31 土佐中納言
長い……思ったより蟄居の期間が長い……。
家康にキレられてから早2年が経ちました。
しかもウザイことに江戸に屋敷を立てる命令が出たので海部での鉄砲貿易は1時中断されその金で江戸に屋敷を立てることになった。
もちろん出向くのは康親だが。
「どこに屋敷を立てるかは選べるそうです。」
「乃木坂に作ろうぜ。」
「乃木坂?そんな場所はありませんよ。」
えっ……ないの?
「じゃあアキバ。」
「アキバとは?」
そりゃ康親が知るわけないか。
「神田明神の近く。そこに1番でかい屋敷を作れ。」
「でも加賀藩の方が多いですよ?多分。」
「は?前田大納言なんて棚からぼたもちで出世したやつの家に負けてたまるか!長宗我部は西国一の大名だぞ!」
「分かりました。木材は土佐を流しますね。」
「うむ、野中に頼めばやってくれるだろう。」
ということで土佐藩江戸藩邸が作られ始め更に半年が経過しました。
秀忠がついに将軍になるのでそれをお祝いしに江戸城までわざわざ船で行くことになりました。
「お待ちしておりました。参議殿。」
「いや正純、お前絶対に待ってないだろ。」
「ご冗談を、上様がお待ちです。」
秀忠の待つ広間には将軍となり服装だけはちゃんとしてる秀忠と見慣れない公家らしき男がいた。
「此度は将軍就任の儀、おめでとうございまする。」
「うむ、わざわざご苦労。ところでこちらの方は朝廷から派遣された方じゃ。ワシの将軍就任に合わせそなたに伊勢に鞍替えとなる藤堂和泉守の所領を加増し中納言に任ずる事にした。」
「ははー。ありがたき幸せでございます。」
朝廷の使者が出ていくと秀忠は姿勢を崩した。
「これでお前は毛利、上杉より上座に座れる。あと石高も65万石な。」
「俺は1国って言ったんだけどな。」
「伊予は40万石だぞ?流石にそれは厳しいわ。」
「まあそれなりに多いしな。」
「うむ、とりあえず今日の夜は宴だからちゃんと来いよ。」
「はいはい、わかりました。」
その夜の話である。
流石に同じ中納言とはいえ将軍の兄の秀康より上座に座る訳には行かないので俺は中納言の席の1番前を空けて座った。
するとどうしたものだろう。
秀康が上杉景勝よりも下座に座ったのだ。
「…………」
「越前様、我が殿は一門格の越前様が上座にお座り下さいませと申しております。」
隣の直江兼続が説明する。
いや、わかんのかよ!
「そういうわけにはいきませぬ。中納言に任官されたのは上杉殿の方が先。ここは私が下座に座るべきです。」
そう言うと諸将の視線が一斉に俺の方に向く。
えー石高で決めようぜ。
「……」
「それはいけませぬ。主君の兄君より上座に座るなど絶対に許されません。」
「いえいえ、私は結城家の者であり関東管領の上杉家の当主より上座に座ることなど……」
「いやー越前殿……。」
俺が横から入る。
「長宗我部殿も中納言に任官したのは上杉殿より後であろう。さあ後ろに。」
「石高俺の方が多いですし……。」
微妙な空気が流れる中、秀忠がやってきた。
「うーむ、やはりここは兄上、土佐中納言、米沢中納言の順に並んでもらう。」
あー良かった。流石に上杉より後ろはないだろ。
「あの、越前殿。娘の輿入れはいつ頃が?」
「ああ、蒼殿が10になった時に輿入れさせるのは如何でしょう。」
「そうですな。ではそのように致しましょう。」
しかし秀康はこの結婚を見ることは無いのだがそれは後の話である。
秀忠が将軍になったことにより家康は将軍職は代々徳川が継ぐものだと世に布告したようなものだった。
淀殿は怒っているらしいがそんな事は俺には関係の無い話だ。
この頃は秀忠は各地の大名を御伽衆として色々話を聞いているらしく俺も呼ばれた。
いやなんもしてないけど。
他に集まっていたのは丹羽長重と立花宗茂。
2人とも関ヶ原で改易された後大名に復帰した名将だ。(ちなめに忠親の中の人の丹羽長重の評価はかなり高い。)
この2人の話は中々に面白く俺も聞き入ってしまった。
「じゃあ次は中納言。何かあるか?」
「えっ……」
正直前の二人が凄すぎた。
城の作り方も大軍を少数の兵でボコるのも俺には無理だ。
「いやーえーとそのー。」
「父君の話はどうでござるか?某聞いてみとうございます。」
宗茂が助け舟を出してくれた。
ありがとう宗茂!
「ああ、それならありますよ。かつて父は阿波のとある寺に登りました。そこで住職に貴方は四国を望むかそれとも土佐を望むかと聞かれたそうです。」
「そりゃ四国だろ。」
「はい、そうすると茶釜の蓋では壺の蓋は閉じられないと言われたのです。」
「当たり前だろ、どういう事だ。」
「蓋は器量のことで茶釜は土佐、壺は四国のことでござる。」
「丹羽殿の仰られた通り。すると父は私の蓋は名工が作った蓋。いずれはこの地に蓋をして見せようと申し7年後には本当に四国を統一したという話です。」
「なるほど、宮内少輔殿は例えが上手いお方じゃな。ワシは天下の蓋になれるであろうか?」
「上様ならきっとなれますよ。」
俺たち3人は声を揃えて言う。
これで秀忠は上機嫌になり長重と宗茂は重用されたらしい。