青い巨星
私が名古屋の大須商店街に深夜模型店をオープンしてから早いもので3ヶ月。
決して大儲けできている訳では無いが、テナント家賃や仕入れには困らない程度には経営が成り立っている。
それは、このお店をただ模型を販売するだけではなく、組み立ても出来る様に制作ブースも設けた事が功を奏したのか開店以来、足繁く通ってくださるリピーターを確保出来たのが大きい。
大きいと言えば、大須商店街の中に在る老舗スーパーで生鮮野菜コーナーを担当をされている体の大きな青野さんが今夜も制作ブースに陣を張り、猛烈な勢いと情熱を込めてプラモデルの制作に取り組んでいた。
「京子ちゃん!コーヒー、それと紙ヤスリ!ちょうだい‼︎」
「ハイ、400番ですね?」
「おっ?京子ちゃん、わかってきたね?そうまずは荒目のヤスリで削ってプラを整えるんだよ。」
「ハイ、青野大尉のおかげで私もビルダー知識がガンガンレベルアップ中でございます!そして、コーヒーは一杯500円、サンドペーパーは2枚まで無料になっております。」
「商売上手だな〜。ここで酒も売れば良いのに?」
「申し訳ございません。青野大尉、お酒の提供は許可関係がめんどくさいのと、酔ってニッパーなど刃物を使うと大変、危険なので致しません!」
「なるほど、確かに。」
「ところで、青野大尉は何故にプラモを作るのでありますか?」
「な、何よ急に⁈」
私は、常連のお客様のプラモ制作の邪魔にならないタイミングを見計らいこの質問をするようにしている。
それは、いい歳した大人が何故にこんなにもプラモデル制作に夢中になるのか知りたいと言う好奇心もあるが、それ以上に、亡くなった弟が生前、夢中になり、恐らく生きる理由の全てであっただろうこのプラモデルという世界の魅力を知りたかったからだ。
「お客様へのサービス向上と、このお店の発展の為のアンケート的な奴です。無理にお答えなさらずとも大丈夫ですので。」
「ああ、なるほど〜。そうだな〜何でプラモを作るのか?て面と向かって改めて聞かれると難しいけど、やっぱり単純に面白いからじゃない?」
「面白い、ですか?」
「勿論!プラモデルて工業製品だから直組したら同じ物が出来るはずなのに、出来上がりは全部違うんだぜ?知ってた?」
「いえ、まだ修行中の身でして。」
「プラモデルはね、作り手の腕もそうだけど魂ての?そうゆーのも投影されるのよ。マジで。作った奴の想いが乗るてのかな?プロの作品を一度でも見てみな?マジで感動物だよ?感じた事あるプラモデルで感動?信じられる?涙でるくらいの作品があるんだよ?言い方悪いけど、ただのプラスチックの玩具だよ?でもね、コイツには自分が生きてきた思いとか、願いとか乗せて表現できるのよ?」
「……それは、わかるかも知れません……。」
「そう言えば、この店のショウケースにもあるじゃん!そんな奴が。一番上の段の右端の奴。アレは凄いね、技術レベルは中の下くらいだけど、何か鬼気迫る物を感じたね。何か痛みとか哀しみとかその機体に乗って戦ってた奴の心情風景というか、感情が見えるみたいな?アレ、作った人はここの常連かい?友達になりたいな〜。今度、紹介してくれない?」
私は青野大尉の言葉を聞いて涙が溢れ出て止まらなくなった。
青野大尉が指さしたそれは、私の弟が恐らく、この世で最後に制作した最後の作品だったからだ。アイツの残した思いが他の誰かにプラモデルを通して通じたのだ。私はたまらなくそれが嬉しかった。
「ええっ、何で⁉京子ちゃん、何で泣いとるの?俺、何かセクハラ発言しちゃった⁉」
「いえ、違うんです。目にサンドペーパーの砂が入っただけなので、お気になさらずどうぞ作業にお戻りください。失礼しました。」
私は青野大尉の言葉で、自分が、このお店を開いた理由を再認識した。
私は弟が生前、感じていた事を知る為に!このお店を開いたのだ。
私はその事を改めて気づかせてくれた常連客の青野さんを、青い巨星と呼ぶ事にした。




