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07.当たり前のようで異常な日々

 そうして、家で家事をしながらゆっくりとした日々が三日ほど経ったころ。

 久しぶりに料理に挑戦しようと、わたしは街で材料を買いそろえ、台所に立っていた。


 わたしのお昼ご飯になるから、適当でもいいんだけど……どうせならおいしいものが食べたい。

 けど、とくに食べたいものが思いつかない。

 パンばかりだと味気ないから、という理由で料理しようと思ったわけだし、最悪食べられればなんでもいいのがわたしだ。


「うーん……」


 腕を組み、頭をうならせる。

 野菜とお肉を中心にいろいろと買ってみたはいいけど、保管ができないから一度に消費しないといけない。

 どうしようかな……。





「――うん。食べられる」


 もう何も思いつかないなら、と全部鍋にぶち込んで、煮込んでしまった。

 謎のお肉に、野菜。

 そこに調味料を加えたら、そこそこおいしくはなった。

 とはいえ、特別おいしいってわけでもない。

 あくまで『食べられるくらい』においしいってだけだ。


「でも、これって、料理なのかな?」


 切ったりとか、下処理とかなにもせず、ほんとうにそのまま突っ込んで……たまに、がりっとすることもある。

 それはそれで、食感の違いが楽しめておいしいけど。

 とはいえ、これが普通の料理ではないことはさすがのわたしでもわかる。


 ……でも、普通ってなんだろう。


「ま、いっか。わたしが食べるんだし」


 ぱくぱくと、スープを食べる速度を上げていく。

 イーリスさんが帰ってくる前に、食べきらないときっと食べたがるだろうから、その前に処理しないといけない。

 人に振る舞えるほど、大したものじゃないし……わたし以外が食べたら、お腹を壊しそうだし。


 買う食材を間違えたのか、たまに体が熱くなって、舌先がしびれる。

 まぁ、おいしんだけどさ……。



***



 今日は、珍しくイーリスさんが家にいる。

 なんでも、休日らしい。

 仕事のない、自由な時間なのだとか。


 だからなのか、ベッドから起きもせずずっと寝続けている。


「……むにゃ」

「……はぁ」


 それを眺めるわたしと、そんなことに気付かないイーリスさん。

 別に眠るのはいいんだけど、わたしの手を離さないのはやめてほしい。

 お腹が空いたのに、ご飯が食べられない。

 さっきから、ちょくちょくお腹がなって仕方ない。


「むぅ」


 振りほどくことはできでも、起こしてしまっては気分が悪い。



 ……。


 ………。


 …………。


「…………は?」


 どうして、こんなにも穏やかな日々を過ごしているんだろう。

 わたしはここ最近の行動を振り返って、ようやくその事実に気付くことができた。


 わたしは、復讐も飢えのこともさして気にすることなく、ゆっくりとした生活を送っている。

 そのことが今になって、気持ち悪く感じられる。 


 こんな……『当たり前』で、望んでいた日常。

 ずっと憧れていた、普通の生活。


 それに浸っているなんて、認めたくなかった。

 受け入れられないんじゃなくて、認めたくない。



 わたしが、わたしじゃなくなっていく。

 この人に会ってから、間違いなくわたしは変になっている。


「……うぇ」


 ためらいもなく、手を放して、距離を取る。

 久しく感じていなかった、吐き気に胸が重くなる。



 逃げ出してしまいたかった。

 でも、逃げ出せない。

 心は拒否しているのに、体が言うことを聞いてくれず、この家に留まらさせる。


「あぁ、もう……どうしたらいいの」


 この体は生きている(・・・・・・・・・)

 その事実が心を抉り、わたしが他人の体を勝手に使っているという事実を突きつけられた。


 どうしたらいいかわからず、わたしはそのまま顔をうずめることしかできなかった。

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