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鉄腕娘々デンジャラミィ  作者: らりるらるらら
【鉄腕娘々デンジャラミィ】
3/84

0814

邪布は早朝から家を出た。

「ま、帰ってきたら焼き肉でも誘って機嫌取るか。どーせ夕方まで帰ってこないだろ」

朝御飯を食べて暫くゴロゴロしてから気晴らしに外に出た。

ここは歓楽街なので風俗業を営むロボットがショタを連れて歩くこともあるのだが、今日はやけに多い。それに上物ばかりだ。

ラミィがショタの四肢を見ていると、行く手にショタの大群が立ち塞がった。その奥から着物姿の舞妓ロボットが前に出た。

「久し振りだねキレキレ丸キレ美。一匹どうだい」

「久し振り。その名前で呼ぶなっつーの。...今日はやめとくよ」

「あら、どうしてだい」

「使い潰してるだろ。客を見てもビビりもしない。こっちはウブな反応にそそられるってのに」

舞妓ロボットは薄く笑った。

「まあ、荒っぽい客もいるからね。五体満足なだけでも普通に楽しむだけなら充分さ。ウブな奴ったって、養殖の実情も知ってんだろ?客に出せるまでに最低七年。母体にも限界がある」

「知ってるよそんぐらい」

舞妓ロボットは何かを気にしてチラッと後ろを見た。

「で、本当に買わないんだね?安くするよ」

「要らないって」

「所有権込みで一匹一万でどうよ」

「安っ!一泊の値段だろ」

「買うかい?」

「怪しい...」

「嫌ならいいんだよ」

「買わないよ。こっちにも事情があるからな」

ショタを買ったら邪布と喧嘩どころの騒ぎではない。

「そうかい。そりゃ残念だ。それはそうと」

「キャーッ!!」

若い娘の悲鳴が会話を遮った。

「今のは!?」

ラミィは声のした方へ顔を向けた。舞妓ロボットはどこか遠くを見詰めながらこう言った。

「崩壊の足音さ。この狂った社会の」

「ん?」

「この商売もすぐに時代遅れになりそうだね。ま、鉄腕娘々専門の商売なんて潰れるのが世の為か。あんたの婆さんに文句言ってやりたいね。…さ、行ってやりな。自分の尻も拭けないガキ共だけど、お前さんの可愛い後輩なんだろ?」

「後輩って、じゃあ今のは!」



遮音の目からは涙が流れていた。地面に尻をつき、手足でじりじりと後退する。

いつもの簡単なミッションだと思って参加したら、自分を含む鉄腕娘々十名が惨敗。自慢の鉄腕を切り落とされていた。まだ腕が残っているのは遮音だけだ。

敵はそれを奪おうと早足で近付く。テルテル坊主みたいなフードで全身を覆っていて顔もわからない人間の男。袖口から青白い光の剣が伸びている。皆これにやられた。鉄腕を受け止める頑丈さと、切り落とす破壊力を持った恐ろしい武器。

「ひ...」

遮音は今まで自分より強い人間と戦ったことが無かった。命の危険を感じたのはこれが初めてだ。新人の頃と違い、今は自分が仲間を守る立場。先輩の助けを期待してはいけない。

恐怖のあまり泣いた。死ぬのが恐かった。ブライドも粉々に砕かれた。これ以上何かを失うとしたら、命ぐらいだ。

光の剣が襲い掛かる。

「ママッ!」

遮音は顔を両腕で庇い、思い切り瞼を閉じた。

ガンッ!と大きな音がした。

痛みがやってこない。

「悪いね...」

その声を聞いた瞬間、遮音は恐怖から解放された。

「私の後輩なんだワ」

敵の剣をラミィの鉄腕が受け止めていた。

「ラミィ先輩!」

遮音はフードの中で鋭い目がギラリと光るのを見た。その目はラミィを睨み付けていた。

「約束が違うぞ」

敵が静かにそう言うと、ラミィは下を向いた。

「若い世代は知らない。それに、ロボットの目もある」

敵は光の剣を引っ込めた。

「お前らデザイナーズベイビーなんだってな。ここから出ようとしないのは、母親がいるからか?それとも…」

「…妄想だワ。この街が好きだから出たくないだけだっつーの」

「そりゃ残念だ。次は絶対に邪魔するなよ」

そう言い残し、路地裏に消えていった。

「ふぅ…」

ラミィが一息ついたところへ、

「ラミィ先輩!」

遮音が泣きながらラミィの背中に飛び付いた。

「死ぬかと思った…」

すすり泣く後輩にかける言葉が見つからなかった。生きていて良かった、そう思うばかりだった。

遮音がより一層腕の力を強めた。

「家まで…怖い…」

掠れた声だった。

「わかった。送ってやる」



遮音の部屋でラミィは足を伸ばしながらお茶を飲んでいた。自分の家には無いお洒落な家具や食器に目を奪われていると、漸く泣き止んだ遮音が自室から出てきた。

「部屋着ありがとう。下着はそのままで良かったのに」

「女の子なんですからそう言わずに。それに、運動後で汗の臭いがしてましたから」

「それぐらいなら大丈夫だって。二日に一回入りゃ何とかなるもんよ」

ラミィが軽く笑いながら言うと、遮音は目を見開いた。

「え?」

遮音の顔がクルッとラミィに向いた。ラミィはすぐに違和感を感じ取った。

「ん?何?何かまずいこと言った?」

「いえ何も」

遮音は慌てて目を逸らした。

「そう?あ、お茶おかわりある?」

遮音は冷蔵庫まで走っていき、ピッチャーを持ってきてラミィのコップに注いだ。

「ありがと。このお茶うちのと似た味だな」

「お目が高い!体作りも仕事ですから、ラミィ先輩の食事を参考にしてるんですよ」

「なるほどねー。一度も家に呼んだ記憶は無いけどな」

二人の間に微妙な沈黙が流れた。

ラミィは気付いた。邪布が流していたのは下着だけではないと。

ラミィは咳払いしてから会話を続けた。

「参考にするならもっとベテランがいるだろ。引退してるけど、私より上の世代は今戦っても勝てる気がしない。何度病院送りにされたか」

「参考にならない娘が多いんですよ」

言われて、先輩の顔を思い浮かべる。

「...確かに」

二人は苦笑いした。

「話変わるけど、BL漫画ある?」

「ほんと突然話変わりましたねぇ!ありますけど!」

いきなりの話題変更に、遮音はつい大きな声でツッコミを入れてしまった。ラミィは遮音のツッコミの才能に光るものを感じた。

「実物?」

「そりゃ実物ですよ!どんなに生活が便利になろうと、実物の本の魅力は消えませんからね」

「だよな。電子書籍では得られないもんがあるよな。読んでもいい?」

「オススメのを持ってくるのでちょっと待って下さい。」

ラミィの前にすぐにBL漫画がドカッと用意された。

「ふむ」

評論家の様に表紙を見比べ、気になったものから読んでいく。

遮音も料理に集中出来たのですぐにテーブルに料理が並んだ。ふっくらとした白いご飯と煮込みハンバーグだ。大きな器に何十キロもある山盛りのデミグラスハンバーグと煮込んだブロッコリーと人参。

「美味い!」

ラミィは二口、三口と口に運んでいく。

「食材から調理まで拘ってますから」

遮音は得意満面で鼻が伸びている。

「正直意外だワー。料理出来そうにない顔してるから」

「どんな顔ですか!女子力バリバリ全開でしょ!」

ラミィは顎に指をあてて首を傾げた。

「ん~、バリぐらい?」

「バリバリバリバリ!」

「アッハッハッハッハッ!凄いね女子力がカンストしてる!」

「でしょ~?」

「じゃあさ、他に何か女子力高いアピールある?」

ラミィのキラーパスに遮音は悩んだ。女子力の高さなんていきなり言われても何を言えばわからなかった。

「え〜と、バッグの中めっちゃ綺麗にしてるんですよ。余計な物も入れないし」

これは正解なのかとラミィの顔色を窺っていると、ラミィはにっこり微笑んだ。

「いいね。私なんか逆さにしたら柿ピーのカス落ちてくるわ。遮音から見て私はどう?女子力高い?」

「え?」

それは遮音にとって、喉が渇いたら水を飲むのは何故?と言われている様なものだった。

「ほら、問題点って誰かが指摘してくれないと直せないし」

「言ってもいいんですか?」

「うん。言ってみ。」

ラミィは視線を外さない。遮音は一度視線を外してから答えた。

「ババシャツで汗臭いです」

「言うな馬鹿!ストレート過ぎるだろ!ババシャツだって柄が独特の可愛い服だし、体臭も大自然の香りとか言い替えてものを言え!いいなァ!」

「ちょ、逆切れですやん!そんなに気にしてるなら改善して下さいよ」

怒涛の勢いで捲し立てていたラミィだが、その一言で一気にしぼんだ。

「それはめんどくさいのよ。もうね、常に流行を追うだけの元気が無いんだワー。あと数年もすりゃお前だって休みの日は酒とつまみ買って自宅でゴロゴロしてるんだからな。気付いたらババシャツよ」

遮音の口元が緩んだ。

「まあそれでもいいですよ。その時はラミィ先輩のとこにお邪魔しに行くんで」

「おう、こいこい。バッグに柿ピーぶちこんでやるからな!」

ラミィが柿ピーをぶちこむジェスチャーをした時、遮音の頭から電球が飛び出した。

「いいですよ。その代わり、ラミィ先輩のババシャツのお下がりもらっていいですか?」

ラミィの頭の上でクエスチョンマークが踊った。

「はあ?まあいいけど。また今度持ってくるわ」

「やったー!」

欣喜雀躍。遮音は上半身だけで喜びを表現した。

ラミィの視線がおもむろに右上に向いた。

「そういや、遮音って喧嘩したことある?」

「ありますよ」

「昨日邪布と喧嘩しちゃってさ。仲直りってどうすればいいの?」

困った顔をしながら頭を掻いた。

「相手によりますけど、謝って誠意を見せるしかないですよ。私の場合は妬み僻みで突っ掛かってくる人ばかりだから関係を切り捨てるしかありませんけどね」

遮音は肩を竦める。

頭を掻いていたラミィの手が止まった。そして、遮音の方を見た。

「謝って駄目だったら?」

遮音はお茶を一口飲んだ。

「怒りが収まるのを待つしかないですね。怒るってすごく疲れるんですよ。全力疾走が何時間も続かないのと同じで、怒りもピークが過ぎるのを待つんです。次の日になったら有耶無耶になってそのまま日常に戻ったりするでしょ?」

「時間が解決するってことか」

少し安堵した表情を見て、遮音は胸元をキュッと握り締めた。

「そうです。心配しても良いことは一つもありません!飲んで忘れましょう!」

「そうするか。」

「買ってきますよ。何要りますか?」

急かされて、慌てて考える。

「えーと、チューハイは適当に買ってきて。三本ぐらい。つまみは柿ピーでしょ、あとはチーカマとガトーショコラ!以上!」

「わかりました。すぐに戻るので待ってて下さい!」

遮音は嵐の様な勢いで出ていった。

ラミィがお花を摘んで手を洗っていると、足元をゴキブリが横切った。

「わ!」

ゴキブリは寝室らしき部屋に侵入した。他人の部屋を漁るみたいで気が引けたが、酒を飲んでいる時に出てきては困る。台所の殺虫剤を手に、扉を開けた。

「...」

ラミィはその扉を開けたことを激しく後悔した。

そこは魔境だった。壁一面自分を盗撮したポスターで埋め尽くされ、正面に自分と全く同じ外見をしたロボットが立っていた。服装から髪型まで、普段のラミィそのものだった。

突然電源が入り、目に光が宿った。

「...はじめまして。私は楽阿弥。お前は?」

声も表情も完璧に自分を再現したロボットに心底驚いた。

「ちょ!待て待て待て!私が楽阿弥なんですけど!」

「は?何言ってんだお前ぇ!こちとら遮音様専用セクサロイドの楽阿弥やぞ!二台目が来て堪るかーっ!捨てないで遮音様ぁ~。もっとおっぱい大きくするから!モミモミ」

泣き喚きながら自分の胸を揉むセクサロイド。

ラミィの額に怒りマークが次々に浮かび上がった。

「ヘラるな!再現度高いのも腹立つな。私と同じ声で卑猥な台詞を喚き散らすな!この粗大ごみが!」

思い付く限りの罵詈雑言を飛ばしたが、セクサロイドは一笑した。

「フッ。僻むなよ、自分はラミィの服を用意してもらえなかったからって」

ラミィは自分の姿を確認した。今着ているのは遮音が用意した服だ。再びセクサロイドに視線を戻した。

「やっぱそれ私のなの!何処で入手した!」

「闇市で買ってくんだよ。セクサロイドだって裏ルートだしな」

「闇市!?ってゆーか、さっきからセクサロイドって!何で遮音の部屋に私のセクサロイドがあんのよ!」

「やだな~二台目。遮音様はレズだからな。お前も予習しとけその辺ので」

指差した先を見ると、漫画が綺麗に並べられていた。ラミィは手に取ってタイトルを確認していく。

「わお!レズ漫画が沢山!あんにゃろBLはフェイクか」

「NTRや催眠ものが性癖だな。二台目が来たってことは新しい性癖に目覚めたか?」

「...ちなみに、お前は普段どんなことされてんだ?」

恐る恐る質問した。聞きたくはないのだが、聞かなければ気が済まない。

セクサロイドは嬉しそうに答える。

「お!熱心だね~!遮音様は」

突然、セクサロイドの目が点滅し、光が消えた。

「いいところで!くそっ、電池切れか!」

バンバン叩いてみるも、動く気配は無い。ラミィは諦めて一刻も早く逃げる決心をした。

セクサロイドを元の位置に戻して部屋を出ようとしたところで足を止めた。

「聞こえてないだろうけど、二度と会うことが無いだろうから言っとくワ」



「ただいまー」

家に帰ったラミィは邪布の部屋のドアをノックした。

「邪布たーん。昨日はごめんねー」

怒っているのかと恐る恐るドアを開くが、部屋にいないだけだった。驚いたことに部屋が綺麗に整理整頓されている。

「部屋がゴミ箱だった邪布たんが掃除?」

感心するよりも怪しいというのが本音。キョロキョロと部屋を見回すと、テーブルの上に何やら紙が置かれていた。

「ん?一人になりたいのでしばらく留守にします。頭を冷やしてもおめーを許せなかったら帰ってきません。じゃあな」

ラミィはその場でひっくり返った。

「邪布たんが家出しちゃった!私が猫を殺したから!邪布たーん!私を一人にしないで~!はっ!今の内に脇汗擦り付けよう!オラオラ!マーキングじゃー!...ふう」

賢者モードに入ったラミィは虚しくなり、冷蔵庫へ向かった。冷蔵庫を開けるが、料理をする気にはなれなかった。

ぼけーっと冷蔵庫の中身を眺める。

何も考えていないのに自然と涙が流れていた。拭っても拭っても止まらない。昨日まで美味しく食べていた食材が、全部ゴミになった。お菓子さえ食べようと思えない。

「邪布たんがいないと、駄目だな私」

料理は出来る。けど、したくない。作って喜んでくれる人もいなければ、作ってくれた料理を笑顔で食べることもない。

「んあーっ!」

むしゃくしゃして冷蔵庫の中の物を冷凍庫にぶち込んだ。

八つ当たりだ。

「ああっあ〜」

感情を曝け出し、涙が枯れるまで思いっきり泣いた。歳を取るのは嫌だ。孤独の重圧は簡単に死を考えさせる。このまま死のうかと思ったが、まだ元に戻れる可能性も0ではない。

ゴシゴシと涙を拭い、洗面所で顔を洗った。

「くよくよしてても仕方ねぇ!突起ちんぽこ丸の相手でもしに行くかー!」



「ヨォ!今日も客がいないねー。店主の名前が下ネタだからしょーがねーよなー!だが安心しろ。私がお金を落としていってやるよ!キリッ!」

「...」

「どうしたどうした!?客が入ったらいらっしゃいだろ!まあいいや!コークハイと醤油ラーメン。勿論チャーシュー大盛山盛りてんこ盛りね!いやーお腹空いちまったワー。鉄腕娘々は代謝がいいからなー!って、ちんぽこ丸も何か喋ってよ。私一人でずっとマシンガントークじゃない!」

ラーメンの用意を始めながら、ゆっくりと口を開いた。

「...何か、嫌なことでもあったのか?」

「え...」

ラミィの心臓が大きく鼓動した。

「長い付き合いだ。嫌でもわかるさ」

ラミィは大きく息を吐いて、席に着いた。

「ふぅん。ちょっとね。邪布と喧嘩したんだ」

「なるほど。何となく予想はついた」

「セクハラじゃないよ!」

「わかってる。だが、一応聞いてやる」

「猫が飛び掛かってきたのにビックリして払ったら死んじゃったのよ。で、喧嘩。さっき置き手紙見付けてさー、しばらく帰らないって。もしかしたらずっとこのまま帰らないかもって書いてたから落ち込んでたの」

「そうか…」

ラミィの前に静かにいつもの山盛りラーメンが置かれた。続いて、水の入ったコップ。

「ちょっとちょっと!コークハイって言ったでしょ!」

「今日は酒は止めとけ」

「何でよ!一日ぐらい酒の力で現実逃避してもいいでしょ!それともこのラミィ様が飲んだくれに成り下がっていくとでも思ってんのか~」

「…」

「な、何か言えよ」

ラミィが視線を外して水を飲むと、凸珍は洗い物を始めて背中を向けた。

「あいつは帰ってこねぇよ」

「は?何言ってんだ!てめぇふざけたこと言うなよ!ぶっ殺すぞ!」

生身の手でテーブルをバンと叩いた。しかし、凸珍は臆することなく話し続けた。

「レジスタンスが戦争を起こす。明日にはロボットと人間の全面戦争だ。あの娘はそこを死に場所に選んだんだ」

「ま、待て待て待て!あいつはな、戦ったことなんて一度も無い。体調が悪いだとか女の子の日だとか、理由を付けて戦場を避けてきた。なのに戦争には参加するだって?有り得ないね」

「人間だろう、あいつは」

雷に打たれたみたいな衝撃がラミィを襲った。言葉にならない声が喉から漏れ出した。一度深呼吸してから、改めて言葉を選ぶ。

「…人間?誰が?」

「お前の友達だ」

「いやいやいや、あいつにも鉄腕付いてたろ。目ぇ腐ったか?」

凸珍は挑発に乗らず、冷静に告げる。

「ハリボテのな。そもそも、鉄腕は普通利き手だろ?あの娘は左手が鉄腕なのに、生身の右手で箸持ってたろ」

ラミィはコップを持っていた鉄の手を開いてコップを置いた。

「そんなの、例外だっているだろ!はい、論破!」

凸珍が溜息を吐くのに合わせて肩が下がった。

「お前が言ったんだろ。猫を殺して喧嘩になったって」

「…あ」

「鉄腕娘々は生き物を殺しても何とも思わんだろ。心があるのが人間の証拠だ」

「…」

ラミィは俯いて一人の世界に逃げた。暫く考えてからやや上を向いた。

「私、どうしたらいい」

「それを決めるのは自分自身だろ」

「…そっか」

ラミィは魂が抜けたみたいに弱々しい声を出した。

「あいつも大人だ。本人の意思を尊重してやれ」

「…うん」

凸珍は頭を掻いた。

「一つ訊いていいか。お前にとってあいつは何だった?」

「友達かな」

「そうか。だったら、諦めて新しい友達を作れ」

「…」

「だが、もし友達以上の何かなら、自分の我が儘を優先してもいいんじゃないか?」

ラミィは顔を上げ、凸珍と目を合わせた。

「...嫌われたら?」

「嫌われるのが嫌なら誰とも関わるな。鉄腕娘々の先達は嫌われるのを覚悟で後継者を育て上げた」

「友達と師弟は違うでしょ」

「だが、一生独身を貫く鉄腕娘々は多い。弟子を家族だと思っているから厳しく鍛える。戦場で敵に殺される惨めな最期にならぬ様に。自分が嫌われようが、常に弟子のことを考えていた」

ラミィは師匠との生活を思い返すが、よくわからなかった。

「そう…なのかな」

「余計なこと話しちまったな。ま、愛と憎しみは表裏一体。誰かを幸せにするってことは、自分が不幸になるってことだ。…冷める前にラーメン食べていけ」



家に帰ったラミィは邪布のベッドに寝転がっていた。

「戦争か…。邪布はどんな気持ちで家を出たんだろう」

立つ鳥跡を濁さず。綺麗に掃除された部屋を見て、彼女の気持ちを推し量る。

「争いが好きな奴じゃなかった。でも、戦場で死ぬことを選んだのは邪布の決断だ。私に声を掛けなかったのは邪魔をされたくないからだし、助けて欲しいなんて思ってない」

死なせたくない。でも、何が正しいかわからない。

「死にたい邪布たんと死なせたくない私。どちらかの意見しか通らない。どう転ぼうとハッピーエンドにはならない」

考えて、考えて、考え抜いて。

朝になってようやく結論が出た。

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