30.ああ…
依頼を終わらせ、街に戻る。
そればっかりの生活にいい加減、飽き飽きしてきた。
……それに、パーティーを組んでいることの意味が分からなくなってきた。戦って、殺して、お金をかせぐ。
これだけなら、わたしでもできる。
もう、誰かの目を気にして、動くことができないのが苦痛で仕方なかった。
めんどくさい。なにもかもが、めんどくさい。
どうして、こんな思いをしてまで生きていかなきゃいけないんだろう。
わたしは、ただ――カトレアと一緒に居たかっただけなのに。
ああ、もう……。
「全部、ぶっ壊せればいいのに」
物騒なことを言っていることはわかるけど、でも口にしたくなることだってある。
カトレアがいないってことがこんなに辛いことだと、思ってもみなかった。
親がいなくなって清々した時とは違う。
ぽっかりと、胸に穴が空いたみたいに……なにもかもが、通り抜けてしまう。
じっとしているのも嫌で夜の街に一人、歩く。
静かな夜、とはいかず大人たちがお酒や、女の人を求めて歩いている。
異世界も、元の世界も夜は……人の本性は変わらない。
そしてわたしも、変わらない。
結局、前世は親に。今は、カトレアに縋りついていただけ。
それがどんな形であっても、わたしは誰かに寄りかからないと生きていけない。
いや、それでも親にはもう縋りつきたいとは思えないけど。
「カトレア……」
口を開けばいつもカトレアのことばかり。
過ごした時間が短いけれど、でも嫌な顔せず、嬉しそうに食べられてくれてわたしはうれしかった。
わたしの飢えを満たしてくれて、それを受け入れてくれる……そんな人、きっといない。
それ以前に、わたしはカトレアの代わりなんて欲しくもない。欲しいのはカトレアなんだから。
「あは」
でも、死んじゃった。
あっさりと、あっけなく……。
どうして?
あの『影』のせい。
だけど、わたしはあの『影』に何ができるんだろう……なにもできてない。
わたしはなにがしたいんだろう。
復讐も、生きる目的も、なにもなくて。
「………」
街を見る。
人が、楽しそうに、歩いている。
……どうして。
お店に入っては、楽しそうな声が聞こえる。
……どうして。
辺りには、ずっと……隣に誰かいる。
どうして、わたしにはいないのに。
羨ましい、妬ましい、……それ以上に、わたしはお腹が空いた。
食べさせてくれる人がいないなら、自分で取ってくるしかないよね。
――なにかに目覚めそうな気がする。
「――っ!?」
でもその前に、誰かに縄で縛られて担がれてしまった。
突然のことに驚いて、声も出せず連れていかれる。
そのまま口も塞がれてしまい、誘拐――という言葉が頭をよぎる。
「へへっ、ガキが一人こんな夜中にうろついてるとは……ラッキーだったな」
「………」
「最近、女のガキがほしいって奴隷商がいたから、きっと高く売れるぜ!」
ああ、まったく……人って、どうしてか変わらない。
わたしも、みんなも、全員バカなんだろう。
「……(ガッ、ゴリ、ゴリ)」
口に当てられた、誘拐犯の手を食べる。
血が滴って、汚れてしまうけど……気にしない。
久しぶりの、野性的な食事に喜びを感じている。
それだけで充分だった。
「ぎゃ、ぎゃああああ!?」
「……うるさい。食事中なんだから、静かにしてよ」
「ひ、ひぃぃぃ!!」
「ま、いいや。それよりさ……」
恐怖でゆがむ、男の表情。
ああ、いい。とても、いい。ずっと、もやもやしていたものが晴れていくのが分かる。
これでよかったんだ。
こうすれば、全部うまくいく。
世界を壊す、なんて大それたことじゃなく……身近にある、幸せを壊していけばよかったんだ。
「あなたは、どんな味なのかな?」
「あ――っ」
ぐしゃり、と潰れて男は息絶える。
同時に満たされる飢えと、甘美な味わい。
カトレア以外では感じることのなかった、味覚が……今、感じられる。
「あはっ、あはははっ!」
狂ったようにわたしは笑う。
「ああ……もっと、もっと、ほしい」
「全部、全部味わいつくして……余すとこなく、食べつくしてやる」
わたしは、口について血を腕で拭い……獲物を探し、夜の街へと繰り出すのだった……




