7 三成の志
「お主の兄上の事は残念だと思っている。されどだからと言ってワシはお主に優しくするつもりは毛頭ないぞ。」
廊下を歩きながら三成が言う。
「そうでございますか。それより石田殿は九州攻めの準備でお忙しいのでは?」
「別に子供一人に計算のひとつやふたつを教える程時間が無い訳では無い。それに藤堂殿からそれなりの事は学んでおるのじゃろ?」
ええ、まあこの時代ではかなり賢い部類でしょうね。
まだニュートンが出てくる前だし。
「ともかく、九州に経つまでは面倒を見てやる。ワシはこれより堺に行かねばならぬ故着いて参れ。」
「堺ですか!1度行ってみとうございました!」
堺は楽しみだ。
南蛮の製品や食べ物もあるだろうか?
「遊びに行く訳では無い。まあ昼食くらいなら奢ってやっても良いぞ。」
なんか言葉は鋭いけど案外優しいな。
盛親なら有り得ないね。
そして俺は三成に連れられて堺にやってきた。
流石貿易都市といった感じでかなりの賑わいを見せている。
並ぶ商品も目を引くものばかりで少年時代にイ〇ンに行った時と同じ楽しさを感じた。
「何が食いたい?なんでも良いぞ。」
「ではこの天ぷらが食べとうございます。」
「ああ、南蛮から伝わったアレか。良いぞ。」
ということで三成に鯛の天ぷらをご馳走して貰った。
現代のものよりも鯛の旨味を感じられてとても美味しかったね。
「さて、これよりワシは堺の商人共に会わねばならん。それまでお主は控えの部屋で待っておれ。」
三成はそう言い残すと屋敷の奥へと入っていった。
俺は玄関の近くの空き部屋に案内された。
暇だなぁと思いながら出されたお茶を飲んでいた時のことである。
「これは細川様、いかなる御用で?」
そんな声が聞こえてきた。
何、細川だと!?
俺は咄嗟に部屋の外に出た。
「細川少将殿でございますか!?」
20代後半の見た目に鼻の切り傷、間違いない。彼が細川忠興だ。
「む、なんだお前!無礼であろう!」
近くにいた家臣が怒鳴る。
しかし忠興はただこっちを見下ろしている。
「申し遅れました!私は長宗我部宮内少輔が5男、千王丸でござる。」
俺は頭を下げた。
「蝙蝠の子供か。お主の従弟ではないか、利宗。」
そう言って忠興が怒鳴った男の方を見る。
俺の従兄で利宗って斎藤利三の息子の?
「ああ、左様でしたか。母や妹が世話になっているようで。」
そう言って利宗が頭を下げる。
「そうじゃ、ちょうど良い。利宗よ、お主も長宗我部に仕えるが良い。千王丸殿もその方が嬉しいだろ?」
「えっ、よろしいのですか?」
「構わん。ここで会えたのも何かの縁だろう。じゃあワシは用事があるのでな。」
そう言って忠興はポカーンとした俺たちを後に歩いていった。
「あの、斎藤殿。」
「ああ、先程はご無礼を致しました!これからは殿と呼ばせてくだされ!」
そう言って利宗が頭を下げてくる。
えぇ……、割とむちゃくちゃな展開だぞ。
「そ、それなら俺をしかと支えてくれよ。」
「ははっ!」
また1人家臣が増えた。
この大柄でいかにも強そうな男はそれなりに役に立ちそうだ。
そんなこんなをしている内に石田殿が戻ってきた。
「む、そこにおるのは確か忠興のところの……。」
「ええ、私の従兄で細川殿から家臣として譲っていただきました。」
「奴らしい、どうせ押し付けられたのであろう。されど家臣がいた方がお主の心も休まるだろうし連れてきても良い。」
そう言って三成は玄関の外に出た。
俺と利宗も後を追う。
「のう、千王丸。何故殿下は天下を目指されていると思う?」
唐突に三成が海を眺めながら俺に聞く。
「戦の無き世を作るためでは?」
「いや、違う。皆が笑って暮らせる世、それが殿下の望みじゃ。戦もなく民は民として暮らし武士は武士として己の務めを果たす。それこそが人にとって最も幸せな事なのじゃ。」
「なるほど……どうして急にそのような話を?」
「いや、お主にも分かる日が来るさ。」
そう言ってまた三成は歩き出した。
皆が笑って暮らせる世か……。
令和でも苦しい人がいるのにそれはきついんじゃねーかなぁと思いながら俺は三成を追いかけた。