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取り憑かれて  作者: 恵 家里
第二幕 再会と告白
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第二話 後編 

本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。


○詩を読むように読んでいただきたい

○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい


このような勝手な願望からです

一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。

 午後六時五五分

 車で駅前のロータリーに入る

 三つの男女の影

 俺に気付いた悠が手を振る

 三人の前で停まると助手席に春樹、後部座席に葵ちゃんと悠が乗り込んだ

 全員一週間ぶりの再会だが、全くそんな感じがしない

 俺も相当、こいつらに取り憑かれているのだろう


 こんばんは、瞬さん

 車出してくれてありがとう


 俺が返事をする前に、悠が前のめりになって絡んで来た


 ってか瞬、てめー嘘つきやがったな

 ゲロなんて吐いてねーだろ


 アクセルを踏む

 うるせぇのが後部座席に張り付いた


 俺も相当酔ってたからな

 夢だった

 良かったな


 嘘つけ


 人を散々に嘘つき呼ばわりしやがる

 それから悠は、いかに自分が不憫で大変だったのかを、とくとくとして語り始めた


 悠、車酔いはまだ大丈夫?


 自慢なんだか自虐なんだか分からない悠の話を、聞き終えた春樹が問う


 うーん、だんだん気持ち悪くなってきた、気がする

 最初は大丈夫かなーって思ったんだけどさ、やっぱ集まって来てる?


 うん、いつもよりは少ないけど


 春樹は霊が見える

 見えるだけで、どうすることもできないって言ってたけど、俺や悠からすれば十分過ぎるほどだ


 オカ研としての活動第一回目

 数年前に自殺した女のことを、事細かに春樹が言い当てた後のこと

 驚く俺の隣で、悠の様子が一変した

 その場でうずくまり、発情期の猫のような唸り声を上げたかと思ったら、そのまま四足歩行で森の中に消えてしまった

 春樹の発言を千思万考していた俺は、とっさの行動ができず、悠が消えた森の前に立って暫く逡巡していた

 夜の森

 追うべきか、捜索を要請すべきか、このまま待つべきか

 様々なリスクが交錯する

 ベストな方法が分からない


 今ならまだ通った所が分かる

 行こう


 焦る俺を尻目に、春樹はそう言って、迷うことなく森の中に入って行った


 分かる?


 そう聞くと、春樹はごく当たり前のように


 悠って普段から、たくさんの動物霊抱えてるでしょ

 今、ちょっと強めな猫の霊に取り憑かれちゃったんだ

 悠の中で暴れてるものだから、もともと悠が抱えてた霊たちが振り落とされてさ、道しるべになってる


 と説明してくれた

 一旦飲み込むことにする

 悠を探すことが最優先だ


 春樹は、たまに草むらや藪の中をゴソゴソ探ったかと思えば、再び辺りを見回し、こっち、と案内してくれる


 動物霊たちが、何体かまとまっている所があるんだ

 もしかしたら悠がいるのかって思ったんだけど


 こちらも一旦飲み込む

 俺には森に探しものをしにきた、徘徊者にしか見えない

 俺は帰り道だけは分からなくならないように、スマホで位置情報を確認しておく

 電波がなくなっても大丈夫なように、方角も調べておく


 三〇分ほど森を捜索したところで、春樹が不意に歩調を早めた


 いた


 一メートルほどの背丈の藪をかき分ける

 俺も一緒になって草をなぎ倒す

 すると、入り組んだ草木の中に、人一人がやっと収まるくらいの空間が現れ、そこで悠は、猫のように丸くなって寝息をたてていた

 春樹と顔を見合わせて、肩を撫で下ろす


 おい悠、起きろ

 こんなとこで寝てんじゃねぇ


 肩を揺すって怒鳴るが、悠は爆睡しているようだ


 多分、暫く起きないよ


 春樹がそう言ったので、仕方なく二人がかりで悠を持ち上げ、俺が背負って帰ることにする

 悠はぐったりしながら、俺の首元で規則的な呼吸を繰り返していた


 あの時、春樹がいてくれなかったら悠は、遅めの冬眠から目覚めた熊の餌になっていただろう

 オカ研に欠かせないメンバー

 俺にとって、人生二人目の親友の爆誕だった


 その春樹が、集まって来てると言うならば、やはりそうなのだろう

 普段から動物霊抱えてるやつが、酔うほどっていうのは、一体どれくらいの数が集まってきてるんだ?

 想像するだけで、絵面がヤバい


 ごめんね

 悠さんみたいに、霊たちに好かれやすい体質だと、おまじないしても、より強力な霊たちが集まって来ちゃって、もっと大変になると思うんだ

 我慢できる?


 なるほど、おまじないも諸刃の剣

 抗生物質とかと同じか

 それにしても、こいつの社交性は、相手が霊であっても遺憾なく発揮されるらしい


 うーん

 寝てればいくらかマシだから、着くまで寝ることにする


 悠は車のドアにもたれて目を閉じる

 そういや俺が運転する時、こいつは後部座席占領して横になってたな

 今は葵ちゃんがいるから、なれねぇけど


 わ、ごめんね

 あたしがいるから、横になれないんだよね


 察した葵ちゃんが慌てる

 へーきへーきと、悠が平気でない様子で手をひらひらさせた

 暫く葵ちゃんは心配そうに、悠の様子を見ていたが、


 悠さん、宜しければどうぞ


 と、何かを差し出した

 バックミラーでは、それが何かは確認できない


 え


 と、あからさまに戸惑う悠


 あたしなんかので宜しければ

 横になった方が楽でしょう?


 そう言って、自分の太ももを叩いた

 差し出したものとは膝枕だった、というわけだ

 そりゃあ悠も戸惑う、か

 隣を見ると、春樹までソワソワしてしまっている


 悠は一〇秒ほど、カチコチと身体で時を刻むと、


 じゃ、失礼します


 そう言って、葵ちゃんの膝枕に頭を落ち着けた

 落ち着いてはなさそうだが

 葵ちゃんは、はいはーいと言って、悠の腕に手を置き、子どもを寝かしつけるようにポンポンと叩きながら、窓から流れる景色を眺めている


 ねえ、肝試しする時のルールとかある?


 そのままの状態で、葵をちゃんが聞いてきた


 あ、いや、これと言ってないけど?


 と、悠が硬い声で答える

 いや、あるだろ

 ルールみてぇな教義が


 あたしね、肝試しは昔から、絶対一人で行くって決めてるんだ

 いいかな?


 俺たちは三人とも呆然とした

 肝試しに一人で?

 逆だろ

 女の子は、キャーだの怖ーいだの言って、男にしがみつくのを肝試しと言っているし、誘う男もそれを期待している

 それを良しとしない悠が、オカルトに対する冒とくだ、と騒ぐまでが、俺にとって夏の風物詩

 自分から一人になりたいとは、相当葵ちゃんもオカルト道なるものを極めている、のか?


 え、あ、うん

 もちろん

 でも大丈夫?


 うん

 遠くにはいかないよ

 時間になったら戻るから


 それから

 車が目的地に到着するまで、

 葵ちゃんは何かを考えているのか、

 悠の腕をポンポンと叩いたまま、

 目線を

 窓から外すことはなかった

本作品では、挿絵並びに登場人物の肖像、ストーリーの漫画などを描いていただける方を募集致しております。プロアマ不問

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