第三話
本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。
○詩を読むように読んでいただきたい
○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい
このような勝手な願望からです
一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。
金曜日
予定通り母の迎えがあり、退院の手続きと会計を済ませてくれている間に、葵にメッセージを送る
母の車に乗り込んで、葵って友達に、家まで来てもらうことになっていると伝えた
あら、悠くんと瞬くん以外にも友達っていたのね
と、失礼極まりない発言をする母
確かに、僕は見える体質のせいで、小さい頃から友達って言える子はほとんどいなかったんだけど
僕のアパートの前に、人影が見えた
葵だ
母に言って、少し手前で止まってもらう
葵は、僕たちに気づいて手を振った
半袖のワンピースに帽子を被って、手には買い物袋を下げている
僕は自分の身体に異変がないことを確認して、車から下り、葵の元まで走った
葵
お待たせ
わざわざごめんね
待ちに待ったこの瞬間
元気そうで良かった
顔色も良いね
ご飯も食べれてるんでしょ
うん
葵はにっこり微笑むと、車から下りてきた母に頭を深々と下げた
はじめまして
神野葵と申します
息子様が大変な時に、お見舞いにも行けず申し訳ございません
こっちが申し訳なくなってしまうほどの丁寧な振る舞いに、母も少し慌てたように頭を下げる
車での様子からして、恐らく葵という友達は、当然男性と思い込んでいたのだろう
息子に女友達、しかも超美人
母の顔のあちこちから、驚愕が溢れてしまっている
ちょ、ちょっと春樹
葵に背を向けて、母は僕を車まで引っ張って行った
すっごいキレイな子じゃない
やるわね
恐らく人生で初めて、息子を見直したのだろう
やるわねって
葵は友達だよ
母の笑顔に、冷やかしが加わる
友達ねぇ
わざわざ一人で?
買い物袋下げて家まで?
ウヒヒヒという気味の悪い笑い声を漏らしながら、息子を大いにからかった
そして、葵に向き直ると
葵さん
頼りない息子ですが、どうぞ宜しくお願いしますね
と、わざとらしくねんごろに頭を下げた
はい
どうかご安心下さいね
葵の対応は、どこまでも真摯だ
でも、春樹さんは頼りない人なんかではありませんよ
一瞬、母が面食らったように固まる
僕も一時停止
やだぁ、ぅをほほほほほほほ
母は、聞いたこともないような笑い声を上げると、車に乗り込んで行ってしまった
おじゃま虫おじゃま虫ー、とか唱えてた気がする
あれは、完全に勘違いしたな
小さくため息をつく
春樹さんのお母様も、もしかして先生?
葵が僕を覗き込んできた
思わずドキッとしてしまう
うん
同じ小学校教諭
やっぱり
料理教室に来た生徒さんの何人かがね、小学校の時の担任が、藤沢先生だったって話で盛り上がったの
ああ、多分母で間違いないね
ずっとこのへんで教員してたから
葵は本当に嬉しそうに、母のことや僕の容体を聞き、昼ご飯は一緒に作って食べよう、と買い物袋を見せてくれた
アパートの部屋に向かって並んで歩く
仕事が終わったら、二人も来るって
うん、悠さんから聞いてる
それまで、葵と二人きり
ぼ、僕の部屋で
すぐ隣に感じる葵の体温
あらぬ妄想が駆け巡っては、猛スピードで去ってゆく
全力疾走した後のように、心臓が激しく波打った
横目で葵のキレイな目を見る
そのまま唇、首、胸と視線でなぞって、勝手に赤面した
確かにお祓いの代償は辛かったけど、そのお陰で葵とこうして
僕の思考が、今度は壊れたラジコンカーのように動き回る
いかんいかん
慌てて僕は、首を振った
自分は、理性ある生き物だと言い聞かせる
待て待て待て待て
よく考えてみろ
僕が葵と、どうにかなんてなったら
せっかく僕のために、いろいろ調べて動いてくれた二人を、裏切るようなことになるじゃないか
フーっと鼻から息を吐く
いや
でも、まぁ
もし、もしも万が一
万が一だよ?
葵がそれを望んでるなら
そうなって、しまうのも
仕方ないことなのだけれども
中学生と大して変わらない考えを、ぐるぐると脳内で回転させながら、部屋の鍵を取り出す
大学入学から住んでるアパート
最初の勤務先が近かったので、社会人になってもそのまま住んでいる
一LDKの家賃四万五千円
建物自体は古いけど、駅からは近いし住んでて不満は何もない
相当遠くに転勤にならない限り、ここに居つくことになるだろうと思っている
ドアの前まで来て、急に背筋が寒くなった
動きが止まる
何かが見えた、からではない
部屋、片付けてたっけ?
昨日午前中に出たきりだから
ヤバい
生ゴミとかこの気温だし、腐って部屋中が腐敗臭で満たされてたら、ムードなんて吹っ飛んでしまう
いや、母が昨日、着替え取りに来たから、それなりに片付けてくれてたり、なんか?しない、か
葵
部屋ん中、腐ってたらごめんね
一応謝罪しておく
葵は笑って、
気にしない気にしない
一緒にお掃除しようよ
と言ってくれた
安心して鍵を開けて、ドアノブを回す
どうぞ
おじゃましまーす
とりあえず玄関はセーフ
我が家の匂いに、ホッとする
足元に目を落として靴を脱ぎながら、同じ動作をする葵を横目で見た
玄関から短い廊下を挟んで、リビングへの扉がある
見慣れた部屋
の、はずだった
そこに紛れ込んだものがなければ
決して、
決して見たくなかったもの
再会、したくなったもの
昨日の朝まで僕を苦しめていた悪寒が、再び襲いかかってきた
身体中の血液が凍る
頭の奥がキーンとして、目眩を覚えた
な、
なんでおま、えが
な、んで
ろれつが回らない独り言
葵は慌てた様子で、僕の視線の先と、僕の顔を順に見た
そして、僕の名を
呼んだ
その声が
とても小さく、
遠くに
聞こえた
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