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33 戸次川

いやここでなんで信親視点なんだ?って思う人もいるかもしれません。

仙石と元親の視点だと割と色々な作品で描かれているので信親視点でやりした。

年月の人物名が出てるとその人主観の話になります。(とは言ってもこれ以降は多分1人だけ)

12月、俺は仙石秀久と共に豊後の戸次川を訪れていた。


「この凍りつく川を渡ったのか?」


「ええ、あの日はとても寒く兵たちにとっても厳しい事でした。」


「なるほど……あの日のこと聞かせてくれないか?」


「はい。」


仙石は20年前、ここで起きたことを話し始めた。




天正14年12月、長宗我部信親。


私は父と共に九州にいた。

軍の指揮官は仙石秀久。

ほんの一年前まで敵対していた男ゆえに信用はできない。

従軍している十河存保も同じだ。

まったく関白殿下も何故このような陣立てにされたのだろう……。

そう思いながら私は軍議の席に着いた。


「既に鶴ヶ岡城は包囲されている。ここは一気に川を渡り敵を攻撃し城を救うべきである。」


つくづく戦ってきて思うが仙石殿には軍才が無い。

単純な戦いしか出来ないのだ。

父上は黙っている。


「我らは六千、敵は一万。上方の加勢を待ちましょう。」


「では味方を見捨てろと言うのか?」


「そうは申しておりませぬ。されどここで我らが負ければ島津軍は一気に府内に雪崩込みます。後のことをお考えくださいませ。」


「ハタチの小僧が何を偉そうに……。死ぬのが怖いのか?」


「そうは申しておりませぬ。ただ、関白殿下の命に従うべきだと……。」


「いや、命が惜しいのだ!ならばお主はここに留まるが良い!但し甲冑とその似合わぬ大太刀は置いていけ!土佐の田舎侍には勿体ないくらいじゃ。」


流石にそこまで言われると許せぬ。

私も立ち上がり仙石殿を睨みつける。


「愚息が申し訳ない。若輩者ゆえどうぞお許し

くださいませ。」


父上が俺の前に立ち頭を下げる。


「古来より川を渡った方が勝ち。渡らせた方が負けと言われております。仙石殿に私は賛成です。」


十河殿まで……!


「決まりじゃな。明日、川を渡り鶴ヶ岡城を救うぞ。各々方抜かりなく。」


私も父上も仕方なく頭を下げる。

満足行かないまま私は陣に戻った。


「その顔では軍議では仙石が押し切ったようですな。」


待っていた本山親茂が言う。

やはりこの男は私の筆頭家老だけあって顔を見ただけで気持ちを理解してくれる。


「ああ、蜂須賀殿が亡くなられなければ……。」


「蜂須賀が生きていても秀吉は仙石を大将にしていたでしょう。我々を騙すつもりですよ。」


元々親茂は反秀吉派だった。

今回の戦も明らかにやる気がない。


「数でも不利、いくらワシらが働こうと大将の仙石が阿呆では話になりませんな。」


そう言うのは福留隼人。

私の守役で親茂と並ぶ重臣だ。


「やめよ、どこで聞かれているか分からぬ。しかしながら明日は厳しい戦になりそうじゃな。」


「父上まで……。私はここを死に場所と心得まする。」


本当ならもっと大きな戦で果てたかったが仕方ない。

とはいえやはり討死するのは怖い。


「このようなつまらぬ戦でそのような事を言うでない。島津も本気で我々と戦う気などないはずじゃ。」


元々島津とは交易を通して友好関係にあった。

四国征伐後も父上は盛んに島津と交流を行っている。

おそらくは秀吉が死んだ後のことを見据えているのだろう。


「良いか千雄丸、お主は長宗我部を継ぐ者。それを心に留めて戦え。」


「ははっ!私が浅はかでございました。」


やはり父上には敵わないな。

明日は何としても生き延びよう。


そして次の日、讃岐勢を先手に豊臣軍は戸次川を超えた。

前方に現れる島津兵を仙石殿はあっという間に打ち破る。

しかしどうも不自然だ。

あの龍造寺隆信を寡兵で討ち取った島津中書がこんなにも簡単に崩れるのか?

不自然に思いながらも私は仙石殿の軍に続いた。


12月の川は冷たく歩兵達は寒さに震えていた。

私の馬もかなり辛そうで嫌な予感がした。

そしてその予想は的中する。

遥か前方で大量の銃声が鳴り響いた。


「やはり罠だったか!全軍仙石殿を助けるぞ!」


私は咄嗟にそう言った。


「若、それは飛んで火に入る夏の虫でござる!ここは撤退し体制を立て直すべきです。」


親茂が真っ先に反論する。


「だめだ!ここで引き仙石殿が討死されれば我ら長宗我部の責任となる!そうなれば御家がどうなる!」


「どう考えても仙石の失策です!我らが尻拭いをする必要はありませぬっ!」


「では父上はどうなる!我らが島津を止めねば父上も危ないぞ!」


「そっ、それは……。」


「よし、皆の者。私に続けぇぇぇ!」


あっという間に仙石殿の部隊を壊滅させた島津軍は長宗我部軍に襲いかかってきた。


「若、敵の数は五千程はいるかと思われます!厳しい戦ですぞ!」


「お主だって昔は五百の兵で三千の兵を蹴散らしたのだろう?臆することは無い!」


「なれば某の命、若にお預け致すッ!」


親茂は弓で迫り来る敵兵に矢を放った。

さすがは土佐一の弓取り。

矢を受けた敵兵は馬から崩れ落ちた。


「本山殿には負けておられませぬな!土佐の漢の戦、薩摩の連中に教えてやらァッ!」


隼人も大太刀を両手に持ち敵陣に突撃する。

私も負けていられぬ。

太刀を取り身構える。


「名のある将だな、その首置いてけやァァ!」


敵兵が3人ほど突撃してくる。


「我は長宗我部宮内少輔が嫡男、長宗我部弥三郎信親!織田右府公より頂きしこの左文字で斬られたい者からかかって参れェッ!」


そう言って一気に3人を斬り伏せる。

それを見て兵たちの士気も上がったようだ。

迫り来る島津の大軍相手に長宗我部軍はありとあらゆる力を振り絞り抵抗した。


「十河阿波守存保、加勢に参った!宮内少輔殿に助けて頂いた御恩、お返しに参った!」


「十河殿!」


「こうなったのは仙石の肩を担いだワシの責任でござる!出来るだけ多くの敵兵を道連れにしてやりましょうぞ!」


「おう!皆の者、天は我らに味方した!このまま島津を押し返せ!」


十河殿の加勢もあり島津軍は後退を始めた。

勝った……あとは父上の軍勢さえ加われば……。

だが期待は裏切られた。


「後方に敵が現れました!」


おのれぇぇぇぇぇぇッ!

流石は島津中書、逃げさせてはくれまいか……。


「更に側面より敵襲!」


完全に包囲された……。

この時私は己の限界を悟った。


「こうなったら仕方あるまい!父上と仙石殿の逃げる時間を稼ぐぞ!」


「承知致した!共に乱世の花を咲かせましょうぞ!」


十河殿はそう言って十文字槍で敵兵を薙ぎ飛ばした。

かつては激しい戦を繰り広げた長宗我部と十河が一つになった瞬間だった。


「若、大将を狙えば敵は叔父上の軍勢を追撃出来ますまい。」


「うむ、親茂の言う通りじゃな。私に続け!」


私が先頭を切って群がる島津勢の中央を駆け抜けていく。


「させるかぁ!」


グサッ!


前から斬りかかってきた敵兵の前に隼人が立ち塞がった。


「若……ご武運を……。」


そう言って隼人が馬上から落ちる。

くそっッ!すまない ……。

私はそう思いながら隼人を討ち取った敵兵を斬り捨てる。

だが更に多くの敵兵が波の様に押し寄せる。


「長宗我部殿、ここはワシにお任せくだされ!」


十河殿が横槍を入れてくれた。


「十河殿……。」


「最期に御一緒できて嬉しゅうございましたぞ!」


「この御恩、いつかお返し致す!」


「行きましょう、若!」


親茂と僅かな馬廻りを連れて私達は更に島津軍の奥深くに突撃した。

そしてついに中書の旗印が見えた。


「見つけたぞ、島津家久ァァァッ!」


「殿を守れ!敵を近付けるな!」


島津軍は長槍でこちらの攻撃を防ごうとしてくる。


「かわせェッ!」


私は咄嗟に伏せて槍衾を避ける。

しかし指示が遅れ大半は討ち取られてしまった。


「今だ討ち取れぇぇ!」


島津家久の隣にいた側近が命じると5人程が近付いてくる。


「邪魔だぁぁぁッ!」


5人の首は一気に吹っ飛んだ。


「親茂、後ろは任せるぞ!」


「承知致しました。我こそは長宗我部家筆頭家老、本山将監親茂!命の惜しくない者からかかって参れ!」


後ろは親茂に任せた。

何としても家久を討つ!


「殿をお守りしろ!かかれ!」


更に敵兵が突っ込んでくる。

グサッ!


「ハッハッハっ!そのまま死ねェッ!」


死ねぬ……!ここまで来て死ねぬ!

私は相手の槍をへし折り斬り伏せた。

しかし背中にも強烈な痛みを感じた。

親茂もやられたか……。


「死ねぬ、死ねぬ、死ねぬ、死ねぬッ!ここで死ねば父上の夢は果たせぬのじゃぁッ!」


最期の力をふりしぼり家久目掛けて斬りかかる。

既に刀はボロボロだ。


「覚悟しろォッ!島津中書!」


その時、確かに私の刀は家久の首を捉えていた。


「島津家家臣、鈴木大膳。その首貰った!」


ドシュッ!


明らかに違う……。

もう力が出ない。

父上……母上……今までありがとうございましたぞ。

弟達よ……長宗我部を任せたぞ……。


長宗我部信親 享年22歳。

あまりにも早すぎる無念の討死だった。


「蝙蝠の息子よ。願わくば共に上方と戦いたかったものよ。首は取るな。丁重に弔ってやれ。」


家久はそう言って信親の亡骸に一礼した。

こうして戸次川の戦いは四国の諸大名に取って甚大な被害を及ぼしたのだった。

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