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28 海部奉行

この頃金吾の体調が悪いと聞いて俺は金吾の居城の岡山城を訪れた。


「なんだ忠親。俺に用があるのか?」


「お前が最近体調が悪いと聞いてな。酒のせいか大谷刑部の祟か知らんが酒はやめた方がいいぞ。」


「やめようとは思っても飲んでしまうのじゃ。これでも控えていた方だぞ。」


「言っておくがお前が酒の飲みすぎで死んだら小早川家はおとり潰しでお前は裏切り者として後世伝わる事になる。それでもいいのか?」


「やめられないものはやめられないのじゃ。どうすれば良い?」


「この城の酒を全て捨ててくる。」


「えっ?」


「お前には長生きしてもらいたいからな。」


そう言って酒蔵に入った俺はリボルバーを取りだし片っ端から樽に銃を撃ち始めた。


「ちょちょちょっと待て!これは高級な……。」


「命より金が大事かバカタレ。」


一通り樽を破壊した俺は家老の平岡頼勝らを呼び出した。


「お前が酒を殴ってでもやめさせろ。もし失敗したら四国勢3万が岡山城を包囲するからな。」


無理のある話だが脅しには十分だ。

小早川の家臣共はみんなビビって頭を下げた。


「何もそこまでする必要があるか?」


酒の海に浮かぶ樽の破片を名残惜しそうに見ながら金吾が訪ねる。


「ある、酒はマジで人を壊すからやめた方がいい。これやるから我慢しろ。」


そう言って懐から俺が取り出しのはキセルだ。

またタバコも良くないけど酒の飲みすぎよりマシだろ。


「これ吸っとけば気持ちよくなるから、長生きしろよ。」


今後どうなるか分からないがもし俺が天下を欲しくなったら金吾は生きていた方がいいだろう。

備えはあった方がいいしね。


「たまには京にも来いよ、母上もお前を待っている。」


「ああ、四国が落ち着いたら行くさ。」


別に四国が荒れている訳でもないが土佐はともかく阿波は反長宗我部の人間も結構いる。

金吾や正則は余所者であっても長宗我部は侵略者なのだ。

家を焼かれ子供を殺された奴らも沢山いるだろう。

特に三好の旧臣達は長宗我部から開放されたと思ったらまた戻ってきた訳だしいい気はしないだろう。


「又四郎、阿波はどうだ?」


俺は徳島城代の又四郎に聞いた。


「阿波の国衆は思ったより大人しい。蜂須賀の統治よりも我々の統治の方がやりやすいようです。」


「海部の港の整備は?」


「順調です。もう間もなく堺との貿易が開始できます。」


海部……父上が貿易の拠点としていた地域で土佐で取れる木材をそこから畿内に輸出しその金で紀伊から大量の鉄砲を仕入れていた。

それゆえ長宗我部家は他の四国の大名を超越する鉄砲を保有し四国統一寸前まで迫ることが出来たのだ。


「そうか、あそこの奉行は誰に任せようか。」


「政治を担当していた久武は斬られましたからな。谷殿も亡き今、適任は野中三郎左衛門かと。」


「野中か……。何を考えてるかわからん男だぞ。」


「されど奉行をやらせれば天下一です。その能力は雪渓様も大いに評価されていました。」


「奴を呼んでくれ。」


早速浦戸城に野中親孝がやってきた。

この色白の中年男は無口で感情を表に表すことが少ない。

長宗我部家でそういうタイプの人間はかつて織田家との交渉を果たした中島司之助くらいだろう。


野中は平伏したまま黙ってる。

え、これ俺が言うのか?


「よく来てくれた。此度お前を呼んだのは他でもない。仕事がある。」


「はい。」


えっ、それだけ?

喜べよ。


「海部の港の整備がまもなく終わる。そこでお前を海部の城主とし奉行を任せたい。」


「はい。」


イライラするなぁ……


「しくじんなよ。」


「はい。」


結局野中は返事だけしてさっさと海部に向かっていた。

正直こいつがやり遂げるか半信半疑だったが一月後野中がやってきた時俺は腰を抜かした。


「ご命令の通り鉄砲を納入して参りました。」


「何丁?」


俺は娘の蒼を抱きながら聞く。


「千丁。」


「!????」


聞いた瞬間俺は蒼を落としそうになった。


「お、お前千丁って……まだ一月だぞ!?」


「一月ですが何か?」


感覚が狂ってるのか?

千丁を一月で用意するなんて父上の代でも無理だった。


「お前すげえな。また頼むわ。」


「はい。」


無愛想な挨拶だけすると野中は出ていった。


「無愛想な人ですね。」


どこからか出てきた百合が言う。


「無愛想だけどとんでもねえ奴だよ。んでどした?」


「その……また子が……。」


マジで……?



そして年末。


「殿、男の子です、男の子ですぞ!」


半右衛門の大声に俺は飛び上がった。


「男の子だと!?世継ぎが生まれたか!」


「はい、元気な男の子です!」


「出来したぞ、百合!これでお家も安泰じゃ!」


ついに俺に世継ぎが生まれた。

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