第一話 後編
本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。
○詩を読むように読んでいただきたい
○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい
このような勝手な願望からです
一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。
朝食を終え、片付け、身支度、布団をしまって掃除
葵は大抵土曜は、午後から仕事があるので、仕事用の服に着替えて化粧する
ありがとう
暑いから気をつけてね
おう、またなー
葵も気をつけてね
無茶すんなよ
いってらっしゃーい
美女と簡単に言ってしまうには、余りにもったいない女性が、僕たち三人を見送る
顔の左右に光るピアスまでが、その美しさに見惚れているようだ
でもこれだって、いつも通り
思わず昨晩のことは、全て夢だったのかと思ってしまう
下るエレベーターの中で、意識だけはどこまでも上っていきそうだ
お前らに話したいことがある
時間はかからないが、なるべく近いうちがいい
都合はどうだ?
瞬の言葉で、エレベーターの天井を突き抜けそうになっていた、僕の意識が引き戻された
おお
んだよ、急に
悠が瞬の顔を覗き込む
オレはいつでも良いぜー
春樹は?と、瞬が僕の顔を見る
うん、僕も大丈夫
それを聞くなり悠は、
んじゃ今夜だなー
瞬のおごりで
と、やはりウヒヒと笑った
こいつ、二日連続タダ飯食う気だ
呆れてしまったが、瞬はいつものツッコミはせずに
店予約しとく
決まったら連絡する
と、淡々と答え、開いたエレベーターから出て行った
肩透かしを食らった悠が、僕に何か訴えるような顔を見せて、瞬を追う
三人でってことはさ
葵がらみ、か?
ああ
瞬は足を止めない
そ、か
悠は、一度だけ目をパチクリさせた
しかし、すぐいつもの調子に戻る
おめーから誘うなんて初めてじゃねーか
雪が降んのか、槍が降んのか
槍に刺されろ
瞬の言葉に反応して、マンションの自動ドアが開く
槍に刺されなくても、熱気に殺されそうになった
うっわ、あっつ
今日も三四度だって
うげー家帰りたくねー
なー、おめーら暇ならさ
このままクーラー効いてるとこ行こうぜ
俺は帰って、店予約したら寝る
あ、僕も帰って学級通信仕上げちゃいたい
テストの丸付けもしないと
んだよ
仕事家に持ち帰って、休みねーじゃねーか
オレ、教師だけはぜってームリ
そう言って、悠は運転席を開けた
うげーあっつー
悠が先生とか、想像できないよ
子どもが気の毒だ
悠は何か言いたげだったが、これ以上口から水分を蒸発させるわけにもいかなかったようで、ただ口をもごつかせた
僕のアパートの前で車が止まる
じゃ、またね
二人に手を振る
お疲れー
またな
応えて車は走り出す
今夜
きっと瞬から僕たちに、昨夜のことが語られるだろう
僕が想像で補った部分が訂正され、あるいは承認され、僕はそれを真実として受け止めざるを得なくなる
僕は、素直に瞬を応援してあげられるのだろうか
喜んであげられるのだろうか
嫉妬に狂い、山の怪によって露わにされた醜い感情を、また呼び起こすことになるのではないだろうか
ジュクリ
ジュクリ
不快な胸の音
呼応するように、二人の言葉が頭をよぎる
人間は環境次第でいくらでも
次はオレかもしんねーしさ
俺もお前と変わらない
助けろよ?死ぬ気で
瞬も悠も、精一杯僕を信じて、慰めてくれた
長い付き合いだし、いい加減なことばかり言う悠や、面倒くさいしか言わない瞬に、腹が立ったことはないって言えば嘘になるけど、それでも三人でいるのが心地良かった
昨夜、瞬も葵にそんなこと話してた
寝ぼけてたのと酔っ払ってたので、詳しくは覚えてないけど
僕を自然に受け入れられたのが、自分でも驚いたって
すごく嬉しかった
親友なんて呼べる人ができるなんて、
ずっと諦めていたことが叶うなんて、
想像もしてなかったから
葵が加わって、四人になって
桁違いの怪異の連続
最高と最悪の振り幅で、針が折れそうな日々
驚き、絶望、落胆、怒り、憎しみ
そして感動や喜び、安心
全ての感情がぎゅっと握られて、どんどん口の中に突っ込まれくる
僕はひな鳥のように、大口開けてピーピー鳴いては、それをどんどん飲み込んでいくんだ
これからも
それは変わらない
変わりたくない
まだ、
まだ食べられるよ
葵
耳元で、声がする
おかわりは?
葵が僕に、笑顔で手を差し出す
君と一緒なら、いくらでも
その手に向かって手を伸ばそうとすると、目の前に細い人差し指が現れる
僕の唇を押さえる、優しい感触
あなたはあんなこと、絶対に言わない
葵
ごめん、あたし
春樹さんが好き
そんなこと
言うわけないのに
瞬がフラれば良い
僕はそう思ってる?
心の中で舌を出しながら、瞬を慰める、そんな未来を期待してるのかな?
違う
違わない
僕はただ、
みんなに、
お前はやっぱりすごいなって、言われたい
葵に、
あなたが特別なんだって、言われたいだけ
馬鹿
小学生みたいだ
葵
傷つけてごめん
謝っちゃって
ごめん
行かないでよ
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