第三話
本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。
○詩を読むように読んでいただきたい
○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい
このような勝手な願望からです
一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。
山に行く、と聞いていたからか、ちゃんとパンツスタイルにスニーカー、ロングカーディガンをTシャツの上に羽織って、髪は高めのポニーテールに縛っている葵ちゃんは、いつもながら最高にかわいい
そんな葵ちゃんに、膝枕をされている親友
悠の車酔いを、これほど羨んだことはない
何だよ膝枕って
おまけにポンポンまでされて
これを羨むなという方が無理だ
むりむりむりむりむりむり
心の中でひとしきり騒ぎ、続いてため息をつく
やっぱり、葵ちゃんにとっても、悠は特別なのかな
会って二回目に、膝枕できちゃうくらい
好き
なんだろうな、きっと
葵ちゃんに、少しでも特別視されていると思い上がってた、自分が恥ずかしくてしょうがない
あんな夢を見てしまった、自分を罵る
身の程知らずにも、勝手に葵ちゃんに取り憑かれていた、自分を責め立てた
僕の頭の中は、真っ赤に染まって、魔女の鍋のようにグラグラと煮立っていた
つい、さっきまでは
肝試しは一人で行くという葵ちゃんの発言に、びっくり水を入れられた鍋は、今やすっかり静寂を取り戻してしまっている
瞬と悠は呆然としていた
確かに、女の子が一人で肝試し行きたいなんて普通はありえないだろう
でも、僕は葵ちゃんがそう言った理由に、心当たりがあった
白い大蛇の霊
そういう心霊スポットに行くと、きっとあの大蛇が、何かしでかすのではないだろうか
それを見られないように、葵ちゃんは肝試しは一人で行くと言っているのではないだろうか
そう思った
僕も、見えるから
見ようと思えばその霊の生き様、死に様、人となりなども分かる
でも、それ自体全く気持ちの良いものではないし、ずっと見ていると、精神が蝕まれていくのが分かる
そんな状況で、あることないこと近くで騒ぎ立てられたら、正直ストレスでしかない
肝試しは、無駄に騒がず、畏敬の念をもって粛々と
こうでなければならないのだ
だから、悠や瞬とオカ研として活動するまでは、そういう所に自分から行こうなんて気にもなれなかった
大学入学直後のことを思い出す
いいバイトはないかと掲示板を見ていると、オカルト研究会創立メンバー募集のチラシを掲示している悠を見かけた
興味があると、悠に話しかけてたのは僕の方からだったけど、本当に僕の興味があったのは、悠自身だった
というのも、入学式の日に様々な人間、及び人間でない者たちが行き交う中で、ひときわ、異彩を放っていたのが悠だったからだ
悠は大量の小動物の霊を、まるで一張羅でも着ているように身にまとって、人混みの中を歩き、友達と談笑しながら大学の正門をくぐって行った
そしてそのままの状態で、退屈な入学式に平然と参加していたんだ
あの状態では、大体の人間は気分が悪くなり、一〇分も立っていることはできないはず
何者だろう
もしかして霊能者とか、そういう訓練を受けた人かな?
そんな考えを巡らせて、僕は悠から視線を離せずにいた
そんな人が、オカルト研究会を立ち上げようとしている
僕は僕自身の行動に驚きつつも、悠に話しかけずにはいられなかった
仲良くなりたい
人生で初めて、そう思ったのかもしれない
僕は、幼少期から霊が見えて、それが当たり前だった
でも、幸いにもそれが、普通は見えないものだと気付くのは早かった
彼らもまた、僕が見えてないかのような振る舞いをしてくれたていたからだ
何を言っても、何をしても見向きもしない
ただボソボソを口を動かして、たたずんでいるだけ
家に帰ったらお父さんやお母さんが、ちゃんと僕の目を見て話しかけてくれるのに
僕の話を頷きながら聞いてくれるのに
彼らは何もない
彼らのことを誰かに話しても、首を傾げられるか、心配されるだけ
僕は彼らを、彼らが僕にそうしているように、いないものと認識するようにした
極力無視することにした
それで問題なかった
でも、小学校高学年くらいには、その霊を見る力ってやつが、強くなっていたんだと思う
友達と一緒にいると、その人に憑いている霊も一緒に関わることになってしまい、知りたくもない霊の情報が見えた
友達はいつも霊とワンセット
友達と関わるのが億劫になった
そして、距離を置くようになっていった
大人になるにつれて、その見える力の抜き方が分かってくるようになった
だから今、毎日のように子どもたちや先生と顔を合わせていても問題はない
でも、ずっと人付き合いは苦手なままで、悠や瞬に出会うまでは、親友もできなかった
オカルト研究会メンバー募集のチラシを持ったまま、驚いたように僕を見た悠は、次の瞬間には人懐っこい笑顔になった
じゃ今夜、さっそく行こう
と、驚きのテンポの良さで話を進めていく
オカルト研究会発足
記念すべき第一回目の活動は、突如始まった
瞬と出会ったのは、その日の悠が運転する車中
オカ研会員番号二だと、悠が紹介してくれた
ボサボサの髪に、眼鏡
気だるそうにあくびをしている瞬は、一見取っ付きにくそうな印象だったけど、オカルト愛を熱烈に語る悠のツッコミ役が板に付いていて、専攻する学部のことなど話しているうちに打ち解けていった
僕は瞬にも、悠とは違った違和感を覚えた
瞬には全く霊が憑いていなかった
驚きはしたけども、悠と瞬がいいコンビであることに納得して、余計に二人に興味が湧いた
悠が抱えている動物霊たちは、毎日のようにメンバーが入れ替わっていて、全く僕に興味を示さない
瞬には霊が憑いていない
見ないように、する必要もなかった
だから、僕は二人といる時は本当に楽だったし、一緒にいたいと思うようにさえなっていったんだ
悠は、心霊スポット行くまでと、行った後は大はしゃぎする
でも、いざ現地に足を踏み入れると、人が変わったようにほとんど喋らなくなる
懐中電灯と汗を握りしめながら、ゆっくりと周回する
瞬は、僕らの少し後ろで、ポケットに手を突っ込みながら、面倒臭そうについてくる
ハズレの場所はこれで終わり
でも、一回目の女性の自殺現場のように、アタリの場所では、ほぼ確実に悠が何かに取り憑かれては、トラブルを引き起こした
まぁたまには、僕もその原因になったみたいだけれども
僕の霊が見える云々なんて関係なし
とにかく、この二人といると、面白いくらいに何かが起きた
霊と関わらないように、意識しないように
これが、この二人の前では、尽く無駄で、全くの無意味になる
自分からどんどん関わって、トラブって撃沈
でも、なんやかんやで助けてもらって、最後は大笑い
楽しかったし嬉しかった
僕の普通が、押し隠してた当たり前が、二人にとっては羨むべきもので、あって当然のもので、なくてはならないものになったことが
葵ちゃんにも、そうなってもらえたら良い
そんなことを思っているうちに、後方に走り去る景色は、どんどん黒みを増していく
そして、
僕ら四人を乗せた車は、
目的地に到着した
本作品では、挿絵並びに登場人物の肖像、ストーリーの漫画などを描いていただける方を募集致しております。プロアマ不問




