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取り憑かれて  作者: 恵 家里
第十幕 真実と家族
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第四話 後編

本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。


○詩を読むように読んでいただきたい

○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい


このような勝手な願望からです

一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。

 ちょっと便所、と言って、招かれるままに通路の角を曲がる

 ボックス席からは、ちょうど死角になる場所だ


 ねえ、悠さん

 二人の様子がおかしいっていうのは、あたしの気のせいじゃないよね?


 ほれ、やっぱりこうなった

 頭を掻く


 だな

 もっと自然にできんもんかね


 葵は、困ったような笑顔を見せた


 葵に心当たりは?


 葵は、少し逡巡する素振りをして、


 ある

 キス天、だったしね


 と、答えた

 思わず失笑する


 ま、その話をだ

 今さっき聞いてきたんだよ

 だからちょっと、気まずいってか恥ずかしいってか


 そっか


 そう納得する葵に、オレは思い切って聞いてみることにした


 なー葵?

 おめーさ、瞬のこと

 好き、なんだよな?


 何だか、オレが告白するみたいな気分だ

 キス天が、胃袋の中で跳ねる

 葵は、大きな目を更に大きくしてオレを見た

 そして

 小さく、でもはっきりと


 うん


 と、答えた

 心臓が一度、キス天と一緒に飛び跳ねた

 すぐに元の位置に戻るが、規則正しく打つ脈の速度はだいぶ早い


 そっか

 良かった


 一つ短く息を吐く


 なら大丈夫だ

 何も心配すんな、な?


 葵の肩に、ポンと手を置く

 葵は良くわからないという表情をしたが、すぐに笑顔を見せて頷いた

 席にに戻って、大きなため息をつく

 何事かと二人が、顔を見合わせてオレを見た


 いやー分かってたんだけどさー

 分かってても実際はっきり言われるとさー

 凹むわー


 もう一度、大量の二酸化炭素と緊張を吐き出す


 なあんの話してたのよ?


 ママが再び唐突に現れた

 忍者か

 オレたちの前に、いろんな色と形のグラスを置いていった


 聞いてない?


 すぐ忙しくなっちゃって、聞きそびれたのよ


 話したいのは、やまやま(・・・・)なんだけどさ


 チラリと葵の方を見やる


 お互いに気まずいわけね


 ママは全てを言わずとも察してくれる


 まぁ、気まずいっちゃ気まずい


 そう言って、オレの前に置かれたグラスを口に運んだ

 赤褐色の透明な液体が、程よい甘さとほろ苦さを舌に残して食道を伝っていく

 つられるように瞬と春樹も、それぞれカクテルに手を伸ばす

 瞬のカクテルグラスには緑がかった透明の液体が入っている

 タワーなんたらって言ってたっけ

 春樹のは当然ジンフィズ

 因みにオレのはネグローニ

 一番うまいカクテルって調べてたら出てきた


 ま、ゆっくりしていきなさい


 話を聞くのはもう少し落ち着いてから、と英断を下したママが踵を返す


 あ、ママ


 オレはタンクトップの下からでも主張の激しい、背中の筋肉を呼び止めた


 ゆっくりしていきたいのもやまやま(・・・・)

 オレ、今日、金ない


 ママは盛り上がった筋肉をピクンと動かした

 振り返ってジロリとオレを見ると、葵を呼ぶ

 葵は、すぐに返事をしてやってきた


 葵

 アタシの最高級カクテルに、金を払わない不届き者がいるわ


 あらあ


 葵は目を丸くさせてはいるが、別に意外そうではない


 ちょ、ま、違うって

 これは瞬が払うんだって


 俺が払うのは、最初のビールだけだ


 急に言葉を発しやがった瞬を睨む

 おめー、今の今まで黙ってただろ

 黙るなら最後まで黙っとけ


 あれはノーカンだろ


 一杯は一杯だ


 じゃ、ママ

 ツケで


 身体で返しなさい


 はい、何でもします


 時給は二円


 劣悪過ぎて喜びすら感じる


 悠、着ぐるみ置いてくしかないよ


 春樹もノッてきた


 腎臓も一個置いてけ


 左がいいわね


 堪えきれなくなって葵が吹き出す

 それを見てつられるように、全員が笑った

 ネグローニに浮かぶ氷が、澄んだ音を立てる

 やっぱりオレたちは、こうでないと


 タワーリシチ


 笑いを収めて、ママが瞬のカクテルグラスを指差して言う


 リシチはロシア語で仲間って意味よ

 全く、どこまでも仲良しね


 瞬は表情を変えずに、グラスを傾けた


 うまいよ


 でしょう?

 少し多めに入れといたから

 キュンメルっていうハーブリキュール


 ハーブのお酒なんだ


 酒に弱いやつが、興味津々に瞬のグラスを覗く


 割と度数強ぇぞ

 甘くねぇし


 あ、そうなの?


 キュンメルの主原料はキャラウェイってハーブでね、焼き菓子材料としても使われているの

 香りは甘いんだけど、味は少し苦みがあるかな


 葵が説明を加える


 へー


 春樹は麻薬検査犬みたいに、瞬のグラスを嗅いでいる


 そ、し、て


 ママが、うまい棒みてーな人差し指を立てた

 空いた皿を葵が下げていく


 古くは薬として使われてたのよ


 まぁハーブやスパイスってのは、薬にされがちだよな


 何の薬?


 匂いにクラクラした春樹が、自分のグラスに戻ってきてママに聞いた

 ママはにんまりして、自分の頬に指を当てる


 ほ、れ、ぐ、す、り


 春樹が、

 ジンフィズで溺れた

本作品では、挿絵並びに登場人物の肖像、ストーリーの漫画などを描いていただける方を募集致しております。プロアマ不問

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