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奴が来る 完結編

8月上旬、今日は大須商店街にとって1年の中でも忙しい日である大須夏まつりのシーズンだ。

 私のお店は深夜営業専門だが今日は、大須商店街連盟のお手伝いに来ている。

 

 私は大須商店街連盟の中にある8つの振興組合の1つに一応、名前だけは連ねている幽霊会員ではあるが、商店街のイベントやお祭り関連のお手伝いは参加するようにしている。 


 私は普段はOLをしているが、仕事は1人ではできない、チームプレイが重要なのだ。

 それは個人の模型店運営でも同じ、テナントのオーナーや商品の仕入れ先である問屋さん、注文した商品を発送してくれる運送屋さん、等々、とにかく商売は横のつながり、助け合いが重要なのだ。


 「お水をどーぞ‼」


 そして本日、私は大須商店街内で行われている大須コスプレパレードの給水所で某公国軍衛生兵のコスプレをしながら他のお店の方々のお手伝いでパレード参加者さん達へお水をお配りをしている。


 そう、今日は大須夏まつりの日であると同時に世界コスプレサミットの開催日でもあるのだ。

 我らが大須商店街では毎年、8月上旬に行われるこのイベントとコラボしコスプレパレードというのを開催している。

 この日は、全世界からコスプレイヤーが集まり、各々、思いを寄せる作品愛を爆発させるべく名古屋へ集結する日なのだ。


 コスプレパレードも無事、トラブルも無く終了し給水ブースを撤収。

 時刻は午後17時、私は衛生兵のコスプレ姿のまま、大須のCAFEで休憩しボンヤリ大須商店街の街に溢れる、お客さんやコスプレイヤーさん達を眺めていた。


「……アイツ、が生きてたら。もしかして一緒にこの光景を眺めてたりしたのかな……?」


 アイツとは勿論、大量の積みプラだけを残し自殺した弟のことだ……。

 夏祭りの賑やかな喧騒の中、1人ブルーになってしまった。


 弟が自殺するほど悩んでいたなんて……なんで私は気が付かなかったんだろう?今さらながら私の頭の中に後悔の二文字がグルグル渦巻いて軽い眩暈を感じた。

 

 もしアイツが生きていたら、深夜模型店を一緒に切り盛りしていたのかも知れない……あの賑やかで、喧しいお客さん達とプラモデル談義に花を咲かせたり、大須商店街のお祭りやイベントに参加して一緒に泣き笑いしながら過ごして今も楽しく大好きなプラモデルに囲まれながら暮らしていたのかも知れない……。


 今さらもう実現しようもない事に思いを馳せてしまう。


「ヤバイな……。今日はせっかく楽しいお祭りの日なのに……この後、お店も開けなきゃなのに……。」


 私の心は街の賑やかさとは裏腹に暗黒面に引きずり込まれそうになっていた……。


「……はっきり言う、気に入らんな……。」


 大須商店街の一角、オシャレなカフェで項垂れる某公国軍衛生兵である私の隣から聞き覚えのある声が聞こえてきた……。

 幻聴でも幻覚でもない、私の隣にやたらとハイクオリティな赤い某公国軍エースパイロット専用の赤いノーマルスーツ姿の仮面男が左わきに角突きのヘルメットを抱え、右手に持ったモカフラペチーノをアヒル口をしながらチューチュー吸引している。

 その姿は、まるで作戦行動から帰投したばかりのエースパイロットそのものの風格を表現している。

 見た目だけなら……。


「……なんすか?速見さん……今日は、いつもより赤いですね?その恰好でお経読んでたんすか……?」


「……君はアイスコーヒーで酔っ払える特殊体質なのか?そんなわけがあるまい、普段の私は至ってノーマルなのだよ。仕事を終えてから着替えたに決まっているではないか。今日は、何の日か知らぬ君でもあるまい……。」


「……そうですね。今日は楽しい、夏まつりでした。そんな日にこんな辛気臭い雰囲気だしてサーセン……。」


「違う‼今日は一年に一度、私の様な身分ある者が、世を忍ぶ普段の仮の姿から、真の姿を堂々とさらけ出し堂々と街中を闊歩できる特別な日なのだよ、中尉‼」


「私、中尉じゃなくて店長ですけど……。」


「細かい奴だ……。しかし今日の君の姿……実に……良い……良いが、そのプレッシャーは気に入らんな⁉もし、戦場で傷つき疲れきった兵士のそれを表現しているならば100点中、120万点だが、君のそれは、そうではあるまい?」


 さすが速見大佐だ、人の心を読むのが上手い。


「私は残念ながら未だ、人類の核心には至れてはいないが、今日の君がよくないモノに引かれているのは解る。君程の兵に何があったというのか?まさか、あのアホの巨星にセクハラでもされたのではあるまいな⁉」


「……いや、セクハラ野郎は大佐の方かと……。」


「ウグッ……。中尉は手厳しいな……。」


「ご心配なく、今は凹んでますがお店を開ける時間までには回復させますんで。……それに、今日は第3土曜日じゃないんですよ?」


「3は私のラッキーナンバーだが今日は、忘れよう。今の君には話を聞く者が必要なようだ……。スペースノイドの同胞を救う前に檀家を救うのも私の使命だからな……。」


 私は檀家でも彼の寺の信者でもないが、私がこの大須で深夜模型店を開いた経緯を大佐に話した。さすが、本業がお寺の住職である速見さんは人の話を聞くのが上手い。


「……あの店に、そのような経緯があったとはな……。なるほど、私があの店に引かれるのはその為か?……それにしても君が抱えている物は、残念ながら私の言葉で解決したり、心が軽くなる様な物でもなさそうだ……。」


 私は正直、驚いた。

 私は速見さんが私の心に抱えてる闇を聞いて、その心の隙間に入り込んで口説きにかかると思っていたからだ。

 腐っても歴史あるお寺の住職だ、大変失礼な事をしたと反省し謝罪した。


「……君は、私を一体何だと思っているんだ?」


「……成金、生臭坊主だと思ってました。」


「……耳が痛いな。君の私への評価は一先ず、横に置いておくとして。これからの私の言葉は、住職ではなく一人の友人としての言葉として聞いて欲しい……。君がこの街で深夜営業専門の模型屋を始めたのは、間違いなく君の弟君の影響だろう……。それはいい。しかし、問題なのは……君が未だ、深夜模型店を開業以来プラモデルをまだ一台も組んでい無い事だ……。」


 私は後頭部を思い切りハンマーでフルスイングされたような気分になった。

 速見さんの言葉通り、深夜模型店を開業以来、私は一台もプラモデルを組んでいない。

 それよりも、遥か昔、幼かった弟と一緒に作って以来だ。

 私の模型知識の原型は幼き頃の弟からの物だ。

 デカールにウエザリング、肉貫き、パテ盛り、等々、弟が嬉々として語っていたのが懐かしい。

 それに深夜模型店の常連さん達のお蔭で知識だけならプロ級かも知れない。

 しかし、私は未だに一台も組めていない。

 まるで弟と対話するのが怖いみたいだ。

 学業や仕事の忙しさを理由に弟の面倒を母に全てを任せてしまった後ろめたさからかも知れない。

 父は私と弟が幼い頃に亡くなっていたので母と弟には私しかいなかったのに……。


「……私、模型屋、失格ですかね?」


 

「…………。」


 普段、お喋りの速見さんは目を瞑りただ黙って、CAFEの天井を見上げている、今の私に授けるべき有難い、説法でも探しているのだろうか?それにしてもCAFEの他のお客さん達の目から見たら私は上官に詰められている下士官にでも見えるのか、CAFE内外からの視線が痛い。


「…………君は、作るべきだ。」


 速見さんは長い沈黙の後、一言呟いた。


「作品の質は関係ない、君がプラモデルを作る事が君の弟君への供養になると私は確信する。理由は言えんが断言する。君はプラモデルを作るべきだ……。」


 速見さんは、私ではなく、私の右斜め上をボンヤリと見つめながらいつも以上に威厳のある声で呟いた。


「……そうですね、私、作ります。……プラモデル。弟や皆さんが夢中になるこの素晴らしい世界に私も触れていたいから……。」


 私は何故だか急に心が元気になってCAFEから飛び出した。

 何故だかわからないが、今すぐプラモデルを作りたい気分になったからだ。

 そして私は、いそいで大須商店街のアーケードをぬけて、自分のお店、深夜模型店へと走った。


「勝利の栄光を君に‼」


 私の遥か後方から速見大佐の大声が響いた。

 私は、その声に反応し立ち止まり振り返ると満面の笑顔で敬礼し叫んだ。


「ジーク、ジ〇ン‼」

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