そこに紛れ込んだ、一つの繭玉
効果抜群だからおすそ分け、と言って、葵が俺たちに一つずつ紐を付けて渡してくれたもの
悠は青、春樹は緑、俺は赤
指先で転がす
紅潮したぶさぴよに見えてしまったのだから、得体のしれない何かには、取り憑かれているようだ
四人でいれば、な
気づいた時には、口角が上がっていた
振り返って、二人の顔を確認する
笑っていることは悟られないように、答えてやった
ぜってぇ、来んな
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