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夜間警察 通称夜警  作者: 田中ソラ
第二章 始まりの前の静けさ
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1話 相部屋

今日から第二章!

「ここ、かな」


 目の前には白色のアパートのような立派な建物があった。聞いていた住所があっているならここで間違いないはずだ。


「失礼します」


 あらかじめ教官から受け取っていたカードキーでロックを解除し、中へ入るとそこは天井が吹き抜けている談話室のような空間が広がっていた。


「あら、どちらも早いじゃないの!」


 よく見ると奥の方に坂井と先輩と思われる女性が座っており、私は急いで駆け寄った。


 先輩は笑顔で私のことを見ており、怒っていそうではなかったのに安心した。


「遅れてしまい申し訳ありません!」


「いいのよ。まだ集合時間より二十分も早いじゃない。それに坂井くんが到着したのもほんの五分ほど前よ。気にしないで」


「は、はい……」


 女性なのに威圧感のある雰囲気。この人は、とてつもない上へ上る人だというのがすぐに分かった。


「では自己紹介をしましょうか! 私は夜間警察第三部隊隊長の横峰(よこみね)あかりよ。二人の直属の上司に当たるわ」


「坂井深紅っす!」「松木夜霧です!」


「えぇ、よろしくね。二人は私の部隊、第三部隊所属になるわ」


「「はい!」」


 第三部隊? 夜間警察のことはよく知らないけれど、部隊化されているのだろうか?


 そのあたりも、後から説明してもらえるだろう。私はスルーし、横峰さんの話を聞くことに集中した。


「この独身寮の説明と夜間警察の組織図について少しだけ説明しましょうか」


「「はい」」


 私は坂井の横に座らせてもらい、荷物を置いた。


 横峰さんは大きな地図のようなものを机の上に広げた。


「これは寮の地図ね。どこにどの先輩が住んでいるかとか食堂、大浴場の場所も書いてあるからきちんと覚えること。それと寮内はジャージのみ移動可能ね! それ以外は固定されていないから何でもいいわ」


 地図には細かく部屋番号と○○部隊所属や○○期卒などが書かれている。まずは寮について。夜間警察で覚えることは沢山ありそうだけど、詳しく書かれてある地図や紙があるのは正直有難い。


「次に組織図ね。ここの独身寮に住むにはある部署に所属している者のみ。その他の人は基本、別の寮や別のアパートを借りて住んでるわ」


「ある部署、ですか?」


「それについては後々専門の人が教えてくれるわ!」


「はぁ……」


 濁されてしまった。最高管理者、矢吹さんと同じように。


 ここ夜間警察では許可がないと話せないような、企業秘密があるのだろうか? 警察官だから安心していたけれど、いきなり不安要素が出てきてしまった……


「二人が所属するのはさっきも言ったように第三部隊ね。隊は全部で五部隊。それぞれに隊長、副隊長がいて部隊によって風潮や戦術も違うし、見回り範囲も違うわ。あ、でも第五部隊だけは特殊ね」


 せ、戦術に見回り? 見回りは想定内だけど戦術って何? え、戦わないといけないの?


「特殊、っすか?」


 人知れず動揺している私を他所に、坂井は色々なことを質問していた。


 頭の回転の遅い私からすれば有難いような、悔しいような……


「第五部隊は隊二人だけしかいないのよ。名木双子って言って双子で所属している子達。あの二人は天才肌でどの部隊とも合わなかったからここ最近、特別に作られたのよ。ほとんどは四部隊に分けられるって覚えておいてね」


「分かりました」


「それじゃ、二人が住む部屋に案内するわ!」


 荷物を持ち横峰さんに着いていき、階段を上ると三階のある一室の前で止まった。


 そこには三〇五号室と書かれている。


「ここが二人の部屋ね」


 二人の、部屋? 私と坂井は別々じゃないの?


「相部屋っすか?」


「そうなのよ~夜間警察の同期は二人で一緒に住むっていうのが決まりであってね。いつもは一人か同性同士だったんだけれど今期は男女でね……上に交渉しているんだけれど、ルールだって言われてどうしようもなくて」


 申し訳なさそうな顔をしている横峰さん。


 掛け合ってくれた、という事実があるだけで十分だ。横峰さんは良い上司だろう。


「決まりなら仕方ないよね? 坂井」


「そうだな。俺達は別に相部屋でも構わないっすよ。それがルールだって言うなら従います」


「有難いわ。念のため言うけれど、問題は起こさないでよね?」


「「はい!」」


 凄い眼力で言われた。私はまだ未成年だし、坂井も22歳。


 お互いに、手を出し合うような年齢ではないし、そんな余裕ないだろう。


「では、正午十二時に食堂集合で、それまでは荷物整理するなり、寮内を見るなり自由に行動してね!」


「「はい!」」


 横峰さんは部屋のカードキーを二枚渡し、行ってしまった。


 カードキーで部屋を開けると、中は綺麗だった。


「広いね」


 中は警察学校の寮よりも広々としていた。


 小さな玄関で靴を脱ぎ真っ直ぐに進むと二段ベットと折りたたみ机と普通の机があり、別の扉を開けるとトイレや洗面台など普通の寮とあまり変わりなかった。


 それとひとつ。


「やっぱり二段ベットか……楽っちゃ楽だし、今まで同性同士ならこうなるわな」


 少し溜息を交えた坂井の言葉に、私も溜息を吐きたくなった。だけど相部屋でいいことを了承したのだから、今更文句は言えない。これからも異性であることで問題は起きるだろうから、これぐらい我慢しないと。


「上下、どっちがいい? 私はどっちでもいいから坂井が決めてよ」


「ん~なら俺、上!」


「分かった。私は下ね」


 次に私は収納の要であるクローゼットを開けた。


「うん、二人で使うには少し狭いかも」


 一人用なのか二人用なのかよく分からない狭さだった。あんまり服とか持ってこなくて正解だった……


「クローゼットの中にボックスあるじゃん。ここに下着類とか小物系入れるか」


 クローゼットの中にはカラフルだけど中が見えない仕組みになっているボックスが入っており、ここに色々入れ外に置いておくのだろう。用意周到で助かるなあ。


「私、下着は鞄の中に入れておくよ。間違って見たりしちゃったら嫌だろうし」


 中が見えない仕組みになっているとはいえ、時期でボックスの中が見えてしまう可能性は否めない。


 お互いのためだ。それにこれぐらいの気遣いはしておかないと。


 靴下やハンカチなど、小物を入れることにしよう。余ったら坂井に貸そう。


「……なんか気使わせて悪いな」


 先ほどの横峰さんと同じような、申し訳なさそうな顔をしている。


 男女だし、これぐらいの気遣いは絶対。私は女子だし、坂井にこれから沢山気を使わせてしまう場面があると思う。


 小さなことは、私が配慮しないと。それに年下だし。


「これぐらいなんてことないよ。それと男女二人で暮らすんだしあらかじめルールとか決めておいた方が良いかもね」


 持って着ていたハンガーに鞄から取り出した制服を引っ掛ける。


 あ、少し皺になってる……あとで伸ばそう。


「そういえば、俺松木と連絡先交換してないわ」


「たしかに。交換しておいた方がこの先楽だと思うし、交換しよう」


「おう。それとさっきもらった寮の地図の裏に横峰隊長と副隊長か? 結城さんって人の連絡先も書いてあるからこれも登録しとこうぜ」


「うん」


 連絡先を登録したり、荷物を出したりすること小一時間。


 スーツで作業しているので、少し腰が痛くなってくる。そろそろきつい……


「そろそろスーツでいるのしんどくなってきた……」


「だね。着替えたいけど、ってそうだ! 着替えどうする?」


「あ~その問題もあったな」


 まだ着替えの問題が残っていた。これが一番の問題かもしれない。


「俺的に一番楽なのは、気にしないことだけど松木には厳しいよな」


 坂井にこれ以上、女であることの迷惑をかけられないしここで腹を括らないと。


 それにこれから面倒になってきちゃうと思うし、うん。大丈夫。


「それでいいよ」


「は?」


 予想外の返答だ、と言いたげな顔でこちらを見てくる坂井。


 何よ、そっちが言ったんじゃない。


「だからそれでいいって。見られて恥ずかしいし後味悪いと思うけどお互いに気にしない方がこれから楽だと思うの」


「たしかにそうだけどよ。松木は本当にそれでいいのか?」


「うん」


「なら悪いけどそれで決定な」


 それからお互いに持って着ていたジャージへ着替えた。


 異性の前で着替えるのは恥ずかしい。それを坂井は分かっているから、私の方に背中を向けて着替えている。


 荷物整理を再開して、それから三十分ほどである程度片付いた。


「さて。荷物整理も区切りついたし、寮内探索するか?」


「いいね!」


 冒険みたいで楽しそう。そんな所じゃないけれど気持ち的には、冒険感覚の方が覚えやすいかもしれない。


「まずは……食堂から行くか。集合のとき迷子になったら困るしな」


「そうね。次に横峰さんや副隊長の部屋や大浴場の確認だね」


「おう」


 カードキーを持ち、ジャージのまま一緒に部屋を出て探索を始めた。

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