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鉄腕娘々デンジャラミィ  作者: らりるらるらら
【鉄腕娘々デンジャラミィ】
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0815

その日は、早朝から起きていた。

ネオン街の一角、とある風俗店の地下室に邪布はいた。鉄腕を外して身軽になった代償に、人間として戦う責務が重く伸し掛かる。

地下室は体育館ぐらいの広さで数百人のレジスタンスが武器の最終チェックを行っていた。しかし邪布は上の空で、作業に集中出来ていなかった。

(あいつとは喧嘩別れになっちゃったな。まあ、僕がいなくなってもあいつなら逞しく生きていくよな。遮音だっているし)

銃を持つ手が震える。

(死ぬ時って痛いのかな。ううん!ダメダメ!僕は絶対生きて帰るんだ!)

恐怖を捨て、無心になって装備品の確認を行う。レジスタンスの中にも女友達はいるが、何かを話すだけの余裕は無かった。作戦開始までに心の準備を済ませるだけで精一杯だ。

と。

「あー、あー。マイクテスト、マイクテスト」

入口の方から拡声器を使った声が響いた。一番聞きたくなかった声が。

「愚かな人間共に告ぐ。我が愛しの嫁、邪布たんを返しなさい。繰り返す。我が愛しの嫁、邪布たんを返しなさい」

馬鹿が一人、肩で風を切りながら入ってきた。が、すぐに銃口を突きつけられた。

「あの馬鹿!」

行こうと思った時だった。

ドドドドド!

一斉に銃弾が発射された。

「あっ」

口元を手で押さえた。

しかし、銃弾を浴びるよりも先に、鉄腕の一振りで周辺のレジスタンスごと吹き飛ばした。まるで台風だ。人が宙を舞っている。少し遅れて暴風が吹き荒れ、髪の毛が後ろにもっていかれた。

ラミィは落ち目だと誰もが思い込んでいたが、今が正に全盛期。なんてことはない彼女はずっと実力を隠していたのだ。

予想外の怪物の出現にレジスタンスは蜘蛛の子が散る様に逃げていく。

「ババシャツの妖怪だ!」

「妖怪ババシャツだ!逃げろー!」

普段ならツッコミの一つも入れるのだが、今日だけはスルーして邪布を見据えていた。

拡声器を後ろにポイと放り捨てた。

「迎えに来たぞ」

「何も訊かないんだな」

「家族だからな」

「家族じゃねぇ!僕は人間でおめーは鉄腕娘々だ!」

「ほう。ならばこの先どんなエロい展開になってもそれは近親相姦にならずに純愛だな!ヨダレ出てきたワ」

おちゃらけてみたが、邪布が真面目な顔のままだったのでラミィも真面目な顔に戻った。

「そんなことを言いに来たのかよ」

「帰るぞ」

「嫌だ!」

ラミィは大きく息を吸い込んだ。


「そんな震えた手で戦場に立てるか馬鹿野郎!!猫が死んだだけで大騒ぎする奴が仲間の死を乗り越えられるか!!」


あまりの大声に室内がビリビリと震えた。

邪布は目を背けて下唇をキュッと噛んでから目一杯空気を吸った。


「うるせぇ!!ここにいる全員死ぬのが恐いんだよ!!僕だけ逃げ出せる訳ねぇだろ!!」


しばしの沈黙。そして、ラミィは薄く笑った。

「やっと本音を聞けたな。結局はそこだろ。ここで逃げたら人間のコミュニティには戻れなくなる。お前は私じゃなくて人間の仲間を選んだ」

「そうだ」

「なら教えてやる」

ラミィは人目を憚らず服を脱いだ。

ブラジャーだけの下着姿になったが、誰一人として色気を感じなかった。何故なら、服の下には痛々しい傷痕が無数にあったからだ。

「戦いとは、これだ」

ラミィは静かに言った。

邪布はギュッと拳握り、

「そんなの恐くない!本当に怖いのは孤独になることだ!」

ラミィはキョトンとして、

「アッハッハッハッハッ!」

笑った。

「言いたいこと先に言われちゃった」

言って、服を着た。

「そうだよ。お前が怖がるから若者向けの露出の多い服は全部捨てた。生き物を殺すのは悪いことだと言うから人間を殺さなくなった。住む場所が無いから私物を捨てて部屋を空けて貸した。私はずっとお前の事を優先し、我慢してきた」

「それはおめーがやりたくてやったことだろ!僕を加害者にするな!」

「うん。だから、今回は我慢しない。自分のことしか考えない。お前を失うぐらいなら、一生恨まれてでも温かい家に連れ戻してやる。お前言ったよな。この腕は何の為にあるのかって。あれからずっと考えて、ようやくわかった」

邪布の口が僅かに開いた。それから一文字に引き締め、

「あんな嫌味を真に受けんなよ。その腕は人間を殺すことを目的に作られた」

「これは大切な家族を地獄から掬い上げる為にあるんだよ」

邪布の手が開き、ピクピクと震えた。

「アヒャヒャヒャヒャ!おめーの頭は春真っ盛りですかァ!戦争がそんな腕一本に左右されると思ってんのか!僕は戦争に参加する!」

「強がらなくていいんだよ邪布たん」

ラミィはゆっくりと歩み寄った。

「来るな!」

さっと銃を構え、銃口を心臓に向ける。

「辛い思いをさせてごめんな。こうなるまで気付いてやれなかった私の落ち度だ」

「うるせぇ!僕は自分で考えてここに来た!撃つぞ!」

銃にかけた指が静かに震えた。ラミィの顔を正面から見れないことに邪布は気付いた。

「そんなオモチャで私は死なないし、お前を人殺しにはさせない」

「来るなって言ってんだよ!」

邪布は下を向いた。下しか見る場所が無かった。

「寂しい思いをさせてごめんな。私の命はお前にやる。だから、お前の人生を私にくれ」

銃口が胸に当たった。そこまで近付かれても、引き金を引くことは出来なかった。

静かに銃を下ろした。

「今まで言ったことなかったけどさ、夢があんだよ」

そう言った邪布の目から涙が垂れた。

「僕も外の世界に出てみたい!それに、もう一個。おめーに謝りたかった!」

ボタボタと涙が落ちた。

「騙してごめん!沢山嘘吐いてごめん!おめーに近付いたのはおめーを弱くする為だった!...最低だよな。なのに白馬の王子様なんか探して、自分だけは幸せになりたかった」

邪布は銃を手放した。銃は落下し、地面に落ちて音を立てた。

「ラミィ、僕死ぬのが怖い。怖くて怖くて、でもどうしようもなくて。死んで楽になりたいのに死ぬ勇気もなくて」

両手で顔を覆った邪布の細い体をラミィは優しく抱き締めた。

「一緒に逃げよう。戦争から、このネオン街から。世界は広いからさ、ロボットだとか鉄腕娘々だとか人間だとか、そんなくだらない括りの存在しない場所はきっとある。そこでのんびり暮らそう」

邪布は顔から手を剥がし、くしゃくしゃになった顔でラミィを見た。

「でも僕やっぱり仲間を見捨てたくない。僕を【動物園】から逃してくれたし」

「わかってる」

ラミィの大きな鉄の掌が邪布を包み込んだ。

「お前達ィ!」

ラミィはぐるりと一周見回し、宣言する。

「こいつは私の身勝手で拉致る。恨むなら私を恨め」

レジスタンスの誰かが口笛を吹いたかと思うと、次に小さな拍手が起こり、広がっていった。

ラミィは出口の方へ顔を向け、

「じゃあな。絶対に勝てよ」

と言い残すと、フッと消えた。



二人は小型バイクに二人乗りして、曇り空の下荒野を突っ切っていた。初めての外の世界に興味津々で左右をキョロキョロと見回すラミィだったが、

「何もねーな」

と肩を落とした。背中にしがみつく邪布がその理由を説明する。

「環境破壊が深刻なんだ。酸性雨で植物が育たない。あんな地下に街が形成された背景がそれさ。で、どこに向かってんだ?」

ラミィはわざとらしく口笛を吹いた。

「まさか...」

邪布の顔がみるみる青くなった。

「冒険ってのはいつだって見切り発車だ!」

ラミィは元気よく言った。

「引き返そう!土下座すればまだ間に合う!」

ラミィの背中をバンバン叩いた。

「冗談だって。海を渡れば環境は違うだろ。いざ国外へ!」

その時、ラミィはバッと振り返り鋭い目で後方を睨み付けた。楽しい雑談から一変、緊張が走った。

「ん?どした?」

と邪布も後ろへ顔を向けるが、砂煙で何も見えなかった。目を凝らすが何も見えずにいると、

「おーい!」

と声が聞こえてきた。ラミィが息を吐くと同時に緊張感も抜けていく。

「ラミィせんぱーい!」

砂煙の中に大きく手を振るバイクに乗った鉄腕娘々のシルエットが浮かんだ。その直後に砂煙を抜けて二人と同じ型のバイクが顔を出した。

「おーい!」

「この声って!」

邪布が正体に気付いたのとほぼ同時に、砂煙の中から遮音が現れた。しかしその顔にはパンティが被せられていて、何やら異彩を放っていた。

「ブルン、ブルン!ボボボボボ!」

とエンジン音を口で真似する。今日の遮音はおかしい。

「遮音!?...なのか?」

「マイネームイズ遮音!遮音イズマイネーム!」

ああ、遮音だ。ラミィは安心した。

「つかお前その顔!誰のパンツ被ってんだよ!」

「ん?クンクン。あ~しゅんでるね~!」

「おい!答えろよ!」

「禁断症状だね」

と邪布。

「禁断症状?」

「遮音はラミィ成分が不足すると奇行に走る」

「うわぁ」

気持ち悪いな、と喉元まで上がってきた言葉を飲み込んだ。

「っていうかお前トップアイドルだろ。他の連中はどうした」

戦争という分岐点でリーダーを失った若手の不安は計り知れない。

「まあ、なるようになるでしょう。ええいままよ!と飛び出してきました!」

遮音は舌をペロッと出した。

「無責任だなぁ」

と呟くラミィを邪布は白い目で見ていた。

「ラミィ先輩がいない場所に興味は無いんです。私はラミィ先輩を舐め回すことを生き甲斐にしてるんでね!目でも舌でも」

舌が右から左へ左から右へ這い回り、ラミィの背筋が凍った。

「ちっ!一番厄介なのが付いてきたな!」

「ラミィせんぱー、あれ?もう先輩じゃないのか。ぐへへ。ラミィ、俺の抱き枕にならないか〜」

「スピード上げるぞ!捕まったらレイプされる!」

「あ~ん、ラミィ待って~。ブルン!ブルン!」

ぷっ、と邪布から笑いが漏れた。

「アヒャヒャヒャヒャ!」

いきなり爆笑した邪布にラミィは困惑した。

「笑ってる場合か!」

「だって、こんなに楽しいのは初めてだからさ」

「邪布たん...」

「僕ずっとおめーらを騙してたからさ。こうして何も背負わずに接することが出来て、解放された気分だよ」

ラミィの口元が緩んだ。

「そうか。解放で思い出したんだけど、私の性欲は常時解放型だから」

「年中ムラムラしてるのを特殊能力みたいに言うな!」

「今乳首を触られるとヤバイ」

「エロ同人か!」

「感度が百倍に上げられている!」

「誰にだよ!」

と邪布がツッコミを入れたところで、

「ヨッシャー!!」

と遮音が爆発した。

「マズイ!遮音がヤル気になった!」

「おめーが変なこと言うから!」

「いいだろ!これからは自由なんだから!」

「自由って?」

邪布が嬉しそうに訊く。

「この広い世界で色んなことに挑戦することさ!」

三人は荒野を駆ける。その先に広がる未知の世界に胸を膨らませて。

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