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28.不穏な一時/空虚な苦悩

遅れてすみません!


 システィアとパーティーを組み、依頼をこなす日々。

 なんの変化も、問題もなく順調に進んでいく。

 わたしは、【暴食】を使うこともなく、ひっそりと飢えを満たしながら身体能力だけで貢献していた。


 特に面白いことも、なにかが変わることもない。

 カトレアがいなくなってから、わたしは空っぽだった。満たしても、満たされない。

 気が付かないようにしてたけど……なにも感じない。


 振り出しに戻った――それ以前のような気がする。


 だって、何を目標に生きていけばいいのか分からない。死にたくないから、生きる。単純だけど、当たり前。

 それを生きる理由にするのは、むずかしい。


 ……なんて、たまにそんなことを考えてしまうけど。



 わたしは死なない。死ねない。

 カトレアの仇を討つまで、世界に復讐を果たすまで、終わらない。



 ……でも、この寂しさはどうやって埋めればいんだろう。



***



 いつも通り、システィアと依頼をこなして街に戻ってきたときのことだった。

 変わらない人混みに、うっとうしい声。

 でもその中に紛れる――黒い『影』。


「え……」


 思わず、といった感じに声を漏らしてしまう。

 『影』はこちらを見つめている。嘲笑うように。ケラケラと。

 急いで近寄ろうにも、人混みのせいで近寄れない。


「……っ」


 ゾワリと冷たいものが背中に走る。


 心臓が痛い。なんだか嫌な予感がして、バクバク言っている。

 気が付いたら『影』はいなくなって、わたしは急いでシスティアの所へと戻った。





「あれ? どうしたの、アイリス」

「……ううん。なんでもない……なんでもないなら、それでいい」


 宿に戻り、ゴロゴロしているシスティアの姿を見て、わたしはまだなにも起こっていないのだと理解する。


「あ、そういえば明日の依頼なんだけど……盗賊の討伐だからね。人を相手にできる?」

「うん。だいじょぶ」


 こんな感じでいつも突然、依頼内容が伝えられる。

 そして、わたしはほっとしている自分に疑問を抱く。

 ……カトレアがいないから、寂しい。だから、システィアに面影を見ているのだろうか。


 なんだか、カトレアに申し訳なくてシスティアの前から今すぐ姿を消したくなった。



 そう思い、部屋から出て自分の部屋に戻る。


 ……どうして、『影』は現れたんだろう。

 考えても仕方ないけど、わたしは気になって仕方なかった。

 あんなふうに姿を現すとは思えないし、幻覚とも思えない。


「………」


 どうしてこんなことをしているんだろう。

 世界を滅ぼす、なんて誓っておいて、具体的なことはなにも分からないしなにをしたらいいのか……考えてもいない。


 それどころか、カトレアを忘れるように普通の日々を過ごしている。


 印象には残っていないけど、だからこそ怠けていると言える。

 カトレアと一緒の日々は楽しいし、刺激的で……忘れられない。


「……わた、しは……」


 どうしたんだろう。

 復讐は、したい。でも、カトレアと一緒にいたい。ずっと。それは叶わない。


「――っ」


 唇を噛み締める。

 痛いけど、余計なことを考えずにすむ。


 わたしはわたしが分からなくなる。

 結局、なにをしたいのか、それすら決められない。他人から与えられる選択肢に縋りつくことしかできない。

 変わっていない。生まれ変わっても、奥底は変われなかった。


 親の言いなりだからと、誤魔化して……わたしはなにもしようとしてこなかった。


 生きるために食べる……でもそれは生き物として当たり前のことで、わたし自身の意思じゃない。


 カトレアと出会って、楽しかった。

 でも、それを自分から掴み取ろうとはしなかった。





 ……。考えても仕方ない。もう、なにも考えたくない。


 わたしは、瞼を閉じて、早めの就寝に着くのだった

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