36 責任は誰のもの?
「どういうことだ!兄上は戦に参加する気はなかったのでは無いか!」
「そうじゃ、それに板倉勝重が見張っていたのではないか?京の連中は何をしていた!」
「どういうことですか、兄上!」
康親と又四郎に迫られ俺は困ってしまった。
「いや……分からないなぁ?」
「兄上!そのようにへらへらしている場合ではございませぬ!すぐに上様に申し開きを!」
「ここは殿に腹を括ってもらわねばなりませぬな。」
半右衛門……お前何言ってる……。
「切腹も覚悟してくだされ。」
は?????
「ふっ、ふざけんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
俺の悲痛な叫びが淡路中に響いた。
そして1週間後、徳川本陣にて。
「いやぁ、上様。お元気そうでなによりですな。」
「なっ、なんだ。急に気持ち悪いぞ。」
頭を擦り付けて変な顔してる俺を見て秀忠は不気味がってる。
「此度は不埒な兄が誠に申し訳ありませぬッ!」
「責任はどう取られるおつもりか?」
秀忠の左の男が冷徹に聞く。
「やめぬか、大炊頭。責任は板倉殿にあり中納言殿を責めるのは見当違いじゃ。」
「本多殿は中納言殿と親しくしておるから肩入れするのではないか?兄が豊臣方に味方するなど信用できませぬ。」
フォローしてくれた正純にも偉そうだ。
誰だよ、こいつ。
「中納言殿、誠に反省しておられるなら髷のひとつ、何故落とされぬ?」
髷を落とす!?
俺に武士としての誇りを捨てろってか?
「ふっ、ふざけんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
俺はイライラが爆発してしまいウザイ家臣をぶん殴った。
「ちゅ、中納言殿!」
すぐに正純が駆け寄る。
「あーあ、やってしまったか。すまんな忠親。こいつはワシの側近で土井利勝って言う奴だ。頭はいいがどうも人をイライラさせるのが得意でな。」
こいつが土井利勝か!
なんでこんなに偉そうなんだ!!
「家臣の教育くらいしとけや。」
怒りのあまりに普段みたいにタメ口で喋ってしまった。
気いたら周りの側近が全員俺を睨みつけてる。
「すまんな。ワシはお主を疑っておらぬし此度もそれも含めてのあの軍勢であろう。期待しておるぞ。」
「わ、わかってくれるのですか?」
「ああ、まもなく軍議が始まる。それまでゆっくりしておれ。」
ゆっくりしてろと言われたので気絶して運ばれた土井利勝の席でお詫びに貰ったお茶とお菓子を頂くことにした。
「前田少将様が着陣の挨拶をされたいと。」
「うむ、通せ。」
「前田筑前少将、ただいま到着致しました。」
「遠路はるばるご苦労であった。そなたの妻は私の娘。此度は活躍すること、期待しておるぞ。」
「豊臣家のおかげであそこまでの立場になれたのにな。」
カステラを齧りながら俺が言う。
「まあ時の流れには逆らえぬということじゃ。まだまだ大名は来るぞ。」
次にやってきたのは伊達政宗だ。
「伊達陸奥守。ただいま着陣致しました。」
今更だけど伊達っていだてって言うんだね。
忘れてたわ。
「この政宗。上様に土産を持参してまいりました。重長。」
政宗が横の若者より箱を受け取る。
この若者が片倉重長か!
「ほう、わざわざすまんな。これはなんじゃ?」
箱を開けた秀忠は中身を不思議そうに見る。
「あっ、仙台名物ずんだ餅だー!」
「なんだ、中納言。これ知ってるのか?」
「昔、伊達殿に頂いたことが。美味いですよ。」
そう言って箱の中から一つ頂いた。
「あっ、毒味!」
近くにいた小姓が叫ぶが秀忠もそれに続く。
「うまっ!政宗、美味いなあこれ。」
秀忠は食った瞬間笑顔になって更に頬張る。
「この政宗、上様を討つ時は戦でと決めております故その様な卑怯な手は使いませぬ。」
「そうか、その時はこの中納言が壁になるぞ。」
「土佐の鯱と独眼竜か、面白いですな。」
えっ?なんか勝手に話進めてるしまず俺ってそんな異名あったの?
ポカーンとしているうちに政宗は出ていった。
「目を離すなよ。あやつの婿の忠輝はワシのことを嫌っておる。徳川の家督を継がせると丸め込まれているやもしれん。」
「越後殿の石高と伊達の軍を合わせても驚異にはなりませんな。」
「何故じゃ?」
「伊達は確かに政治に関しては右に出るものはありませぬが戦は下手です。実戦経験のない越後殿など論外ですし。」
「しかし挟まれたら厄介だぞ。」
「最終的には数で押し切れます。それに伊達の相手にぴったりな方がいらっしゃいます。」
俺が右を見て言った。
「佐竹左中将、ただいま到着致しました。」
佐竹義宣……鬼義重と恐れられた佐竹義重の嫡男で豊臣の六大将と言われた男である。
関ヶ原の戦い後は出羽20万石までその所領を減らして居たがその実力は石高以上だろう。
「どこから聞いていた?」
「政宗と越後様のところから。」
正直に答えるんだね……
「もしも伊達が寝返るようならばこの義宣、あの犬と刺し違える覚悟でございます。」
「おっ、おう……。しかし敵は豊臣だからそこは勘違いするなよ。」
やっぱり秀忠も豊臣温故の佐竹家を警戒しているんだな。
「では失礼致します。」
「お前知り合いなの?」
佐竹が去った後、秀忠が聞いてきた。
「いや、初対面です。」
「は?お前知り合いみたいな感じ出してただろ。」
「ところで河内口の大将って私ですよね。」
「いやそれが……。」
正純が気まずそうに言う。
「うーん、ワシはお主にしようと思ったんだがなぁ……。」
おいおい、河内口の残りの大大名なんて鍋島と浅野と池田のガキくらいだぞ。
「昼の軍議で正式に発表されるが大御所の一存で松平下総守となった。」
松平忠明のことか。
確か家康の養子で葵で大坂城代を任されてたな。
「って、納得できるか!実戦経験も石高も俺の方が上だぞ!」
「いやあそう言われても大御所には誰も逆らえぬ。」
「せめて婿殿にしてくれ。流石に納得出来んぞ。」
「すまん、ここは耐えてくれ。」
流石に将軍に頭を下げられたら俺も引き下がるを得まい。
「仕方ない……。先に言っておくが突撃するなよ。」
「分かってる、そろそろ軍議に行こう。」