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絶対強者達のモルモット  作者: 立鳥 跡
3/3

モルモットの修行2


 ――神の使徒第七席『賢者』ニコラ·ヴェスタ視点。


 正直言うとあの筋肉馬鹿のブロッドの修行に五歳児がついていけるとは思っていなかった。

 なのにあの少年カイリは笑顔でブロッドの修行をこなし、模擬戦では千分の一程の力しか出していないブロッドとはいえ、一撃当ててみせた。なのにかすっただけだと本気で悔しがっていた。

 何故この少年はここまで強さに執着するのだろう。

 この子の心を傷つけてしまう可能性もあったけど、この子の過去が気になった。

 聞いてみるとまだ五歳児のこの子がとてつもない精神力を持っている意味がわかった。

 だけどこの子はまだ五歳児だ。本来なら父親と母親の愛情を受けてもいい筈の少年は劣悪な環境で育ったおかげか妙に達観した物事の捉え方をしている。

 だけど本当は泣きたい筈だ。だからこの子を泣かせてあげた。

 その際に今まで溜め込んできた気持ちを声に出して泣いたおかげかカイリはすっきりした顔をしていた。

 もう大丈夫そうなので魔法を操るにあたっての瞑想による魔力を感じる方法を教える。アドバイスすると胸に魔力を感じたらしいので、次は何の属性が使えるか水晶で確認すると風と雷の適正があることがわかった。

 縮地を使えるようになったカイリにとって風と雷魔法は使い方次第では強力な武器となる。

 だけどまずは、魔力器官にある魔力を身体中に巡らせられるようにならないといけない。

 そしてその次は身体のどの場所にでも魔力を集中させる訓練をする。これが叶えば、魔法を覚える速度は飛躍的に上がるし、近接戦闘で必要な身体強化の魔法を覚えやすくなる。

 一ヶ月はこの修行をしてもらうつもりだ。


 ――夜になり、夕食を終えたカイリは自分の部屋へと行き眠りについた。

 今はパドリッド、ブロッドと三人で酒を飲んでいる。

 

「パドリッド、もしかしてあの子を最後の座につけるつもり?」

 

「……それも面白いかとは思ってはおりましたが。本来ならとうに死んでる筈の最弱が我々が手を加えることによって我々と同じステージに立つ。今までの最初から才能のある者を選ぶやり方よりも余程退屈せずに済みそうではありませんか。なにより彼は興味深い」


「確かにあいつは面白いぃ。少なくとも今までの候補者よりも育てがいはありそうだぁ」


「あの子の精神力は確かにあんた達を惹き付けるものがあるかもしれない。底辺の環境で育ったあの子の心の強さに惹かれるあんた達の気持ちもわかる。でも今までの選定の仕方を是としてきた使徒にとってあの子は認められない存在でしょう。特に『白騎士』や『聖女』には反対されるわ」


「ですが今までの選定の仕方では最後の席は埋まりませんでした。ここは変わり種を育てるのも一興かと。反対する使徒もいるでしょうが、僕やブロッドの様に惹かれる者も出るでしょう」


「ああぁ、『剣聖』や『獣王』あたりは俺らと同じく興味を持ちそうだなぁ。あれを候補者にしてみるのも有りだぁ。ニコラァ、お前も有りだと考えてるんだろうぅ。じゃなきゃ話をふる筈ねぇもんなぁ」


「確かに私もあの子を候補者に挙げたいと思ってる。でもそれはあんた達みたいにあの子をモルモット扱いするのとは違うわ。候補者にするからには真剣にあの子を育てるつもりだし、例えあの子が選ばれなくても私の弟子として立派な人間にしてみせる」


「ほうぅ、『冷血の賢者』と呼ばれたお前が母性本能にでも目覚めたかぁ?」


「ニコラがモルモット君をそこまで気に入るとは益々興味深い対象ですね~」


 この二人に何を言っても無駄だと酒を飲むのを止め、その場から去る。

 あの子を実験体として終わらせるものか。

 私はそう心に誓いながら転移魔法でこの国――カルビナ王国の城内に用意された私室へと戻る。


 翌日、カルビナ王国の宮廷魔導師長として宮廷魔導師達の訓練を行い、雑務を終わらせた後、転移魔法でカイリ達が住んでいる家まで向かう。

 到着し、家の外に出てみれば丁度ブロッドとの模擬戦が終わったみたいだ。

 カイリに昨日と同じ様に魔力を身体中に巡らせる訓練をさせた所、昨日教えたばかりなのに魔力が身体全体に流れていた。

 いくらなんでも物覚えが良すぎると思い問いただすと、昨日寝る前に二時間程瞑想し、今日の筋トレメニューも身体中に魔力を巡らせるのを意識しながらこなしていたらしい。

 この子の力を欲する貪欲さは身体を自由に動かせなかった無力だった頃の反動だろう。

 そしてそれをこの子は苦としていない。

 自由に身体が動かせるありがたみを知るからこそカイリは力に貪欲なのだろう。そのおかげか普通の子供よりも物覚えが良い。

 その力への貪欲さがパドリッドやブロッドにとっては面白いのだろう。

 身体中に魔力を巡らせる事に成功したカイリには身体の一部分に魔力を定着させる訓練を与えた。

 この訓練は身体中に魔力を巡らせるのとは習得難易度が格段に違う為、今日明日では覚える事は出来ないだろう。でもこの子の貪欲さならば一ヶ月もいらないかもしれない。

 

 ――二週間後、カイリは自由自在に魔力を身体の一部分に留める事が出来るようになっていた。

 やはりこの子の精神力は異常だ。普通の五歳児ならばこのような地味でなおかつ難しい訓練についていける訳がない。大人でも自由自在に魔力を身体の一部分に留めておくのは難しいというのに二週間でやり遂げてしまった。

 ならば身体強化の魔法の八割は出来たも当然。

 あとは身体中に魔力を巡らせた状態で「身体強化(ファルク)」と呪文を唱えれば全身強化の身体強化(ファルク)の完成だ。

 だけど全身強化を維持し続けるには結構な魔力を必要とする。

 カイリの魔力量は中級魔導師程度の魔力しかない為、部分的な身体強化(ファルク)を覚えさせた。

 これを使いこなせれば明日のブロッドとの模擬戦でちゃんとした一撃を与えられるかもしれないと伝えると目を輝かせて部分的な身体強化(ファルク)を魔力が枯渇するまで練習した。

 明日のブロッドとの模擬戦が楽しみだ。早めに仕事を片付けて見に来よう。

 

  

           ◆◆◆


 ニコラ師匠に身体強化の魔法ファルクを教えてもらった翌日、早速筋トレメニューで部分的なファルクを試しに使ってみたらいつもの半分の時間で水汲み、薪割りを終える事が出来た。他の筋トレはファルクを使ったら意味がないので使わずに行った。

 いつもより時間に余裕が出来たので、部分的ファルクで下半身だけを強化し、縮地を行う。

 下半身を強化したことにより元々の荒らさが目立つ縮地がブロッド師匠が見せてくれた縮地のように安定して目標の位置まで移動が出来るようになった。しかも今までの三倍程の速さで移動が出来るようになった。何度かファルクを使った縮地を練習した後、パドリッド先生が用意してくれた昼食を食べ、正拳突き、蹴りの打ち込みを終え、ブロッド師匠との模擬戦の時間となった。

 たぶん、真正面からファルクによる縮地をしてもブロッド師匠に一撃入れる事など出来ないだろう。

 だからブロッド師匠が隙を作るまでいつものような模擬戦を行う。

 怪しまれないようにファルク無しでの荒い縮地を織り混ぜながら攻撃するけど、相変わらず当たらない。

 だけどまだだ。まだファルクを使ってはダメだ。

 ブロッド師匠が縮地をし、僕の懐に入り鳩尾に掌底を打ち込もうとする今だ!


「ファルク!」


 部分的ファルクで鳩尾を強化し、吹っ飛ばされながらもいつものように動きが止まる事はない。

 

「何ぃ!? ファルクだとぉ!?」


 驚いているうちに決める。吹っ飛ばされて地面に着地した瞬間、ファルクで下半身を強化し、縮地を放つ。

 ブロッド師匠の鳩尾目掛けて渾身の正拳突きを放つ!

 渾身の正拳突きはブロッド師匠の鳩尾に入る前に両腕でガードされる。

 だが初めて一撃を当てる事が出来た。

 だが一撃当てた事により、喜んでしまった隙を突かれ、ブロッド師匠のリバーブローを打たれてしまう。


「ゲホゲホゲホッ!」

 

 見事にリバーを打ち抜かれ立てない。


「まさか部分的なファルクを使えるようになっているとは思わなかったぁ。見事に一撃を当てたまでは良かったが、模擬戦はまだ続いているんだぁ。油断するのは良くねぇなぁ」


「ゲホゲホッ! すいません、一撃当てられたのが嬉しくて油断してしまいました」

 リバーブローのせいで立つのもきついけど、まだ模擬戦は終わっていない。

 ファルクを再び下半身強化に使い、縮地を使って今度はブロッド師匠の後ろに回り込み回し蹴りを放つけど避けられた。

 

「二度も同じ手は俺ぇには効かないぜぇ」


 回し蹴りわ避けられ、ブロッド師匠のアッパーが僕の顎を打ち抜く。その瞬間意識がブラックアウトした。


 意識が戻ったら家のベッドに寝かされていた。

 

 僕の意識が戻るとブロッド師匠が近づいてくる。


「まさか部分的なファルクが使えるとは思えなくて少しやりすぎたぁみてぇだなぁ。悪かったな、少しムキになってしまったぁ」


「いえ、勉強になりましたので謝らないで下さい。あの顎を打ち抜くアッパーは殺さずに気絶させられるんですね。練習してみます」


「おぅ、随分前向きだなぁ。まぁ、そこがお前の良い所だぁ。俺の訓練は済んで、ニコラが外で待っているぞぉ」


 待たせてると知って慌てて外に行こうとしたらブロッド師匠から声がかかる。


「一撃当てた後の油断は良くなかったがぁ、俺ぇに一撃当てたのは見事だったぜぇ」


「あ、ありがとうございます!」


 くしゃくしゃと僕の頭を撫でながら褒めてくれる。


 ブロッド師匠に褒めてもらえて嬉しくなりながらニコラ師匠の元へ向かう。

 家のドアを開け外に出てみれば、ニコラ師匠は地面に座り瞑想をしていた。


「ニコラ師匠、遅れて申し訳ありません」


 僕が声をかけると瞑想を止め、僕の方を見る。


「やったわね、あのブロッドに一撃与えられたじゃない」


 ニコラ師匠は優しく褒めてくれる。


「ええ、でもその後はボロボロでした」


「まぁ、あいつは体術では最強だからしょうがない。あれでもかなり加減してたし」


「やっぱり神の使徒様は強いんですね。今の僕じゃあなた達の底が見えません」


「五歳児に底が見える程私達神の使徒は浅くないわよ。でも今日は目標であった攻撃を当てるのには成功してたし、ご褒美として雷魔法と風魔法を使えるようにしてあげる。三十分瞑想して魔力を身体中に巡らせ、一部分に定着させる訓練をした後教えてあげるから、さっさと瞑想終わらせちゃって」


「はい、わかりました」


 三十分瞑想し、魔力を全身に巡らせたり、一部分に定着させたりし終わる。


「よし風魔法と雷魔法を教えていくわけなんだけど、私みたいに魔導媒体を持たずに魔法を行使するのは難しいだろうから、魔導媒体である杖をあげるわ。

 三十センチ程の木の棒を渡された。

 

「身体中の魔力を杖に流し込んでみて。そしてそのままエアカッターと叫んで」


 僕は言われるがままに杖に魔力を流しエアカッターと唱える。

 すると杖から魔力が放出され風の刃となって先にある大岩を真っ二つにした。


「す、すごい。これが魔法?」


「そうよ、まぁ、今の魔法は初等魔法だけどね。これから二年間カイリに風魔法と雷魔法を叩き込む。覚悟はいい?」

 

「はい、よろしくお願いします!」


「それとこれからは毎日魔力を出しつくしてから寝なさい。幼いうちは魔力を使いきることによって少しずつだけど魔力が増えるからガンガン魔法の練習をしなさい」


「はい、それで強くなれるのであれば毎日魔力を使いきります」




 ――二年後。


 僕は二年間の間パドリッドの作った筋トレメニューをこなし、ブロッド師匠の訓練にも耐えてきたし、ニコラ師匠には風魔法と雷魔法と身体強化魔法ファルクを鍛えてもらった。

 パドリッド先生には文字の読み書き、計算などを教えてもらいながら、たまにパドリッド先生が作った薬の被験者になったりもした。

 その薬のおかげか幾分か身体の調子が良いみたいだ。

 あと四ヶ月で八歳になるカイリは、三人の神の使徒の薦めでカルビナ王国の隣国であるマレイア帝国にいる剣聖様に鍛えて貰う為、三人それぞれから紹介状を書いてもらい、一人でマレイア帝国にいる剣聖様の所へ向かう事になった。 

 これも修行の一つみたいだ。

 正直一人で山の外に行くのは不安だけど強くなるためだ。

 出発する前にニコラ師匠から制限なく物を入れられるアイテム袋を頂戴した。

 このアイテム袋には、夜営用のテントや寝袋、食料品とパドリッド先生が作ってくれた体力回復のポーションや魔力回復のポーション、解毒剤、あとは旅費の金貨三十枚が入っていた。


「では行って参ります。色々と用意してもらってありがとうございました」


「君が強くなって帰って来るのを楽しみに待っているよ」

   

「次の模擬戦を楽しみにしてるぜぇ」


「剣聖オルゼン·シュタイナーは出来た人よ。色々と学んできなさい」

  

「はい必ず強くなって帰って来ます」

 

 こうして僕はは約三年間過ごした山を離れた。

 向かうのはこの山から西にあるカルビナ王国の街――タマラ。

 そしてタマラから馬車に乗って国境を越えてマレイア帝国に入る。 

 運が良い事にカルビナ王国とマレイア帝国は仲が良く国境を越える事は簡単らしい。

 でも身元がないと国境越えは難しいのでタマラの街で冒険者になる事を師匠達には薦められた。

 この山からタマラの街まで歩いて一週間はかかるらしい。

 とにかく西に進もう。


読んで頂きありがとうございました。

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