幕間 暴走①
そんなこんなで、宿に帰ってきて部屋でゆっくり休んでいるときのことだった。
カトレアはラフな格好をしていて、寝間着一枚の無防備な姿勢でベッドに寝転んでいた。わたしはというと、特に変化はなく白い寝間着を着ているだけ。
白いワンピースとは違うものだけど、着心地自体に違いはないけど……「寝間着と普段着は違うのよっ」とカトレアがしつこく言ってくるものだから、めんどくさくなって着替えるようになったのだ。
……それはともかく。
ご飯を飲み込むと、勝手に【暴食】が体内で発動してしまって胃に何かが溜まっていく感覚がしないのに、満腹にはなっているという奇妙な感覚を味わっていながらベッドに寝ころがっているとき――カトレアが急に、隣に寝そべってきた。
息も荒いし、なにかあったのだろうかと様子を伺っていると……胸の辺りを押さえて、苦し気にこちらを見つめている。
……それと、頭がくらくらするような香りが鼻をくすぐる。
頭を振って、その匂いを吹き飛ばすけど、それでもまとわりつく。
「……っ」
「ふふふ、かわいいわねぇ」
頬を撫でられる。
そこだけ敏感になっているかのように、鮮明にカトレアの手を、指の感触を確かめられた。
びくっと、体を強張らせるとカトレアは微笑ましそうに……それでいてからかうように、笑っている。
その目で見られるとわたしの息まで荒くなっていくようで――。
「んー……」
気が付けば、目の前にカトレアの顔があって……唇に当たる柔らかい感触。
それが、カトレアとのキスだと気づくまでにそう時間はかからなかった。
……魂まで侵されるような、甘い蜜の味。
「ん……」
眠い。
ただひたすらに眠い。だから、目を閉じる。……すると、白い景色が広がっている。
なにもない。
けれど、そこの中心に眠りにつく黒い靄がある。
そこがどこなのか……落ち着いて、見覚えのある場所。
確か『影』と戦っているときに、一度来たような気がしなくもない。
でも、その時にはこの黒い靄はいなかった。
……それと、あの女性もいない。
ここは似ているようで、違う場所なんだろうか。
《権能による魂の干渉を確認。精神体の保護を開始……失敗。【色欲】による精神異常が起こります》
《エラー》
《精神と魂の乖離を確認。未知の精神体を確認》
《【暴食】による精神異常の抵抗を確認。魂は【色欲】により、異常が発生。しかし、休眠状態のため問題はなし》
また、この声。
何を言っているのか、理解もできないけれど……何か大切なことを言っているような気がする。
でも、また眠くなり目を閉じる。
……目を覚ますと、カトレアの顔が目に映る。
目が潤んで、こちらを見つめている。
やけにお腹が空いていたわたしは、カトレアの頬に手を伸ばすと、そのまま肉を喰らう。
「あ……っ」
しかし、血が噴き出たと思ったら、すぐに元に戻っている。
もっと、もっと食べたい。いくらでも食べられる。カトレアを見ても、何を思っているかなんて分からない。
だから、わたしは遠慮なく食べ尽くしていく。
カトレアは、わたしにさらに抱き着いてきて何か大切なものを『掌握』していく。
けれど、それはわたしには関係ない。なにも、考える必要はない。
ただ、お腹が空いたから、目の前のご飯を食べるだけ。
何度も、何度も、何度も。
カトレアとわたしはお互いに貪り合っていくのだった。
途中にあった変なのはあんまし気にしなくていい。
それより重要なのはアイリスちゃんもカトレアがいちゃついてるという事実のみ