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3.無力

遅れました!

「ん……」


 目を開けると、ここがどこなのか薄暗くてよく見えなかった。

 こうして息をしているし、直前のことをはっきりと覚えているから殺さたってことではないみたいだけど今度は逃げ出せないように手と足に枷がされており、鎖が繋がれてある。


 窮屈ではないけど、あっさりと取れるようなものではなかった。



「ここ、牢屋?」


 明かりがないから、手探りになるけどひんやりとした石の感触と、鉄格子。

 閉じ込めるところといったら、牢屋くらいしか思い当たらない。


 鎖で満足に身動きが取れないけど、ここの牢屋はそんなに広くないのか簡単に壁とかに触れられる。

 寝転んだりすることはできるから、過ごすのには困らなさそうだけど……光が差さないから、時間間隔が狂いそう。


 力をこめても、壊せそうにないし鎖も引きちぎれない。

 前のように、力が異常ってことはないみたい。


 なのでじゃらじゃらと鎖を揺らしながら遊ぶくらいしか、することがなくて暇だ。

 暇で仕方ないから、鎖で遊びながら考える。


「どうして、わたしを殺さないんだろ」


 影はわたしが邪魔なはずなのに、こうして鎖に繋いで生かしている。

 わたしの『力』が目当て……なのかとも思うけど、肝心の力は何故かなくなってるし。


「……お腹、すいたな」


 けれど力があるないに関わらず、わたしのお腹は空いてくるし我慢できるものでもないからどうしようもない。


 わたしの空腹は、片割れカトレアがいないからこそ生じるもの。本当なら、わたしたちは満ち足りていて、食べることも眠ることすら必要ない。


 欠けた穴を塞ぎたいから、孤独を埋めるために起こるわけで……つまり、まだ、カトレアと一緒になれないと言われてるみたいで少しイライラする。

 何より、こんな状況で何もできない自分が一番腹立たしい。


「はぁ……」


 鎖で遊ぶこともすぐに飽きてしまい、天井を見上げる。


 不安ばかりがわたしの中にあって、こういうときいつも思い出すのはカトレアだった。


「生きてるのは、何となく分かってたけど」


 あんなことになっているとは思っていなかった。

 『影』はあんなもので、本当に進化できると思っている……そんなわけないのに。

 近づくことはできても、わたしたちのようには決してなれない。

 そもそもなろうとしてなれるものでもないし。

 あ互いに、支え合って存在しているからこそ、わたしたちは成り立っている。産まれた時からそうだった。


「だから、早く諦めてくれないかな」


 膝を抱えて、顔を埋める。

 そうして、塞いでいないとカトレアに会いたいって気持ちが抑えれそうになかった。



***



「………」


 目を覚ましてから、どれくらい経ったのか。

 光が差し込まないから、今が何時なのかも分からない。

 空腹は相変わらずだけど、飢え死にをさせる気はないのかたまにパンと水が放り込まれてくる。


 人の気配はないのに、ご飯だけはやってくるんだから変なもんだ。


 1人になることは、やっぱりなれない。

 元々あんまり喋る方ではないから、独り言も頻繁にあるわけでもない。

 退屈と、寂しさばかりが募って、お腹も心も満たされてくれない。


 すり減っていく心。

 いつまで正気でいられるのか。


 ……


 何かできるわけでもなく、ただ寝て起きて、ご飯がくるのを待つだけ。

 これなら、何かしていた方が気が紛れるのに。

 何もしないって、こんなに辛いことだとは思わないかった。


 この鎖を引きちぎって、あの『影』をぶっ飛ばしてカトレアを取り返せるくらいの力があれば。


 そう思わずにはいられない。

 できることができなくなる。

 今は、もう、動くことも億劫で何をする気力も湧いてこない。


 そして、何もしていない自分にも嫌気がさしてくる。


 無力な自分がとことん恨めしい。



***



 また、目が覚める。

 長い間、ここにいる気がする。

 ずっと寝て起きて食べての繰り返し。

 わたしは生きてるって言えるんだろうか。

 意識もはっきりしないし、体を起こすことも難しくなってきた。


 力が入らず、何とかパンを齧り、水で流し込んでいるけど……それもそのうちできなくなりそうな気がしてならない。


 することがないなら眠ってしまおうと、目を瞑っても眠れないし、真っ暗だから目を開けているのか閉じているのかたまに分からない時がある。


 このまま緩やかに死んでいく。

 食事もできなくなって、体を動かすこともできなくなって――


「……っ」


 それは嫌だ。

 でも、何もできない。



 怖い助けてここから出して。



 それは、今のわたしでは叶えることのできない願いだった。







 落ちていく、落ちていく。

 どこまでもどこまでも。

 深い深いところへ、緩やかに落ちていく。


 そんな中でふと、カトレアの顔が思い浮かんできた。


「カト……レア……――っ!」


 そうだ。

 わたしは何をしていたんだ。

 ようやく近くにカトレアがいるのに、

 力がない? そんなこと関係ない。

 何もしない言い訳にならないのに。


 必死に手を伸ばす。

 カトレアに届くように、願う。祈る。思い込む。



 わたしたちは離れ離れになっても、必ず近くにいる。

 生まれた時からそうで、死んでも変わらないこと。


 わたしとカトレアは、離れることはないんだから。



「っ、なぜ! あそこから抜け出せた!!」


 暗闇から抜け出すとそこには驚愕する『影』の姿と――


「カトレアを、返して」


 その『影』の腕に食われていた、カトレアの姿がそこにはあった。

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