19.友達
差し出された右手。
それが握手の誘いだということは分かる。でもそれをわたしが取っていいものか、分からない。
……この女の子は、何なのだろう。
いきなり「友達にならない?」なんて。わたしに、友達? 想像できない。
友達はおろか、家族以外の他人とまともに接したことないのに。
そんなわたしに友達……ありえない。
でも、ひそかに憧れていたことを否定することはできなかった。
ずっと「当たり前」を知らずに育ってきた。
そんなわたしがきちんと友達になれるのか――傷つくくらいなら、友達になんてならないほうがいいのではないか。
そんな考えがずっと頭にこびりついている。
「…………」
「? どうしたの、友達になりましょう?」
わたしが手を取らないことを疑問に思ったのか、もう一度声をかけてくる。
助けを求めて、カトレアのほうを見つめるのだけど……微笑ましそうにしているだけで、特になにもしてくれなかった。どうしてそんな顔をしているんだろう。こっちは真剣に考えて、助けを求めているのに。
いくら見つめても、カトレアはなにもしない。
つまり、わたしが決めないといけない。
……どうしたらいいんだろう。
ちらりと流し目で女の子をよく見てみる。
ずっと笑顔のまま、手を差し伸べている。
黙ったままで手を握ろうともしないわたしをずっと待っている。
……ここまでされて、なにもしない……なんてことはわたしにはできそうになかった。
「え……っと。よろ、しく?」
「っ! うん、よろしく!」
戸惑いながらも、その手を握り返す。
すると、先程の笑顔とは別の……太陽のような眩しい笑顔に変わった。
不思議な印象を持っていたわたしには、そのいかにも女の子らしい反応に戸惑って肩が跳ね上がる。
そんなわたしの反応を気にも留めず、はしゃいでいる女の子。
「私はシスティア。あなたは?」
「……アイリス」
「いい名前ね。私のことはシスティアで構わないわ」
「わたしも、呼び捨てでいい」
女の子――システィアはそう言ってうれしそうに笑う。
自然とわたしの口も笑顔を浮かべていたことに、遅れて気付く。
後ろで老人が複雑そうな顔を浮かべている。……彼は、システィアの祖父なのだろうか。おじいちゃんと言っていたし。
手を放して、改めてシスティアと向き直る。
綺麗な金髪が目立つかわいい女の子。わたしの異様な白髪や赤目と比べて、神秘的なものがある。
……一応、深くフードを被りなおす。
どうやら、わたしの容姿はこの世界だとかなり目立ってしまうらしい。
そんなつまらないことで、せっかくできた友達を失いたくない。
「ねえ、アイリスも冒険者なのよね?」
「うん。いまも依頼から帰ってきたところ」
「じゃあさ、今度一緒に依頼を受けましょう。友達と一緒に依頼なんて、いいと思わない?」
「ええと……カトレアに相談してからで」
――分かったわ。そう言ってシスティアは老人のもとへと戻っていき、ギルドから出ていくのだった。