第五話 中編
本作品は、句点、かぎ括弧、エクスクラメーションマークを敢えて付けずに編集しております。
○詩を読むように読んでいただきたい
○読者の皆様に、自由に情景を想像して読んでいただきたい
このような勝手な願望からです
一般的な小説と比較すると、大変読みにくくなっておりますことを、予めご理解いただいた上でお読みいただければ幸いです。
あ、そうだ
聞きたいことあったんだ
あのさ、あの酔い止めのおまじないって効果ずっと続くの?
あの後、瞬の車の乗ってもさ、全然大丈夫だったから完全に治ったのかなーって
聞きたいことは山ほどあったが、とりあえず当たり障りのないところから、という鉄則
うーん、人によるかなあ
治っちゃう人もいるし、すぐに戻っちゃう人もいるし
やっぱ霊に取り憑かれやすい体質とかあんのかな?
うん、悠さんの場合はね
残念だけど、また戻っちゃうと思う
はあ、そうかー
霊たちにも好かれちゃうんだよ
遊んでくれるんじゃないかって
優しいから
一瞬、心臓が機能不全に陥る
見た目とか面白いとか言われるのには慣れていたけど、優しいって卒直に言われたのは初めて
な気がする
そうか、オレって優しいのか
優しい
うん、優しい男って良いよな
無意識にマティーニをぐいと飲む
舌と喉が焼かれたが、そんなことはお構いなしだ
おい、一気に飲むな
と、構う人間はいないものとする
大体お話は済んだかしらぁ
出たなカマ海坊主
水の入ったピッチャーやグラス、ナッツやチーズ、クラッカーが乗った皿を次々とテーブルに乗せている
はい、お水飲みながら、ね?
葵ちゃんがグラスを置きながら、オレの顔を覗き込む
嬉しさと恥ずかしさを押し殺して、コクコクと首を縦に振った
う
ヤバい、今ので酔った
慌てて水を流し込む
で、そろそろ何があったのか教えなさいよ
カウンターから椅子を一つ持ってきて、テーブルの横に置く
誕生日席に、どっかりと座ったタンクトップN平
その見た目と振る舞いとは裏腹、葵ちゃんを見つめる目は優しい
案外こうやって顔面周りをトリミングして見ると、なかなかの男前
いちいちギャップで忙しい店だ
葵はちゃんは困ったような、それでも観念したような顔をすると
あんまり楽しい話じゃなくなっちゃうけど、ごめんね
とオレたちに断りを入れる
葵ちゃんの元カレ話
正直、オレの聞きたいと聞きたくない気持ちはフィフティフィフティ
咲人さんと会ったの
男前N平の顔色が、みるみる赤黒く変わる
あいつが?
何て?
男声なのかカマ声なのか分からないほど、うわずっている
助けてくれって
相当切羽詰まってるみたいだった
何も変わってないよ、四年前から
四年前
四年前っていったら、オレが就職で上京した年
そして、葵ちゃんが
警察行った方が良いわ
何かあってからじゃ手遅れよ
何かあってからじゃないと、警察は動いてくれないでしょ
元恋人同士のいさかいなんて、現状相手にしてもらえないよ
それに、彼ができるのなんて、精々こんな待ち伏せして嫌がらせすることだけだよ
今回だって、多分何かであたしが出るっていうセミナーのこと知って、後つけて独りになるの待ってたんじゃないかな
大勢がいる中に入ってくような勇気がないんだよ
一つ小さなため息を漏らす
悠さんたちにね、そこを助けてもらったの
ちょっと脅かしてやろうって思ったみたいだけど、逃げても追いかけてこなかったから、内心ビビってたんでしょ
葵ちゃんもママN平も、揃ってため息をした
ほんと、しょうもない男ねぇ
今度現れたら、何気ない顔してうちの店連れてきなさいよ
別れて四年もたってるのに、どの馬鹿面下げて現れてんだって説教してやるわ
金にだらしない、しつこい男に生きる価値なし
きっぱりと言い放つ
全くもってその通り
心の中で拍手する
オレのことを言ってるわけではない、はず
それから葵ちゃんは、咲人という元恋人とのこと、自分のことを教えてくれた
葵ちゃんはH道出身で、大学卒業後は地元企業に就職、そこで咲人と出会い共に上京
咲人は真面目で誠実、何より葵ちゃんのオカルト癖を受け止めてくれる優しい人間だったが、競馬場に通い始めるようになってから人が変わったようになり、仕事もやめてしまった
元の恋人に戻ってほしいと願い、U市、俺たちが今住んでいるY市の隣に引っ越した
でもやっぱりダメで四年前に別れて、単身ここに引っ越してきた、ということだった
ほんとに全然面白くない話でごめんね
みんなが助けてくれて、本当に嬉しかったんだ
それに霊がどうだなんて話、ちゃんとできるのなんて久しぶりで
本当は昨日ね、飛行機で帰る予定だったんだけど、機材トラブルとかで運休なっちゃったの
この時期だから他の便もいっぱいで、たまたま高速バスなら空きがあるって先方が予約してくれてね
朝イチの新幹線と迷ったんだけど、せっかくのご厚意に甘えることにしたんだ
そう言うと、オレの顔をじっと見て、輝かんばかりの笑顔になる
大正解、ね?
マティーニで、オレの液化した脳細胞が沸点を超える
自分の顔面の状態が分からない
ニヤニヤしてんのか、オドオドしてんのか
とにかく、
発火点をもうじき迎えることだけは間違いなかった
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