43 新たなる戦
家康が討ち取られ秀忠が重傷を負ったもののなんとか豊臣家を滅ぼした幕府だったが元和6年、秀忠が傷の悪化により病死し家光と忠長、譜代の土井利勝と本多正純、外様でも伊達政宗と長宗我部忠親の対立が深刻化していた。
そんなある日のことである。
「申し上げます!甲斐中将様(忠長)がお越しです!」
豊永勝元の報告に俺は咄嗟に飲んでたビールを吹き出した。
「なんで?中将様が?」
「殿に相談があるやら。他にも御台様や本田殿らもお越しです。」
忠長派の面々が勢揃いとはどういうことだ?
「直ぐにお通しせよ。」
その後勝元に連れられて部屋に入ってきたメンツは忠直、江、正純、丹羽長重と忠長の家臣らである。
「随分ご立派になられましたな。」
「中納言殿の方こそお元気そうでなによりでございます。」
なんて凛々しい青年なんだ。
かと言って自身と強さに満ち溢れている。
まさに天性の将軍だ。
「中将様に御台様がお越しとは只事ではなさそうですな。江戸で何かありましたかな。」
「私から説明致しましょう。上様亡き後、私は諸大名に忠長が跡を継ぐように広めるように正純に命じました。しかしそれを良しとしない土井利勝や酒井忠世らが柳生の者を使って私たちを襲撃したのです。」
江が説明する。
つまり家光派が軍事的行動に及んだので。
「それで丹羽殿の助けを得てこちらまで逃れられたのですか?」
俺が長重の方を見て言う。
「はい、父上に何かあれば中納言殿を頼るようにと仰られていました。」
「中納言殿、どうぞ忠直のことをお任せ下さい。」
一同が頭を下げる。
「承知致しました。今後のことはこの中納言にお任せくださいませ。中将様と御台様の御屋敷は土佐に用意致します。周囲は全て我が土地なので安全です。」
「忝ない。これからは中納言殿を父上のようにお慕いいたします。どうぞよろしくお願い致します。」
「勝元、ご案内せよ。」
俺は忠長親子を勝元に案内させると正純と長重を呼び出した。
「まあ土井は死に物狂いで中将様を取り返そうとするだろうな。恐らく秀吉の四国征伐よりもキツい戦になる。」
そういうと2人とも暗い顔になった。
「今の長宗我部は頑張れば3万は動員できる。これを三方向に裂くとなると厳しいぞ。但し足止めさえ出来ればなんとかなる。」
「西国諸将を動かすのですな。」
「そうだ正純。まず姑殿に九州の諸大名を足止めして頂く。それから島津は南九州を餌にこちらに付ける。それから毛利家の安芸宰相を焚きつける。」
「安芸宰相は土井と入魂の仲です。厳しいですぞ。」
「安芸と出雲を返すと言ったらどうだ?それも将軍からな。」
「朝廷の力を使うということか。わたしは何をすれば良い?」
「丹羽殿は讃岐の植田城に入っていただきたい。築城上手の丹羽殿の視点から好きなように改築してくだされ。」
「承知した。早速取り掛かろう。」
長重は早速部屋を退出して言った。
「さて、朝廷に関しては九条家の娘が御台様の娘だったな。お前が交渉役を担え。」
「承知致しました。その後に島津と毛利に将軍から正式に切り取り次第とするのですな。」
「そうだ、それから鍋島と立花も動かす必要があるな。黒田は俺とは古い仲だ。播磨の返還で動かす。それから越前か……。」
「越前様は大坂の陣の功績の割に見返りが少ないと不満を持たれております。」
「副将軍の位を与えると約束させる。それから婿殿には四国に入った幕府勢の隙を見て大坂城を占拠して頂く。そしてそこに中将様を入れる。」
「あとは決戦ですか。」
「そうだ。この戦に勝つには大義名分が必要だ。連中は俺が惹き付けるからお前は朝廷工作を何としても成功させろ。」
「ははっ!」
正純達が立ち去っ後、俺は直ぐに又四郎を呼び出した。
「とんでもない事になりましたね。幕府は本気で攻めて来ますよ。」
「まあ20万は来るだろうな。しかし勝てば俺たちの天下だ。」
「それで私を呼び出した訳とは?」
「父上が秀吉の四国攻めの時に使った防衛策があったな。あれの詳細を聞きたい。」
「ああ、敵を足止めして別働隊で各個撃破する作戦ですね。でもあれ黒田如水見抜かれましたよ。」
「如水ほど優れた武将が今の幕府にいるとは思えないな。恐らく1番楽なのは讃岐方面。来るのは本多美濃守と池田の倅だろう。次に阿波方面だ。問題は藤堂殿が居ればバレるということだ。」
「藤堂殿ならこちらに靡くのでは?」
「あの方はこちらが有利だと見せつけなければまず動かん。恐らく讃岐軍が壊滅すればこちらに味方するはずだ。ともかくこちらは大量の鉄砲に歴戦の猛者、父上の残した策がある。これさえあれば必ず勝てるはずだ。」
「勝った暁にはかつての三好長慶のように幕府を飾りにして権力を振るいますか。」
「ああ、大坂城も頂いてしまおうぜ。」
初めは天下なんて取るつもりはなかったがせっかくチャンスが巡ってきたんだ。
絶対に家光をぶっ倒して天下を取ってやるさ。
俺は空を見上げ拳を握りしめた。