30 家族になろうよ
慶長8年、ついに徳川家康は征夷大将軍に任ぜられた。
これにより徳川家の天下は誰もが知るところとなりもはや豊臣家にかつての栄光は無かった。
そんな中で豊臣家の天下統一の過程で激戦を繰り広げた後、秀吉から信頼された長宗我部宮内少輔の息子で土佐45万石の大大名、長宗我部参議忠親は……。
「暇だなぁ。」
俺は伏見の屋敷で寛いでいた。
「ちちうえ、あそんでください!」
蒼に揺さぶられるが動きたくねえ。
「蒼ちゃん、父上はね。今ダラダラしたい気分なの。遊びたいなら誰かに遊んでもらいなさい。」
「そうはいってもちちうえのそっきんはみんないないよ?」
「だってみんな宴会行ってるから。」
というのも金吾の一件以来どうも仕事にやる気が起きない俺は異母弟の康親(榊原から貰った。)に将軍就任の祝いを任せダラダラしていた。
「兄上!遊ぼうぜ!」
そう言って俺の上に弟の信九郎が乗っかってくる。
父上が死んだ年に生まれたので俺の子供みたいなもんだがうーんこの。
「こらこら、弥三郎が起きてしまったではありませんか。」
「そうだぞ、お前ら。弥三郎が泣いてるじゃないか!」
百合が嫡男の弥三郎をあやしながら言うので俺も便乗する。
「だってちちうえがあそんでくれないんだもーん。」
「そうだそうだ、なんで遊んでくれないんだ!」
「う、うるせえな。俺はな!」
「遊びに弱いからですよ。」
そう言って女が入ってきた。
「えっ、福!?」
「はい、福でございます。これから弥三郎様の乳母を務めさせて頂きます。」
えっ……ちょっと待って。
家光の乳母じゃねーの?
「私がお誘いしたんです。貴方様と縁のある方の方が良いかなと思いまして。」
なんてことをしてくれたんだ!
これでは伊達政宗のやりたい放題になるぞ!
「ねーね、なんでちちうえはあそぶのがよわいのー?」
「貴方様のお父上はね、むかしむかし。」
「おい、もう言わなくていい!釣り行こう、釣り。」
黒歴史をばらまかれたくなかったので俺は2人を連れて鴨川に出かけることにした。
「兄上、俺六条河原に行きたい!」
そう言われて俺はずっこけそうになった。
「お前なぁ、六条河原ってどこか分かってるか?」
「悪い奴を殺す所だろ!俺もやってみてえ!」.
「えーわたしもわるいやつやっつけたーい。」
こいつら処刑をなんかと勘違いしてる?
「ガキの行く所じゃない。お前らもちょっとは上品になってくれよ……。」
「じゃああれはなにー?」
蒼が指さす先には人だかりができていた。
「ん、なんだろうな。見に行ってみよう。」
蒼を肩に乗せ信九郎を抱き抱えて群衆の中を割り込んでいく。
「カゴの中に人が入ってるぞ。落ち武者だー!」
確かにそのようだ、って……!
「お前、あれは宇喜多中納言殿だぞ!落ち武者なんて言うんじゃ……。」
声がでかかったのか物凄い形相で秀家がこっちを睨みつけてきた。
「キサマ!人質の身でありながら殿下に重用されたにも関わらず己の欲に走ったか!裏切り者め!バカ!アホ!マヌケ!」
何だこの子供みたいな煽りは。
「おじちゃんこれたべるー?」
蒼が干し柿を差し出す。
おい、それってyo!
「そんなもんは食わんわ!裏切り者の娘が!」
「いっ、いらないの?せっかくあおいがつくったのにーーー」
そう言って蒼が泣き出す。
流石に娘を泣かせるのは許さねえ。
「おいてめえもう1回言ってみろや、この野郎!」
「おう、上等だ!この裏切り者が!」
「どっちが裏切り者だ!お前の親父にまず言えよバカ。」
「ああ?なら一条を滅ぼしたお前の父も同じだろーが!」
「暗殺してないもんねーー悔しいなら殴ってみろよーおしりペンペーン。」
「おい、何を騒いでる!」
そう言って前から島津忠恒がやってきた。
「ねーねーおじちゃん、わたしあのおちむしゃになかされたのーー!」
よりにもよって一番ヤバイ奴に言いやがった……。
「なに!子供に悪口を言ったのか……」
「こいつが煽ってきたのじゃ!」
「いいぞもっとやれ!俺はガキが嫌いなんだよ!」
「おい、島津てめえ誰のおかげで本領安堵されたと思ってやがる!」.
そこからはもう一気に地獄だ。
宇喜多はカゴの中から暴言吐いてくるし俺と忠恒はお互いボコボコになるまで殴り合った。
「あー疲れた。こんだけ疲れたのは親父と朝鮮軍殺しまくった時以来だ。」
「その親父を殺した時くらい疲れた。」
「お前面白いやつだな、今度飲もうぜ。」
そう言ってグータッチすると忠恒は帰っていった。
「ちちうえよわーい。」
「もうちょい強いと思ってたぞ。」
「おっお前ら……。今日はどっかで食べてくか?」
「ヤッター!」
やっぱ子供の笑顔っていいな!
ただ割と洛中で大名が殴り合いしたのはやばかった。
俺と忠恒は2日後には二条城に呼び出された。
「宰相殿……。」
取次役の榊原が呆れた顔で見てくる。
忠恒の方は本多忠勝にぶん殴られたみたいだね。
「娘を泣かせたので殴りました。」
「いや、お気持ちは分かりますが宰相殿は大名ですぞ。ご自分の立場を理解して頂きたい。」
「いやでもさあ。」
「とりあえず上様から処分が申されるでしょう。それまでそこで正座しておいてください。」
仕方なく俺は忠恒と正座して家康が来るのを待った。
「上様の御成である!」
俺たちは平伏する。
「表を上げよ。」
うわー怒ってるなぁ。
「土佐宰相、薩摩侍従……それぞれ国許で蟄居しておれ。」
え?仕事しなくていいの、ラッキー!
それだけ言うと家康は出ていった。
忙しいんだろうね。
ということで俺、蟄居させられました。