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シュセンド・11


 穴は閉ざされてしまった。

「きゃああああ!」

 成の悲鳴は空しく響き、より一層の恐怖を引き立たせていた。「ぐふぐうぐぐぐるる……」腹からの吐息か、声にもならない重量のある音がしていた。閉ざされて見る機能を遮断され、恐怖は蓄積され気は病と化し、こうして滅びていくのだろう、成は動転していた。

「落ち着け、見ろ」「?」

 顔を庇う成を前方で支えながら真也の『声』は、成を救っていた。成は顔を上げて『敵』がいるのかと思わしき地点へ注目していた。真也が促した通り、『敵』には……。


『敵』は、発光していた。青白く、皮膚と皮膚の隙間から光がこぼれていたのだった。入口が消えたことにより完全に暗闇となったおかげで『敵』は、自らの正体を明かすとともに成たちを慄然の淵からすくい上げてくれたのだった。「ギシャァァァア……」金物を研ぐくらいに高く鈍い、鋭い奇声が鳴り止まなかった。


 古代の恐竜か、爬虫類と呼ばれていた生物だった。巨大なトカゲとでも言えば分かるが細胞は、青白く輪郭を浮き立たせるほどに発光していた。全長は、家屋の屋根まではあるのだろうか思っていたよりは小さかった。だからといって不安や焦りが無くなったわけではなかった。


「あんな化け物を映画で観たことがあるぞ。奴らには知力が無いんだ、本能が働いているんだ。侵入者に警戒しているのか、空腹なのかどっちかだろう、慌てず騒がず、……そうだ、銃を試してみたらいい」


 直人が提案し、上着の内ポケットからカツラギより買った銃『マグフォ』を取り出して状態を確かめていた。直人の余裕のおかげで成も真也もつられて、それぞれ与えられた銃を取り出していた。


『敵』は待たずに襲いかかってきた、真也めがけて影が動き空中を高く跳んでいた。ガッ、ペタ、ぺたぺたぺた……床を這う足音がしていた、真也は軽く避けてしまっていたが『敵』は跳んだあと難なく着地し、振り返って目を光らせて成たちを威嚇しようとしている。だが今度は成でも怖がることが少なかった。

「た、試しに私が」

 臆病から脱出しようと成は、自分の持っていた軽量熱線銃『パナショニック』を手に構える、鮮やかに赤くてポップなその銃は、成に活力を与えていた。狙いを定めた。「よおし」

 まずは一発。成は思い切って、と熱線を発射していた。『敵』には当たったり当たってなかったりで、本当に効いているのかと聞きたくなってきていた。すると最初のうちはよかったが、数回引き金を引いても銃は何故だか熱線を放出しなくなってしまったのだった。「な、何で!?」困った成は、グリップ部分を見てそして気がつき唸ってしまった。残量表示、数字が『0』となって表示されていたのだった。何が残量『0』なんだと考えてみれば答えはひとつ思いついていた。カツラギがしかと説明してくれていたのは銃が『電池式』であること、残量がない、つまりは充電切れだった。「げげ」うんともスンとも言わない銃が憎らしく見えてきていた。

「使えない! もお!」

 成は銃を放り投げてしまっていた。『敵』は倒れることなく元気に活動していた。「ぐおおおおお……」銃はソーラーにも対応しますと宣伝文句を並べていたが、此処には日光はなかった、非常に残念だった。「ぐるるる……」


 真也が自分の持ち銃、『シャープペンシル鉛筆型[SPE型]』で攻撃を試みていた。見た目が鉛筆の型でシャープペンシルに対抗意識を持つという設定らしかった、真也にはどうでもよかった、撃てるなら。


 撃鉄部分を起こして発射している、すぱん、すぱんと弾かれて動力の音は小気味よく聞こえていった。芯ではなく針が飛び出すが、『敵』に突き刺さってはいるものの、ダメージを与えているよりは針ツボ治療で刺激を与えて健康になってやしないかと過ごすうちに疑いがかかってきていた。


「どうぞ次」

 真也は諦めて、隣の直人に出番を譲っていた。「大丈夫だろうな、この銃は」いくら安価とはいえ、少しの役にも立っていないというのはどうだかなあと直人は嘆いていた。直人は撃ち方を教わった通りに構えて4発同時の弾発射に挑んでみていた。マニュアルに沿って弾は発射されたが、『敵』の足下を崩しただけだった。ぐらりと体が傾きかけ、バランスを失いかけていた『敵』は、持ち直そうと足掻いて離れた位置に移動していた、だが直人は追いかけて、銃は使用せず肉弾戦に挑んでいた。

「申し訳ないが」直人は銃に謝っていた。謝る必要性が解らない。


『敵』は尻尾を向けて振り回し始めていた。なので直人は尻尾に体当たりも兼ねて食らいついていた。まさかそんなと成が小さく呟いたあと、『敵』の体は直人によって地面からしばしの別れを告げて、空中を舞い、……再びに地面へおかえりなさいと叩きつけられていた。ばっしん! 「ぴぎゃ」信じられないくらいに可愛らしい声、赤子のような悲鳴で『敵』は確かにダメージを受けていた。

「凄い……力持ちだね~」「……」

 ぱちぱちぱちと拍手していた成と、無言の真也。呑気そうに構えていた2人を、直人は叱っていた。


「こら馬鹿! 俺が時間を稼ぐから、出口でも探しとけ!」


 言われて2人は、『敵』の光のおかげで完全な暗闇ではなくなった部屋から出口を探し始めていた。2手に分かれて探していると、成が隅で排水溝の金網を発見するに至っていた。はき出された水は何処へ流れ向かうのかと伝ってみると、マンホールがあった。


「真也、ちょっと来て!」


 慌てて真也を呼び、蓋を開けられそうにないか、と頼んでみると真也は「重いだろうから、少し待って……」と素手でまずは開くかを試してみていた。成もそれは手伝い、不思議なことに重さがなくなっていくのを感じながらも蓋を開けることに成功していた。真也のテレキネシス能力は役に立っていた。


「直人ー! 此処から出られそうだよ!」


 開けたあとを調べてみると水の他に空気が流れており、成にはにおいに覚えがあった、施設内で嗅いだことのあるにおいで、外に繋がっているのに違いないと確信していた。人も充分に通れそうだった。……



 出口を見つけた一行は、まずは梯子を降りて、地下から地下へとさらに深い底へ行くことになった。無臭で、水が溝を伝って流れているため湿気があるが、それとは違って気味の悪さが付き纏っていた。監視でもされているような気配といえば解るのだろうか。人が数人でも横並びで通れる幅のきかせた地下水路で、カツラギが言っていた規模とはこれのことではと思われた。


 時々に進路は枝分かれし、成の当てになるのかが不明の勘で先を急いでいた。「こっちよ」迷う暇などないと、一行は突き進むのみだった。探していたのは出口、本当はクオリアへの手がかり、出来ればクオリアとも会いたいがと念頭に置いていた。特に後者は真也が強く願っていた。


「待って」


 ぴちゃん。水の撥ねる音が一緒に被さっていた。先頭を行く直人、続く成が同時に後ろの真也に振り返り訊ねていた。「どうしたの真……」言いかけて、「しっ……」真也が指を突き立て黙るようにと示していた。立ち止ったまま数秒を過ごすと、真也がぼそぼそと確信で左手先の方向を見ながら言っていた。「人の声がする……誰かいる」成たちには判らなかった。だが、真也が直人を抜いて先頭に立ち慎重に歩き出すと、声は成たちにも聞こえてきていた。


 地下水路は所々に監視部屋を設けているらしい、施錠されたドアがあり部屋があり、真也が壁に背をぴったりとくっつけて息をひそめながら近づいていくと、直人や成もあとに続いて行った。


 鉄格子のあるドアの小窓から覗き、部屋にいたのはラフですぐに破れそうな防護服を着た2人の平凡な顔立ちの男たちで、事務の机の上にお菓子を広げながら談笑しているようだと分かった。監視カメラの映像が数面、壁面にディスプレイ[出力表示]されていた。まずかった、と真也は心して思っていた。


(「どうしたの」)

(「監視カメラに俺たちが映っていたかもな」)

(「えっ……」)

(「大丈夫らしい、奴ら悠長に寛いでる。気がついてないんだろ」)

(「よかった……」)

(「よくない、いつ何処でカメラが見張っていたのか……微小カメラか、クリアカメラか……迂闊に行動できないな」)


 小声での会話の先は、成たちを悩ませて解決策が見い出せなかった。沈黙すると、部屋のなかに別の何者かが急にやって来たらしく、男たちがお菓子を高速で片づけて出迎えていた。


「何か変わったことは? 報告しなさい」


 真也たちには見なくても察しがついていた。カツラギ、見た目には華やかで吸い寄せられてしまいそうになるが、真也たちを奈落に落とした油断のならない男だった。カマくさい言葉の使いは性にも合っている気がして違和感はない。


「はっ、此処では特に異常はありません。それで報告ついでで申し訳ありませんが、つい先ほど、先日に捕らえてきた地底民族マダルキシュの連中、4名のオークション出品登録が完了したとの報告を受けました。もう耳にされていたかもしれませんが、改めて報告申し上げます」


 男のひとりがカツラギに恭しく礼をしていた。カツラギは、ほう、と頷き関心を持っていた。

「そうか、結局4名か、生き残れたのは」

 カツラギの返しは鋭さを帯びていっていた。

「はい。なかなか、試作は完成しませんね……効率が悪いですし」

「では赴くとしよう。……何処だ?」

「せせらぎの部屋で、ございます」……


 男たちもカツラギも、部屋をもぬけの空にして行ってしまった。これなら今のうちに移動すればと真也は先を急がせていた。

「ま、待ってよ、真也」

 真也を焦らせているのはクオリアの存在のせいである――クオリア、クオリアは何処だ、何処にいる?

 逸る足は止まらない、後ろを見ない、正解のない未知(みち)を辿っていた。

 成と直人は真也を追って、水路をひた走っていた。ところがだった。


 成の足の下、ぽっかりと穴が開いてしまう。「へ?」狙われたのでは、と思うくらいに突然の出来ごとだった。どうやら元からそこだけが崩れていたようで、成の重みで床が陥没したらしかった。「成!」直人の叫びも悲しく成は真下へと墜落していった。「ああ~……」どうやらまだ地下へと施設の構造は続いているようで、水路から落ちた成は垂直にと暗いなかへ消えていった。



 ……


 宇宙は広い、どれだけが宇宙なのか、夢、それは現実とは違うのか。

 理想を描いた者の肉体は戦に滅び、意志は受け継がれて連続し、叶えられていく。幸せを求めた者は、幸せに。不幸せを願った者は不幸せに。要求は叶えられる。笑った者は笑われて、痛みを与えた者は痛みを与えられる、受けては返し、受けては返しの連続を……


 ……


 厨房では、ヤオパ族の子どもと大人たちが大鍋のなかの泥色スープを交代でかき混ぜて、調理をしていた。褐色の肌を持ち、絵具で描いたような頬のしるしは子どものオリジナルだった。ふざけて遊んでいた。


「うー、まっずぅい!」

 味見をしていた子どもがよからぬ声を上げて周囲をガッカリさせていた。「やっぱりねー」

「あのケノコがヤバかったんじゃない? 色がおかしかったしー」

「せっかく作ったけど『エコッた君』にかけちゃってよ」

 大人も子どもも交じりながら食事は作られていた、すると。


 がっしゃん。

 カラカラ……


 鍋や洗浄機などが乱雑に置いてある収納スペースへ、天井から客は降ってきていた。鍋の蓋が転がって、子どもがそれを拾い上げていた。

「ママー、何か降ってきたよ」

 子どもは有りのままを母親に報告していた。言わずもがな、母親どころかその場にいた全員が驚き集まってきていた。「んまああああ」鍋を火にかけたままで、騒然としていた。


(いたたたた……た?)


 成はじっと打ちつけた痛みに耐えながら、身の無事に感謝していた。どれだけの距離を落ちてきたのか狂った頭では覚えてはいなかった。成が起きて所在を確認すると、注目していたヤオパ族の大人と子どもがわあ、と歓声を上げていた。

「だあれ!?」「きゃー、可愛い! 何処の子なの!? 迷子!?」「こっち向いてえ~」……


 その熱気に圧倒されて、成の目は点になってしまっていた。

「あ、あのその……此処は何処でしょう……出口が分かんなくって……」

 成が収納台に正座して汗をかいていると、大人のひとりが前に出てきて成に話しかけてきていた。


「出口なら、そこを出て道なりに進んで階を上がって……そうだわ、アユリカを呼びましょうか」


 子どもを呼び、子どもが『アユリカ』を呼んで連れてきてくれたのだった。『アユリカ』――銅鐸みたくずん胴で、顔は半円形に笑顔で作られていたが部品で目隠しされていた。足も手も球が埋め込まれており、手は場合に応じて飛び出せる仕組みになっていた。あくまでも案内用で、会話機能はついていなかった。コロコロと肉球を転がして走り、ボディは全身がピンクと全身が白の2色がある。


「これがカツラギの言ってた『アユリカ』……」


 何とも言えないキモ可愛さがあった、成は持ち帰りたいと少し思ってしまっていた。

「カツラギ様とお知り合いの方なの? 案内と連絡用のロボには2種おりまして、『アユリカ』と『アプリカ』が施設内で巡回していますわ。『アユリカ』はご覧の通りに大人しくて守衛型。『アプリカ』は攻撃が専門でちょっとそそうがありますわ」


 親切にも、ヤオパ族は成に世話を焼いてくれていた。友好的でどうでもいいことまで教えてくれていた。過去にアプリカとアユリカの結婚式が開かれたこともあるとまで教えてくれていた。

(アプリカってどんなんだろう……)

 成は、まあいいかと厨房を出て行った、アユリカに案内されて、施設内の住人のふりをして普通に何でもなく廊下を歩いて行っていた。


 真也と直人が見つかればいいのにと思いながら、逆にカツラギに見つかったらどうしようと思いながら成は施設内を渡り歩いて、幾人かの信者たちとすれ違って挨拶をしていた。おばあちゃんから子どもまで、年齢だけでなく人種違えば出身も違うし、考え方も違うだろう、同じものがひとつもないくせに何故だかひとつに纏まっている。


 此処はひとつの体系化、生活形態が出来ているような気がしてならない、それを叶えたのが――もしや、サンタメリア、なのだろうか。


(平和だ……)


 平和は、堕落または怠慢と同等だと誰かが言っていた。成にはまだよくも解らぬ世界の話……だった。



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