40 双魚
翌日、遂に最後の決戦が始まった。
天王寺口方面に展開する家康軍及び秀忠が布陣する岡山口方面に真田信繁、毛利勝永、大野治房そして長宗我部盛親が突撃した。
俺は秀忠の前に舅殿、藤堂殿、長政、嘉明達と共に布陣した。
「向こうは八千、こちらは八万だが……。」
長政が髭を擦りながら言う。
「相手は引く場所が無い。本気で来ますね。」
「ていうかお前は大丈夫なのか?相手の中には兄貴も含まれてるんだろ?」
嘉明が心配してくれた。
うん、大丈夫だよ。
「すでにそんな甘い考えは忠親は捨てている。むしろ幕府はワシらの方を疑ごうておるぞ。」
「申し上げます!天王寺口にて戦が始まりました!」
「上様より加藤、黒田隊は突撃せよとのご命令です!」
「アホか!今突撃したらかき乱されるぞ。」
「長政の言う通りじゃ!俺たちを殺す気か?」
「上様の命令なら仕方あるまい、歴戦のお前らなら大丈夫だろう。気をつけよ。」
「ご武運を。」
怒る長政と嘉明を俺と舅殿は見送る。
「さて、ワシらも腹を括らねばならないようだな。」
「はい……。」
その頃、進軍した加藤嘉明と黒田長政は……。
「おいおい、聞いてないぞ。」
「長宗我部があそこまで強いとは……。」
2人の眼前に広がっていたのは盛親に蹂躙される前田利常の軍勢である。
「相手は引く場所が無い……。あの野郎に前田の倅が勝てるわけないな。」
「加藤殿、我らも引く場所はないぞ。この戦で手を抜けば改易じゃ。」
「ああ、分かっている。全軍進めい!ここで止めるぞ!」
そう言って突撃する加藤、黒田勢だったが側面から大野治房隊の攻撃を受け陣形が一気に崩れた。
そしてその中央を長宗我部軍が突破する。
「舅殿、下がっていてください。ここは俺が引き受けます。」
「忠親……お前ッ!」
「上様を……秀忠を早く撤退させてくだされ!」
「わかった!御免!」
舅殿を巻き込む訳にはいかない。俺がここで盛親を……。
「申し上げます!黒田隊、加藤隊が崩れました!間もなく敵がこちらに向かってきます!」
ついに、ここまで来たか。
「そうか、敵は兄上じゃな。」
「はっ!長宗我部宮内少輔かと!」
「わかった。愚かな謀反人には俺自ら天誅を下そう。」
家臣たちの反対を押し切り俺は刀を取る。
「俺に続けぃ!」
そう言うと俺は騎馬に跨り突撃する。
銃声やら兵の悲鳴やら砲撃音やらが耳に触る。
いつまで経ってもこれには慣れない。
「大将首だ!討ち取れぃ!」
何人かの雑兵が俺めがけて襲いかかってくる。全員大したことは無いな。
そう思いながら斬り伏せる。
「おお、強くなったな!」
そう言って敵の大将が現れた。
がっちりとした体格に伸びきった髭、厳つい顔。岡豊で遊んだ頃から変わらないな。
「天下を乱す豊臣家に組す愚か者め!俺が成敗してくれよう!」
俺は刀を振り上げる。
「ちっ!仕方ねぇ!かかってこい!」
敵の大将、長宗我部盛親も槍を構える!
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!兄上ェェェェェェェェ!」
「忠親ァァァァァァァァァァァ!」
俺は叫びながら長宗我部盛親に斬りかかった。
カキンッ!
刃と刃の交わる音が響き閃光が飛び散る。
俺は姿勢をすぐに戻すとまた刀を向ける。
「なぁ忠親……。どうして俺たち兄弟が戦わなきゃならないんだ?」
そんな甘い考えを俺はとうに捨てている。
「キサマがあの時選択を誤らなければ良かったでは無いか!そうであれば共に……。」
「ああ、そうかい……。俺が馬鹿だった。最後の最後までお前より俺はバカみたいだ。じゃあ最後くらい華々しくやらしてもらうぞ!」
そう言って兄上が斬りかかってくる。
しまった、はめられた!
俺もすぐに刀を構える。
ドシュッ!
鈍い音が響いた。
「くっ……ッ!忠親……長宗我部を任せたぞ……。」
盛親がそう言って馬上から落ちる。
死んだのか……?いや、咄嗟に避けられたせいで急所は外れたか。
「首を取れい!」
「もう良い!」
家臣たちを俺は止める。
「この者は上様の元へ連れて行け。我らはこれより真田と毛利を討つ!」
「真田と毛利!?」
「左様、今大御所が危機だ。こちらは舅殿に任せて我らは真田を討つぞ!」
盛親を倒した俺たちは西進し家康の救援に向かった。
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