第三話 中編
本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。
○詩を読むように読んでいただきたい
○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい
このような勝手な願望からです
一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。
瞬は、葵のこと
そう言いかけたけど、戻って来た、という瞬の言葉の方が早かった
悠のシルエットがとんぼりと、薄明かりの中近づいてくる
様子がおかしいな
何かあったのか?
確かに
いつもの悠なら、葵と二人きりになれたことに、スキップでもしながら戻って来てもおかしくない
かと言って、何かに取り憑かれている、という感じもしない
大丈夫かな
悠はノロノロと後部座席のドアを開け、ドッサリと座った
僕と瞬は、身体を捻って悠を覗き込む
すごかった
悠が呟く
何?
僕が聞く
すごかった
悠は少し音量を上げた
何が?
今度は瞬が聞く
葵の身体が
呆けるように言った悠に、瞬の怒声が飛ぶ
てめぇ葵に何かしたのか
凄まじく誤解を与える自分の言い方に、ハッとなった悠は、首と両手を壊れた扇風機のように振った
ち、違う違う
断じて、何もしてない
じゃあ何だ
先ほど大女の脅威から、命からがら脱したはずなのに、このままでは瞬に殺されそうだ
葵の部屋行ったんだけどさ、暗いわけよ
電気のスイッチ分かんなくて、とりあえず玄関の明かり頼りにソファ寝かしてさ
そしたら薄暗い中さ、守護霊が待ってたんだよ、葵んこと
葵ん周り集まってきて、フワフワとかビュンビュンとか
で、一体ずつ入って行くわけ
その時にさ、光るんだよ、葵の身体がさ
いろんな色にポゥって
すげー神秘的で、キレイでさ
ぼーっとしちまった
暗かったから見えたのか、オレが見えるようになったのかは分かんねーんだけど
最後にぜんが手ー振ってくれて、青色に光ったんだ
そしたら葵、なんか楽になったみたいでさ、そのまま爆睡してた
オレ、そのまま戻ってきた
何もしてない、山神様に誓って
あ、高鷲さんにも、上手く言っといた
そう言って、悠は清らかな右の掌を見せる
瞬が、そうか、と納得したので、とりあえず首はつながったようだ
瞬はスマホを少し操作すると、アクセルを踏んだ
今、葵に目ぇ覚めたら連絡しろって送っといた
明日の夜になっても連絡来なかったら、様子見に行こう
とりあえず、ゆっくり休むぞ
間違いなく過去イチ疲れたからな
じゃ、まずは春樹ん家に行くかー
処刑を免れた悠が、気を取り直したように号令をかける
葵の家から、僕のアパートまでは歩いても一〇分ほど
車ではあっという間だ
近くの公園の駐車場に車を停める
そこに、悠の車もあった
エンジンが止まり、悠と瞬も当然のように車から下りる
一緒にアパートまで歩いた
独りで戻るのは怖かったから、嬉しかった
しかし
玄関の前で立ち往生
ノブを回しても鍵がかかっている
しまった
最後に家を出たのは葵
鍵は葵が持ってる?
ここ
悠が、ドアポストの蓋裏に貼り付けられた鍵を取り出し、ニカッと笑う
ここ、隠し場所って決めといた
何とも気が回りますこと
部屋に入る
リビングはキレイだった
あの女はもちろん、汚れた床もキレイに拭かれていて、ゴミもなかった
跡形もなかった
ほんの数時間前のことなのに
ずっと昔の出来事のような、夢だったような気さえする
夢だったら、どんなに良いか
とりあえず救急セットを持って来て、瞬の左腕を、それなりのもので固定し直した
僕がモタモタやっていると、横から悠が入ってきて、手際よく処置をした
最後に、三角巾で瞬の左の腕を吊し終えると、
何か腹減ったよなー
喉も乾いたし、何かねーか?
と、無心し始めた
いつもと変わらない様子に、僕も普段の感覚を取り戻していく
そういえば、僕も朝に病院食を食べたきりだ
ここに来て、猛烈な空腹に襲われた
待ってて
冷蔵庫見てみる
ビールとつまみと、カップラーメンで良いぜー
遠慮って言葉が、この世にはあった気がする
僕が冷蔵庫にビールなんて常備させてるわけがない
ってか悠、車あるじゃん
泊まってくつもりかな?
苦笑いをしながら、冷蔵庫を開けた
すぐ目の前に、普段はないものが置いてあることに気づく
もちろん、ビールではない
スーパーの買い物袋
中身が入ったままの状態で置かれていた
見覚えがあった
葵
昼ご飯を作ると言って、見せてくれたものだ
袋を取り出す
中に入っていたもの
ほうれん草、人参、長ネギ、鶏肉、かまぼこ、卵、うどん、白だし
そして、その上に乗せられた小さなメモ用紙
作ってあげられなくて ごめんね
病み上がりの僕が、いきなり重たいものを食べて具合が悪くならないように、考えて、用意してくれたんだ
こみ上げるものを抑えつけるように、僕は日直の子どものような声を上げた
うどん、作るよ
悠と瞬が、キョトンとしてこちらを見る
作るって、今からか?
そ
この暑い中うどんかー?
そ
良いじゃねぇか
空腹の時に変なの食ったら腹壊すぞ
それ
そ、れ以上言葉を続けたら、
せっかく抑えつけていたものが、
するりと抜け出していってしまいそうだった
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