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取り憑かれて  作者: 恵 家里
第十一幕 家族と共有
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第二話 前編

本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。


○詩を読むように読んでいただきたい

○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい


このような勝手な願望からです

一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。

 退社時間になり、葵にメッセージを送る


 バー二本松

 一八時、現地集合


 帰宅しないで直接ママの店に向かう

 クールビズスタイルたが、問題ないだろう

 すぐに、ぶさぴよオッケーが現れた

 このキャラの良さが、俺は未だに理解できない


 デスク周りを片付け、資料を元の位置に戻す

 残業は申請しなければできないことになっているので、続々と帰り支度を整えた社員たちが、声を掛け合って部屋から出ていく


 山之内、お疲れ


 気さくな先輩が、鞄を抱えながら声をかけて来た


 お疲れ様です


 会社でも、俺に声をかけてくる人間は稀だ

 同僚はもれなく、俺と関わることを避けている

 やりとりは全て社内メールで済ませ、直接話しかけてくることはない

 先輩や後輩、上司の数名のみが、社内で俺に向けて声を発する存在だ

 部屋の出口で、反対側から来た女性の先輩に先を譲る


 山之内くん、お疲れ様


 お疲れ様です


 この先輩は、俺が入社間もない頃に、仕事のいろはを教えてくれた人だ

 眼鏡をかけた、いかにもなキャリアウーマンだが、教え方が丁寧で、馴れ合いがなくても周りから信頼されているのが分かる

 この先輩が、俺と交際したいという同僚がいると、紹介してきた

 普段なら無視していたところだが、先輩に恩を感じていたこともあって無下にはできなかった


 最初に紹介してくれた女とは、一ヶ月だけ付き合ったが、別れた後もどういうわけか、この先輩は、俺に新しい女性社員をあてがい続けた

 お節介おばさん、ともいうべき気質が、この先輩にはあるらしい

 先輩には、今後のキューピット役を辞退していただくべく、懇切丁重に頭を下げ続けた

 お陰で、ようやく最近になって先輩からのお呼びがかからなくなってきたところだ

 この先輩には直接、結婚報告はした方が良いだろう


 一応この会社は、県内随一の食品メーカーの本社だ

 工場を全国、海外にも数か所持ち、そのジャンルでは全国トップクラスのシェアを誇っている

 手頃なタイミングで、手軽に高収入の相手を見つけることを目的に入社する女も、それを斡旋したがる人間も多いのかもしれない


 俺の所属は機械部

 その名の通り、機械の設計やらプログラミング、バグのチェックや不具合の原因究明と改善などを行っている

 この部署は転勤がない

 全てパソコンで完結するからだ

 それがこの会社の志望動機


 んな動機で受かるかよ


 と、やはりお節介なやつに言われたが、実際内定をもらったのだから、受かったのだろう

 何はともあれ、ほとんど一日パソコンや資料の相手をしているので、人間関係の構築、などというものが、それほど必要じゃないのはありがたい

 入籍後も、数名にその報告をすれば良いだけだ


 会社から歩いて三〇分

 バー二本松が見えてきた

 暖簾はかかっていない

 一七時四五分

 葵は既に店内だろう

 引き戸を開けて中に入る


 あら、早いわね


 カウンターで、グラスを磨いているママの姿のみを認める

 いつものカウンター席に座った

 左隣には悠が、さらにその隣には春樹が、いつもなら座っている


 何か飲む?


 ママの声が、いつもより穏やかに聞こえる

 緊張が、声のトーンを抑えているようだ


 水、もらえるか?


 氷と水の入ったグラスがテーブルに置かれるのと同時に、背後から引き戸の開く音がした


 ただいまー

 あ、もう瞬さん、着いてたんだ


 聞き慣れた声に、ホッとしながら振り返る

 葵は鞄を俺の隣の席に置くと、そのままカウンターの中に入り、持ってきた大きな紙袋から、タッパーや鍋を次々と取り出した


 はい

 おっきいお鍋に入れて温めたら完成

 あ、このお鍋使って良い?


 そのために置いといたのよ


 さすがあ


 そう言うと、葵は俺に向かって


 今、ご飯の用意しちゃうね

 話終わったら、みんなで食べよ


 と笑顔を見せ、キッチンに入っていった

 ママも追って暖簾をくぐる

 いつものように談笑しているのが聞こえてきた

 葵の表情も、何となく緊張しているように見えたのは、俺の思い違いだったようだ

 葵は、ママとの付き合いの方が、俺たちよりずっと長い

 お互い気心知れていて、いい大人だ

 俺が必要以上に気構えてしまっているだけで、この二人の間の結婚報告なんて、想像以上にあっさりと終わるのかもしれない


 おまたせー

 後は、おこわが炊けるのを待つだけ


 葵はそう言いながら、カウンターから出て来て俺の隣に座った

 少し遅れて、ママも姿を現す

 いつも通り、白い前掛けで手を拭いていた


 葵は?

 お茶?


 あ、ありがとう

 お願いします


 グラスが置かれ、葵がそれに口をつける

 俺も一口、水を飲む

 テーブルにグラスを置くと、カロロと澄んだ音が鳴った


 話って?


 ママが、カウンターの中で腰掛けながら問う

 葵は一度、俺を見た

 そして安心したような微笑を浮かべ、ママと視線を合わせる


 結婚する

 瞬さんと


 実に端的

 すぐに静寂

 ママに変化

 特になし

本作品では、挿絵並びに登場人物の肖像、ストーリーの漫画などを描いていただける方を募集致しております。プロアマ不問

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