06.家
「ん……」
窓から差し込む朝日がまぶしくて、目を覚ます。
けれど、朝特有の冷えた空気を感じず、そのことに違和感を覚える。
「あ、そっか。ここ、家だ」
目を開けて、開けた空間ではなく、閉じられた室内だと気づく。
イーリスさん――わたしの姉に連れてこられて、眠りについたのだった。
ベッドを使っていいと言ってくれたけど、わたしはどこでも寝られるからと強引に予備の毛布だけもらい、部屋のすみに座ってそのまま。
「イーリスさんは……いない、か」
きっと、仕事に行ったのだろう。
ベッドには、昨日来ていた部屋着が散乱しているし。
足元には『朝ご飯、これで適当に食べて』と朝食には多いくらいの金額のお金。
「はぁ……」
そのお金は受け取らず、そっとベッドの上に置いておく。
ご飯はあとで食べるとして、わたしは昨日からやろうと思っていたことを実行に移す。
「この部屋、汚さ過ぎ……!」
そう、徹底したお掃除の時間である。
***
まずもって、ベッドを中心に服が散乱しすぎている。
全部似たような服なので、きっと部屋着を洗濯もせず、買い足して放っておいているとわたしは推測する。
「洗濯はあとにして、とりあえず一か所にまとめておいて……」
どうせあとで綺麗にするからと、服のシワとかを気にせずまとめてとりあえず玄関付近においておく。
「で、たまったほこりを水雑巾でふき取って」
軽く掃除はしてあるのかそこまでひどくはないけど、それでもほこりがひどい。
台所でぬらした雑巾を手に取って、床掃除をしていく。
なにかで汚れが取れない、なんてことはないのでほこりを拭き取ったら、それで満足する。
「次は、ベッドかな」
窓を開けて、手に取った枕をはたいてほこりを落としていく。
シーツははがしておいて、あとで洗濯するために部屋着の山に放り投げる。
同じように、毛布もはたいてほこりを落とす。
「洗濯したいけど、間に合わないし」
とりあえず、きれいに戻しておいて次を――
「と、お腹空いたな」
お腹がひかめになって、空腹を告げてくる。
とりあえず、このあとの作業は腹ごしらえをしてからかな。
空腹で家事なんてしたくないし。
***
街にいると、気軽に暴食の力を使うわけにはいかないから、食事に気を遣わなくちゃいけないのが面倒。
とくに、お店を探すのがめんどうだったり。
そこらへんにうろついているヒトを食べたくもなるけど、そこまで目立ったことはさすがにダメだとわかるから。
なので、手頃に手に入るパンに行きつくのは当たり前と言える。
「わたし、昨日からパンしか食べてない?」
昨日のお昼も、イーリスさんの家に案内されたあと夕食の用意がまだだとあわてて閉店前のパン屋に駆け込んで、二人で食べた。
まあ、おいしいからいいけども。
「――ごちそうさま。さて、次は洗濯だけど」
洗濯機なんて便利なものはない代わりに、この世界だと一瞬で汚れが落ちる固形洗剤が出回っている。
水で濡らして泡立てて、衣類を洗う。
それだけでいいらしい。
カトレアから初めて洗濯の仕方を教えてもらったときはびっくりした。
「んしょっと」
水桶に水をくみ、洗剤を片手に洗濯物の山を片づけていく。
ごしごしと、大して力も入れず洗剤をつけているだけなのに、きれいになる。大して汚れていないというのもあるけど、楽な作業だ。
洗い終わったものは籠に片づけていき、いっぱいになったら窓辺に干していく。
「ただいまー! アイリス、お昼にしましょ……う?」
それを繰り返していくうちに、気付けば日は高く昇っており、玄関の扉が開かれる。
玄関は部屋着でいっぱいだし、窓辺に干しているから室内が薄暗い。
そして、部屋の中心でわたしが洗濯している。
そんな予想外の光景に、イーリスさんは驚いてしまったのか、扉を開けたまま固まってしまった。
「あ、おかえりなさい」
わたしはというと、とくに気にせず洗濯を続ける。
あともう少しで切りのいいところまで行きそうなので、一気に片づけたかったのだ。
「……よし、とりあえずここまで」
手を洗って、洗剤を落としてイーリスさんのところへと向かう。
そこでようやく正気に戻ったのか、わたしの肩を掴んで問い詰めてくる。
「ちょ、この量をひとりでやったの!? おまけに、床もなんかきれいだし!!」
「? 掃除、したので」
なにを当たり前のことを。
家に居させてもらっているから、掃除は当たり前だし、洗濯もする。
家にいるというのは、そういうことなのでは。
「……ありがとう。でも、別にしなくてもいいんだよ?」
「でも、じゃあわたしはなにをすれば?」
「えー……とりあず、ご飯食べようか!」
とくに答えるわけでもなく、イーリスさんはわたしの手を引っ張って外に連れ出すのだった。
家事力が高い…理由はさておき




