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奴が来る 前編

 毎月、第3土曜日の深夜3時に奴が来る……。赤い高級外車で乗り付け、毎度、真っ赤な薔薇の花束を持って来る迷惑客が。


「やぁ、京子さん奇遇だなー。こんな場所で度々、会うなんて。我々はどうやら不思議な縁で結ばれているらしい。この偶然はもしや人類の新たなる可能性の兆しなのかも知れませんね?ハハハハハ!」


 全身を赤い、高級スーツに身を包み、深夜なのに巨大なサングラスをかけた金髪鬘を装着したオッサンが私の前にこれまた小惑星並みに巨大な薔薇の花束を差し出して異常な程、白い歯を輝かせ微笑んでいる……。


「あの、奇遇も何もココ、私のお店ですし。それに毎度、毎度、薔薇の花束を渡されても困ります‼、後、お車は路上駐車せずにちゃんと近所のコインパーキングで駐車して来てください!出禁にしますよ?速見さん‼」


「何と!私とした事が迂闊だった!私の愛機は私の部下にすぐ移動させよう。……曹長、すまんが私の愛馬を格納庫へ。傷をつけるなよ!」


「ハッ!了解であります。大佐‼︎」


 大佐こと、名古屋大須商店街の中にある、歴史深い某お寺の住職である常連の速見さんは、毎月、第3土曜日の深夜3時きっかりにお寺のお弟子さん?の曹長さんを連れてやって来る。


 来店されるのは良いが、どうゆう訳か毎度、私に深紅の薔薇の花束を押し付けてくるナンパ目的のはっきり言うと迷惑客だ。


 正直、今すぐ出禁にしたい所だが、彼は来店する度に、高額商品を必ず買ってくれる、いわゆる太客なのでそれが出来ない。


 週末深夜にだけ営業する、こんなふざけた模型店が何とかやって行けるのも彼の様な、セレブリティな、お客様がいるからなのだと理解はしているが無性に腹が立つ。


 更に腹が立つのが彼の声が、私の憧れであるあの、お方と瓜二つなのだ。


 性格も、見た目も、まるで違うが声だけはご本人様?かと思うほどにクオリティが高い。

 余程の訓練を積んだのか、それとも素であの声なのかは、わからないが気に入らない。


「はぁ〜〜〜……。」

 私は、思わず深い溜息をついた。接客業ではありえない態度だが私の我慢も限界なのかも知れない。


「ん?いけないな〜、若い女性が溜息をつくなどと、そんな姿を見せられては男として見過ごす訳にはいくまい?この私でよければ話を聞こうではないか。何でも言ってみると良い。この世の悩み事なぞ、金の力で大抵、方がつく。」


「……黙れ、俗物‼︎」

私は、思わず感情をそのまま台詞にして吐いてしまった。


「グッ!何というプレッシャーか⁉︎この私にこれほどまでのプレッシャーをかけられる店主がこの大須界隈に存在するとは⁉︎私も認識を改める必要があるらしい。侮れん店だ。」


……悔しいが、今の返しはちょっと面白かった。


「あの〜速見さん?申し訳無いのですが、今夜は何も買われず、制作ブースも使われないのでしたらお引き取り願えますか?他のお客様のご迷惑になるので。」


「フッ!この私を舐めて貰っては困るな。……今宵はアレを頂こう。」


そう言うと速見さんはカウンターの後方、商品ラックの最上段に鎮座するデカブツ。

1/144サイズながら馬鹿みたいにデカい箱にパーツ総数500以上を内蔵する定価27,500円の超高額商品へ何の迷いも無く人差し指を向けた。


「……速見さん、本気ですか?」


「フッ、私を誰だと?この大須観音の巨大提灯になぞらえて、赤い巨⚪︎⚪︎と呼ばれるこの私に二言は存在せんのだよ!」


「速見さん次、セクハラ発言したら出禁ですからね?」


「モニターが・・・死ぬ⁉︎」

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