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シュセンド  作者: あゆみかん熟もも


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6/15

シュセンド・6


 司祭は説いていた。万物は流転し、業は保たれたまま、『(うつわ)』は滅びと再生を繰り返す……と。


 悔い改めなさい、癒しを請いなさい、私の手をとりなさい、余計なものは捨ててきなさい……

 注文の多い司祭は、聖徒に向かってそう投げかけている。そして次のように謳っていた。


 可愛い我が娘、クオリアよ。お前は千年後、神になる。

 それまで楽園で過ごすのだよ、クオリア。汚れなきように。


 クオリアは知っていた、外の世界を。金にまみれた愚かな者ども……と。

 滅びていく……。



 ……


 衝撃は別の所にも踏みこんでいっていた。

 せっかくのデートを事件のせいで台無しにされ、最低な日を終えてボロのアパートに帰ってきていた直人は、数日、空虚だった。気持ちを切りかえようとスーパーで買った特価のジャ・ボン(ナスが改良ではなく勝手に進化しハジけて酸っぱくなったもの)豆腐で無理やりにコサイン料理を作ってみたものの、「これではタンジェントだ」と自己評価を下していた。アクラムでは通用する。ちなみにサインは卵を使ったトロピカル料理だった。


 直人が細々と部屋でひとり食事を終えて食器を片付けようと立ち上がると、突然に嫌な予感がしていた。それで直人は、ひとまず玄関の方へと何気なしに移動したのだった、その背後だった。


 天井を突き破って、『隕石』が落ちてきたのである。「ぬうん!?」


 振り向くと同時に破壊音と轟風で直人は吹っ飛んでしまった、何が起こったのかが判らないでいた。玄関先まで飛ばされて、しかもドアをも体当たりで巻き込んでいた。蝶番のとれたドアは無残にも直人のせいで内側から折れ曲がり、鈍い音をさせて倒れてしまっていた。


「何なんだ? ……」


 腕や肩などぶつかった部位をさすりながら、直人は『隕石』を確かめようと身を起こした、だが、外へとドアごと放り出されていた直人の正面に軽装で長い金髪の少女が外の階段を駆け上がって来て立ち、直人にいきなり真っ向から謝り出したという。「ごめんなさい!」


 急に頭を下げられて、戸惑っていた。「何なんだ?」……WHAT?、何は繰り返されていた。見れば解るだろう、そう直人は改めて『隕石』に刮目した。すると、激しく舞い上がった砂煙のなかから、人のような影が段々と現れて直人は仰天、近づいて驚嘆していた。

「人が落ちてきたのか!?」


 その通り、落ちてきたらしいのは少年で、気絶していたため動いてはいなかった。いや、そもそも服は少々破れてはいるが、無傷だった、普通に寝ているように思えていた。「……」

 直人は、少女を見て難しい顔をしている。少女は名乗っていた。


「成といいます、そっちの彼は連れです、ごめんなさい……見境なく追いかけてたら、彼、爆発して飛んで行っちゃったの……怒らしちゃったのかな……」


 言っていることが滅茶苦茶だった、直人は理解に苦しみ目頭を押さえてもう一度成を見て言っていた。

「とにかく、部屋で待っていてくれ……損傷が酷い。アパートの大家さんに怒られてしまう」


 怒られるだけで済まないと思われるが……直人は気をしっかりと保っていた。



 直人は借金をすることになった。大家さんとの詳細は秘密である。

 金の算段は終了し一段落をつけて、直人は穴のあいた部屋へと帰ってきたのだった。「ただいま、待たせたな……ん?」閉まらない玄関をくぐってなかに入ると、天井など綺麗に片付けられ掃除までされ、台所から味噌汁の香りが漂っていた。「おかえりなさい」


 成が台所を拝借し、簡単な料理をしていた最中だった。鍋は2つあり両方はコンロにかけられていて、ひとつは味噌汁だがもうひとつは何かが煮えていた。直人は立ち尽くしていた。「……」

「あ、すみません……とりあえず、彼、縛りつけていますがまだ寝てますので……できたら、見張っていて下さると助かります。暇だったんで、台所を」

「あんたらどういう関係なんだ。もう限界だ、わけを話せ」


 言った通り、直人は我慢もそこそこ、成に詰め寄って聞くに達していた。「はい、その」成は手を止めず、経緯を説明するにはまず何処からと言葉を探していた。

「初めまして、私は成で……彼は……『シュセンド』って、知ってます? 彼がそうなんです、闇の取引市場の働き屋」


 直人は真也へまた目を皿に、「こいつが!?」と反応していた。真也は後ろ手を電源コードで縛られて、横になって寝ていた。遠隔の動作能力がある以上、縛りつけても気休めにしかならないだろうということは、成も承知していた。


 成はこれまでのことを直人に説明する、隙間風が半端なく凄まじい部屋、明日から働きを倍以上にしなくてはならない借金を背負った直人。現実は甘くはなかった。


「クオリアぁ……? 何だそりゃ、女神?」


 反して、現実離れした話に直人は半信半疑だった。


「私は彼に育ての親を殺された」


 成の目は厳しかった、……真也に近づき、頭を撫でてみたりしていた。

「許さないわ……彼を……」

 瞳は色濃く、真也を見つめている。髪に触れるその仕草は、言っていることとは矛盾しているようだった。直人は咳払いをひとつ、多い疑問や謎を整理していった。

「それはそうと、おかしな話だ。千年もこいつ、自分が生きられるとでも?」

「“肉体は滅びても業は消えぬ、新たな体に魂宿され、輪廻を繰り返す”――本当かしらね……?」


 少なくとも、真也はそう思っている。実際にそうであれば、千年でも万年でも精神ひとつに地で何度でも生まれかわりを体験し時を過ごすことが可能であると言える。これを転生、或いは肉体レンタル、或いはハッチャケぶっとびワールド全開、ということもできよう。信用はできなかった。


 成と直人が通夜の晩のような沈んだ顔をして待っていると、その内に真也は目を覚まして起き上がっていた。「おは」成がおはよう、と言う前に、真也はコードに両手を巻かれたまま素早く立ち上がって逃げようとしていた。だが直人の反応の方が速かった、余裕で直人は真也の逃げ道を塞ぎ、ドンと押すと真也はいとも簡単に倒されてしまったのだった。撫でつけていた髪も乱れることなく直人は真也を見下していた。

「俺のが上なのか。だったら大人しくしていてもらおう」

 アクラムでの至上主義は、存分に使えて発揮されそうだった。「お前に味噌汁を食わしてやる」取り押さえられた真也は抵抗することができなかった。



 食卓にご飯と具のない味噌汁、鶏卵ではない卵焼きが並んでいた。はて何か1品足りなくないかという疑問は冷蔵庫のなかにある、2時間後に完成するらしかった。無言で3人は箸をすすめ、味噌汁を食べたというよりは飲み終えた成は直人に、大家さんとは穴のあいた部屋にどのような折り合いをつけたのかを聞いてみていた。始めお茶を濁していた直人だったが、「とりあえず『隕石』のせいにしておいた」と言っていた。とりあえず。「明日本屋へ行ってメンズ雑誌を買ってこないと……化粧用品も……大家さんの紹介だ、失礼なきように」直人のひとり言は、成にはよく解らなかった。直人は借金返済のために今後の生活が色々と大変らしかった。


「今後のことだけど……私、“クオリア”について情報がほしいから、他のシュセンドを当たってみようかと思う」


 成が言い出していた。「シュセンドを? こいつと同じ奴らを?」直人が話をふるが、こいつと呼ばれた真也は黙って味噌汁をすすっていた。ちびちびと食していた。

「真也の言っていることが本当なら、誰かが知っているはず。クオリアのことも、オークションのこともね……」「でも、どうやってだ? 普段、隠れている奴らを?」「これよ」


 成がポケットから出した紙は、選挙ポスターだった。「おいおい、勝手にはがしてきたのか、捕まるぞ」手持ちサイズに折り畳まれていたそれを広げて見せては、また畳んでいた。「構わないわ」成の目は真剣で、小さなことなど気にはしていなかった。


「私の勘だけど、この大物政治家の首にも賞金がかけられているんじゃないかって。予想」

 腕を組みながら直人は「うーん」と唸りっぱなしである。「勘、って……当てになるのかそれ」直人の心配など御無用で、成は根拠もなく自信で言い放っていた。「たぶん。昔から、天気とか当てるのは得意だった」

「天気を当てられてもなぁ……」


 直人の苦笑いは止まらなかった。真也は味噌汁をすすっていた、もうすぐ卵焼きに箸が到達する。


「……“輪廻”だけど。聞いてると、どうも宗教くさいんだよな。ひとつ心当たりがある」

 直人は思い出したことを口にしていた。「何ですか」成はひと足お先に食べ終えて、お椀を端に寄せながら直人の話に関心を向けていた。

「大宗教界クリウム、大司祭サンタメリアの教えだ。かなりキチガイな……いや、薄気味悪い連中で、何でも……信者は確実に、精神操作(マインドコントロール)されるって話だぜ」

「マ……」

 考えて成は寒気がした。本当なのそれ、と身を縮こませていた。

「噂だ……確かめてみたわけではない。俺の故郷に本部がある」


 直人が捨ててきた星、惑星アクラム。競争国家、争いの絶えない星だった。故に、安らぎを求める者が多発していた。表では武器をふりかざすが、内では違っていた。そこにつけ込んで、奇妙な団体は猛威を奮うのだった、さあ我に身を委ねなさい、あなたに安らぎを与えよう……

 戦いに身を置く戦士の胸元には、調和を示す円[図/グラム]がぶら下げられている。


「行って確かめてみたいけど……お金が……」

 成は着の身着のまま真也を追いかけてきてしまって、金が僅かにしか無かった。弱った顔をし、真也の方をちらりと見やる。真也は皿の上で山になっていた、焼いただけの『卵焼き』に突入していた。「別にいいけど」箸は止まらず、真也は残った卵焼きを綺麗に食べていっていた。美味しかったのだろうか、文句もなく表情もないが、成はホッと胸を撫で下ろして笑っていた。不味かったらどうなっていたのだろうか。


「そういえば……アクラム行きの客船チケットが低値でオークションに出品されていたのを過去に見たことがあるぞ。無論、正規のだ。今でも旅行会社からあるかもしれない、あったら、入札してみたらどうだ?」


『携帯こみゅ』シリーズのうちのひとつである愛用の腕時計、SH―07を取り外して、成に預けながら直人は言った。「うん!」嬉しく成は受け取って装着し、使い方を覚えながらオークションを探し、参加申請、登録をしていった。「そういえば……」成は直人に忘れていたことを思い出して聞いていた。

「何だ?」「お名前、何でしたっけ」


 何だそんなことかと肩を回しながら直人は胡坐をかいて寛いでいた。

「孫直人」


 ……




 距離を線で表すならば、波は生まれ、時間が生まれる。

 距離を点で表すならば、波も時間も無い。


 点Aから点Bへ。客船は、ワープする。


 ……


 成はドキドキと緊張高鳴る心臓と共に、脳へと送られてくるオークションの『入札情報』に集中していた。まだ成は入札していない、終了間際を狙うつもりだった。商品名は『93年宇宙の旅ドリーム☆NONOKAと一緒に☆ゴーゴーアウェイ』で、3泊4日プランの旅行だった。行き先は惑星アクラム、ほとんどが自由行動であり開始値が5PYと怖いくらいに安値だった。


 終了予定時刻が迫っている現在、入札数はその安さのせいなのか最終にドドドと入札ラッシュが待っているのか、0だった。成がこのまま自分のIDと商品ナンバー、入札額を告げればメディアを通して落とせるのかもしれないが、最後まで気が抜けなかった。「ぬぬぬ……」爆弾かもしれないスイッチを押すか押さないかで悩んでいるのに似ていた。


「そんな難しく考えるな……肩の力を抜け」

 台所で洗い物をしていた直人が言っても、成の耳には届いてそうにもなかった。「うー」頭痛に苦しむ人にも見えていた。

「入札単位はいくら? 相手は大概、最低額で押さえておこうとするだろ、それを逆手にとって、下一桁をいじっておけばいい……」

 脱走を諦めた真也は……スピードの遅い食事を終えて寝ていたが、成にひと声かけていた。


「???」

「だから」


 やれやれ仕方がないと真也は身を起こして成の隣に移動し、成に駆け引き、競りのコツを教え出していた。直人はオヤ? と温かく光景を見守っている。冷蔵庫のなかのものは、忘れられていた。


 オークションは終了1分前に他の誰かが入札し成は冷や汗をかいて焦っていたが、「落ち着け、だから……」と真也の冷静な判断と的確な助言のおかげで、延長はしたものの無事に落札は成功していた。


「やったあああ!」

 喜びを全面に表し成は真也に飛びついていた。「うぐっ……」




 名前で遊ぶ作者(いつもだ)。

 現在の価格に応じ、最低限上乗せする必要がある金額をオークション側で予め設定してあるのが『入札単位』らしいのですが、これを、入札単位の整数倍で入札することと勘違いなさっている方が多いため、結構トラブルになっているようです。日本と違い外国じゃバンバン競りは行われておりますが、下一桁が細かくなる方が普通の認識のようです。その方が面白いんですけどね。



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