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石部宿 えっ、いきなりクライマックス!?

『桂川連理柵』の物語は滋賀の石部宿近くから始まります。ここは東海道と伊勢参宮街道の分岐点。

伊勢神宮から京都に帰り道の信濃屋お半、遠州の大名から正宗の脇差を預かった帯屋長右衛門がたまたま街道で顔を合わせます。

この二人はどちらも人生勝ち組です。下女と丁稚のお供を連れてお伊勢参りができる商家のお嬢さんと、大名ともツテのある店の主人。


さすがは京都のお嬢さん、髪飾りやかんざしで着飾ったお半の振袖姿が大変愛らしい。

地の文でも「お半が華奢な振袖は彼岸桜や楊貴妃のほころびかかる派手姿」

桜のつぼみのような美少女だと言う訳です。

この二人がばったり出くわすボーイミーツガールならぬ、おっさんミーツガール。

もちろん初対面ではありません。

信濃屋と帯屋はお隣同士、それどころか長右衛門は孤児出身で幼少期を信濃屋で育てられた後、帯屋に養子として入った身の上。

ですから長右衛門にとってのお半は義理の妹とも娘ともつかぬ関係です。

ここ重要(長右衛門のダメ人間ぶりを責める時に)ですから良く覚えといて下さい。


ここで泊まれば京都に日帰りと言う石部宿までは隣同士の気安さもあって楽しい同行。

問題はその晩、長右衛門が一人寝ている部屋にお半が入ってくるのです。

怖い夢でも見たの?なんて呑気な長右衛門を尻目に、お半が口にするのは身の危険。

連れの丁稚長吉がお伊勢参りの間中、セクハラめいたことを言っては付きまとってくる。特に今夜は下女は寝ぼけて起きないし、無理やりなことまでされそうになったので逃げてきた……

おいおい。剣呑な話じゃないか。ああ、なるほどここでヒーロー長右衛門さんの出番なのか。色気づいた丁稚の小僧に二三発、拳固で道理を叩き込んでやる訳ですね。

そんなバイオレンス展開を期待した私でしたが、長右衛門の反応は全然違います。


「今夜一晩しのげば明日は京都なんだから自分の部屋にお帰り。実家に帰れば、もうひと安心。あとその丁稚のことはお母さんのお石さんに告げ口しちゃだめだよ。お母さん名前の通りお固い人だからね、長吉が首になったら可哀想でしょ」


酷くないですか、これ?

妹か娘のように可愛がってきた女の子が、夜中に泣いて助けを求めて来ているのにこの態度。

お半だって部屋にお帰りなんて言われても、長吉がうろうろしていると思えば怖くて行けるはずがありません。

「寝不足だから長右衛門さんのお布団で一緒に寝るよ」「しょうがない子だなぁ」

お半はぽふんと長兵衛の布団に入ってきてしまいました。

こうしてある種のフラグを立てまくってから部屋の障子が閉まってしまいます。


障子の向こうで何が起きているのか不安になりますが、ここで登場してくるのが丁稚の長吉。

長右衛門と長の字が一緒(伏線)というセクハラ小悪党でキモい顔をしています。

この長吉だって主家のお嬢さんと旅先でねんごろになっちゃえば、やがては信濃屋の主に~なんて可能性だってあります。

色と欲でもう必死、猫なで声を出して逃げたお半を探しています。

「お半様、もうヘンな事しませんから部屋に帰りましょうよ~今夜は寒いからお布団に入ってないと風邪ひきますよ~」

うわあ……顔だけじゃなく話し方も気持ち悪い。

この長吉、まさかお半が長右衛門に告げ口に行ったんじゃあるまいかと障子の前まで来て盗み聞き。


!!!

何やら聞きつけて驚愕した長吉、もしやとそっと障子を覗いて見ると……

!!!!!!

凄いものを見てしまった!って何やってんだよ、長右衛門さん。


色々のっぴきならない状況ですし、言葉と行動、もっとはっきり言っちゃえば上半身と下半身があさっての方向に向いてる長右衛門を張り倒してやりたい心境です。

でも、じたばたする丁稚長吉のリアクションが面白いので放っておくことにしましょう。


「信じられない、若くてイケメン(自称)な俺を差し置いてあのオヤジめ」

「お半様も、お半様だよ、ちきしょうめ。血が騒いで腹が立っていられないよ」

腹立ちまぎれの意趣返し。

なんと長吉その足で長右衛門の預かり品の正宗を錠前破りで取り出して、目釘をゆるめ拵えはそのまま刀身だけ自分の道中差しとすり替えてしまいます。

この手際の良さ、こいつ見かけよりずっと有能です。

そんなこんなで三人三様の朝が来ました。乱れた髪や帯を整えて、そっと長右衛門の部屋を出ていくお半。

先ほど申し上げましたが京都と石部は一日の距離、様々な思惑や伏線をはらんで二人は京都に帰っていきます。

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