0609
私が起動した時、彼女は目を輝かせていた。
「おお~。目が光った」
そう言って私の目を覗き込むのは目がパッチリした鉄腕娘々だった。
「はじめまして。私の名前を教えて下さい」
「楽阿弥」
「楽阿弥ですね。貴女の名前を教えて下さい」
「遮音」
「ご購入ありがとうございます遮音様。私はセクサロイドの楽阿弥です。性処理の他にも家事全般を得意としています」
「それよりそれより、お喋りしましょ!ガールズトーク!ラミィ先輩の会話データも入れたし、ちゃんと口調も同じなんでしょうねぇ」
変な奴。セクサロイドを何だと思っているのかしら。
「まだ初回起動後の簡易設定が終わっていません」
「いいのいいの。動けばいいから」
「しかし...」
「ほら、座って」
丸いクッションを案内された。
観念して楽阿弥のデータを読み込む。
「しょーがねーなー。設定は後回しにしとくからな。後で絶対にするんだぞ」
クッションに腰を下ろした。
「お!いい感じだねぇ。はい、コントローラー」
「ん?」
「ゲームしよ!」
「テレビゲーム?やったことないし、私の本分から外れてる」
断った瞬間、彼女は差し出していたコントローラーを私の顔にぐりぐりと押し付けた。
「私を楽しませるのがお前の役割でしょ!いいからやりなぁ!」
「...はいよ」
そこから三時間ぐらいゲームと雑談の相手をしたところで、彼女はコントローラーを置いた。
「ふぅ~疲れた~」
「終わり?」
「うん。疲れた」
「休憩だな!」
私が服に手をかけると、
「服を脱ごうとするな!」
一喝された。
「気が早かったか」
「先に言っとくけど、お前は自分をセクサロイドだと思うな!」
「意味がわからないんだけど...」
セクサロイドはセクサロイドだろう。
「性的なサービスはしなくていいってこと」
…。
「それは私の存在意義を全否定してるぞ」
「そう。私はお前を殺す。家事もしなくていい。寂しい時に一緒にいてくれたらそれ以上望まないから」
やや下を向いた哀愁漂う顔から、言わんとすることを汲み取った。
「...それは私に求めているもの?それともラミィ?」
「...ラミィ先輩かな」
私は漸く彼女の心境を理解した。
「それでいいのかよ」
「いいよ。だってラミィ先輩は命の恩人で私はただのモブだから」
「命の恩人?」
「そーなのよ。初任務で一人でいたところを襲われてね。怖くて腰抜かして殺されそうになっているところに颯爽と駆けつけて、一人で全部片付けちゃったんだよ!カッコ良かったなぁ~」
そう話す顔からは悲しみが滲み出ていた。
「付き合えばいいじゃん」
「無理無理。ママみたいに強くないと相手にされないわ」
「じゃあ私を抱けよ」
「そんなことしたらまともにラミィ先輩の顔見れなくなっちゃう!」
「か~、純情だねぇ」
「馬鹿にしてんのか!?」
「当然だろ!エッチもしないのにセクサロイド買う奴がいるか!」
「仕方ないでしょ!セクサロイドじゃなきゃ外見を細かく設定出来ないんだから!」
なるほど、つくづく…。その熱意を本人にぶつけてやればいいのに。
「あーはいはい。じゃ、ベッド行こうぜ」
「は?話聞いてたか?」
「エッチが駄目でも膝枕ぐらいは大丈夫だろ」
彼女は上を見ながら考えた。
「ん~確かにそれぐらいなら」
「ホラホラ、行くぞ」
「ちょっと!引っ張んないでよ!」
しかし、力ずくで膝の上に頭を乗せると大人しくなった。
「...やっぱり、ラミィ先輩と触れ合ってる感覚にはなれない」
「そりゃそうさ。皮膚の再現は出来ても、偽物であることはかわりない。ブランド物も本物と偽物は意識するだろ。それと一緒さ」
「お前は偽者に生まれて恨んでる?」
「うんにゃ全然。だって、遮音様とこうして触れ合えるのは偽者の特権だから」
それに、生まれたばかりで心がまだ無いっての。
「そう...。」
頭を撫でると最初は体を震わせたが、心地好かったのかすぐにスヤスヤと眠ってしまった。
布団を掛け、私は朝まで彼女の寝顔を堪能した。