モルモットの修行1
日課の朝の水汲みを終え、朝食を済ませて薪割りをしていると、普段山の地下に作った研究所からあまり出てこない先生が、背が百八十センチ程だけど鍛えられてるからかそれ以上に大きく見える男性と、左目に眼帯をした赤毛の美女を連れて僕の所にやってきた。
「ほう、これだけの薪を一人で割ったのかぁ。しかし、そんな振り方をしていると体を壊すぞぉ。どれ、斧を貸してみろぉ」
筋肉モリモリの男性に斧を貸すと薪用の木を見事真っ二つにした。しかも男性の斧の振り方はとても綺麗だった。
「どうだぁ、見事だろうぅ」
「はい、僕は一撃では割れないのに凄いです。それにあなたの振り方はとても綺麗でした」
「そうだろうそうだろうぅ。お前は腕でしか斧を振れてないからなぁ。腰も引けてるぅ。腰に重心を置いて、腕だけではなく、体全体で振れば五歳児のお前でも簡単に割れるぅ。やってみろぉ」
見事な薪割りを見せた筋肉モリモリの男性に斧を渡される。
よし、さっきの綺麗な振り方をイメージし、男性のアドバイスを参考にしながら斧を振ると、今まで一振りで割れなかった木が簡単に割れた。
「割れた! 一振りで割れました!!」
「ほうぅ、飲み込みがいいなぁ。忘れんうちに薪割りし続けろぉ」
「はい、わかりました!」
ようし、この感覚を忘れないうちにいっぱい薪割りするぞと思っていたらパドリッド先生から待ったの声がかかった。
「ちょっと待って。カイリ君の所に来たのはこの二人を紹介する為だから少し時間をもらえるかな?」
「あっ、はい」
本当はすぐにでもさっきの感覚を再現したかったけど、命の恩人で神の使徒様であるパドリッド先生に止められたら仕方がない。
「こちらの二人は僕と同じ神の使徒で、男性の方が神の使徒第五席『拳聖』のブロッド·オーガスタ。女性の方が神の使徒第七席『賢者』のニコラ·ヴェスタだ。ブロッドは武器を使わない武術を極めた武術家で、ニコラは魔法のエキスパートだ。この二人に君の武術と魔法の先生になってもらおうと思ってね」
パドリッド先生の他の神の使徒様が僕に武術や魔法を教えてくれる!?
「本当ですか!?」
期待の目で僕はお二人の使徒様を見つめる。
「おうぅ、いいぜぇ。丁度暇だったしなぁ」
ブロッド様には了承してもらえたけど、ニコラ様は思案している。
「……そうね、三ヶ月後にもう一度あなたに会いに行くわ。その時、そこの筋肉馬鹿の修行に堪えられていたら魔法を教えてもいいわ」
「本当ですかっ!? なら死ぬ気で修行を頑張ります!!」
僕が気合いを込めて言うと、何がおかしかったのか笑いながら「そう、楽しみに待っているわ」と言いながら去っていった。
ブロッド様の修行はパドリッド先生の筋トレメニューをこなした後と言われたので、一日のノルマの三百個の薪を割り、腕立て百回、腹筋百回、スクワット百回、懸垂百回をこなす。なお、薪割りの前にパドリッド先生に教えてもらった柔軟体操と山に流れている川から百リットルの水汲みを終わらせている。
パドリッド先生の筋トレメニューを終わらせ、パドリッド先生が作ってくれた昼食を食べ終わると、いよいよブロッド様の修行だ。
ワクワクして山の頂きで待っているとブロッド様がやって来て、縄が巻かれた巨木の前に連れていかれる。
「いいかぁ一回しか見せねぇからしっかり見てろよぉ」
そういうと巨木を右拳で殴ったあと左拳で殴る。
「見てたかぁ、今のが正拳突きだぁ。これをパドリッドの筋トレメニューをこなした後、一ヶ月間毎日右左千回ずつこの木に打ち込めぇ。あと俺ぇのことは、師匠と呼べぇ」
「はい、わかりました! ブロッド師匠!」
言われた通り、さっき見せてもらった形を意識して腰の横で拳を構え、右拳を巨木に打ち込んだ後左拳を打ち込む。千回ずつ打ち込み終わる頃には夕方になっており、右拳も左拳も血だらけになっていた。
家の中に戻るとパドリッド先生が夕食を作って待っていた。
「うわぁ、また随分と血だらけになったね」と言うと消毒液なる大変しみる液体を拳の傷に塗られ、ガーゼを拳にあてた後包帯で巻いてくれる。
うん、治療してくれたおかげで幾分か痛みが和らいだみたいだ。
ブロッド師匠は何も言わず黙々と夕食を食べた後、風呂に入りに言った。
その日は拳の痛みでちゃんと寝れなかった。
早朝五時に起き、日課の柔軟体操をし、百リットルの水汲みをする。昨日の巨木への打ち込みで酷い筋肉痛になっていたけど、なんとか水汲みを終え、家に戻り、パドリッド先生が作ってくれた朝食を食べ、薪割りを始める。
やはり筋肉痛のおかげで薪割りも苦労した。その後も苦しみながらも筋トレメニューをこなし、昼食を食べ終わり、巨木へと正拳突きを始める。
これをひたすら一ヶ月間こなした。
そのおかげか筋トレメニューと正拳突きを短時間で出来るようになってきた。
正拳突きのノルマを終えた頃、ブロッド師匠が新たに訓練メニューを追加してきた。
前蹴り、後ろ蹴り、横蹴り、回し蹴りの四種類の蹴りを正拳突きが終わった後それぞれ百回ずつ巨木に打ち込むように言われた。
なんとか蹴り技四種類を百回ずつこなせたけど足が腫れて痛い。
ブロッド師匠は何も言わない。ただ僕が蹴っているのを見てるだけだった。
また一ヶ月必死に修行メニューをこなした。
蹴り技のノルマを達成した後、今まで何も言わなかったブロッド師匠が近づいてくる。
「ずっと見てたがぁ、よく文句も言わずに過酷な訓練を続けてこれたなぁ。正直同じ訓練ばかりで飽きなかったかぁ?」
「いえ、『拳聖』と呼ばれている方のお教えですし、何より少しずつでもブロッド師匠が見せてくれたお手本に近づいてるのが嬉しくて夢中で訓練していました」
僕の言葉を聞いたブロッド師匠は何故か大笑いし始めた。
「ぶはっはっはっはぁ! あの地味できつい訓練をして嬉しいときたかぁ。パドリッドの言う通りカイリは面白いなぁ。ようしぃ、殴り方の基本と蹴り方の基本は教えた。次は対人戦といこうかぁ。ちゃんと手加減してやるから今まで訓練した技で俺ぇに向かって来いぃ。まず最初の目標は一発でも俺ぇに当てるのを目標にしようぅ」
「よろしくお願いします!」
結果は一撃も当てれずボコボコにされた。
こちらからはまともに近づけず、気付いたら懐に入られて殴られるの繰り返し。ちゃんと手加減してくれているからそこまで痛くないけど一撃も当てれないのは悔しい。
ブロッド師匠と模擬戦をしていると、打撃技だけではなく、柔術などの投げ技や絞め技などを繰り出してくる。
夕食の時間まで模擬戦は続いたけど盗める技術が多く、常にブロッド師匠の動きを集中して記憶する。
そんな日常を始めて一ヶ月が経った頃、ニコラ様がやってきた。そう言えば初めて会った時に三ヶ月後にまた来ると言ってたなぁ。
丁度ブロッド師匠との模擬戦の最中に顔を見せに来てくれた。
「へぇ、ちゃんと修行を続けられたみたいね。この筋肉馬鹿の修行は地味なのにきついから弟子になりたがった多くの人間がついてこられずにだいたい一ヶ月で逃げ出すのにやっぱりあなた精神力が並じゃないわね」
「それだけじゃないぜぇ。物覚えが早く、修行も楽しんでやってる。それ以外はたいした才能はないが、こいつは面白いぜぇ。だから正式に弟子にする事にしたぜぇ」
「あんたにそこまで言わせるなんてこの子相当面白い逸材みたいね。わかったわ、私もあなたの師匠になってあげる。だけど魔法を教える前にあなた文字を書いたり読めたりあと計算とかは出来るのかしら?」
「パドリッド先生が暇なときに文字の書き方や簡単な計算を教えてくれてるので日常的な会話程度なら読み書きできます」
「そう、それなら早速魔法の使い方を教えてあげるから早く模擬戦を終わらせちゃって」
「わかったぁ、今日はあと十分で終わりにしようぅ」
「わかりました、今日は残りの十分で一発当ててみせます!」
くっ、相変わらず一瞬で距離を縮めてくる。なんでも縮地という技らしい。
だけど僕だっていつまでも同じ技に苦しめられてる訳じゃない。なんとか攻撃を回避して、距離をとる。
何度も見てきた筈だ。だから出来る、出来る筈だ。
行くぞぉ! 縮地!! からの回し蹴り!!
ブロッド師匠はわずかに驚いた表情をするが、僕の回し蹴りはブロッド師匠の腕にかすっただけで、その直後にブロッド師匠の正拳突きを腹に受け吹っ飛ぶ僕。
げほげほげほっ!! あと少しだったのにちゃんと当てる事が出来なかった。 悔しい。
僕が悔しそうな顔をしているとブロッド師匠が近付いてきて頭をワシャワシャと少し乱暴に撫でてくる。
「何悔しそうな顔してんだぁ。あれも立派な一撃だぁ。まさかまだ荒いとはいえ縮地を使ってくるとは驚いたぜぇ。何にせよ最初の目標は達成したんだぁ。素直に喜べぇ」
「は、はい。ありがとうございます。でも次はちゃんとした一撃を当ててみせます!」
「そうかぁ。ようし、かかってこいぃ!」
「ちょっと待ったぁ! もう十分経ってるんだからあんたの教える時間はここまでよ」
「ぬぅ、せっかく良い感じになってきたのによぉ」
「約束は約束よ。十分経ったんだから代わりなさい!」
「ちっ、わかったよぉ。カイリ今日は良くやったぁ。続きはまた明日だぁ」
「はい、ありがとうございましたブロッド師匠」
僕が去っていくブロッド師匠に頭を下げていると、ニコラ様が近づいてくる。
「見事だったわカイリ。かすっただけとは言え三ヶ月の修行であのブロッドに一撃当てられたんだから」
「いえ、ブロッド師匠が手加減してくれてたのでかすっただけです。僕はもっと強くなりたいんです! 理不尽をはね除けるぐらいまで」
「確かにあいつはめちゃくちゃ手加減しているわよ。でもそれでもかすったあなたの一撃はブロッドを驚かせるぐらいには凄かったのよ。胸を張りなさい!」
「はい、ありがとうございます!」
ちゃんとした一撃じゃなかったけどブロッド師匠とニコラ様に褒められてかなり嬉しい。
「それじゃあ早速魔法を教えると言いたい所なんだけど、その前にパドリッドの所に来る前のカイリの過去を教えて欲しいの」
「……ここに来る前の話ですか?」
正直思い出したくもない過去だったけど話した。この国の伯爵家の三男として生まれたけど、右目、右腕が生まれた時からなく、更に重度の心臓病と魔力ゼロの体に生まれたせいか自分の兄弟には虐められ、父親からはこの家の恥だからと屋敷から一度も外に出された事などなかった。第一夫人にはゴミみたいな目で見られ、唯一の味方の母は第二夫人だった為、伯爵家では発言力がなかった。
他の兄弟の様に家庭教師を付けてもらう事も出来ずにいた。
メイドや執事にも冷たい態度をとられた。
そして数ヶ月前にこの山に捨てられた事をニコラ様に話すと、彼女は泣きながら僕を抱き締めてくれた。
「辛い思い出を話してくれてありがとうカイリ。今日からあなたはわたしの弟子であり味方よ。だから辛かったら泣いてもいいのよ」
泣いてもいい? そう言われて今まで蓋をしていたものが溢れ出す。
「……うわぁぁあんっ! 何で僕はあんな体に生まれたの? なんで皆僕を冷たい目で見るの? 僕が何したっていうんだ!!」
僕はニコラ様に抱き締められながら今まで溜めていた不満を泣きながらぶちまける。
ニコラ様はそんな僕を泣き止むまで抱き締めてくれた。
ニコラ様は僕が落ち着くのを待って修行を開始してくれた。
ニコラ様言わく、まずは瞑想し、己の中に魔力がある事を理解しなければならないらしい。
瞑想してみるけど何にも感じない。もしかして僕は魔力を使えないのだろうかと不満に思っていると、ニコラ師匠(本人からそう呼べと言われた)がアドバイスをくれる。
「魔力を貯めている魔力器官は心臓の隣にある。つまり魔力器官は胸の真ん中にあるわけだから胸の真ん中に魔力があるように意識してみて」
ニコラ師匠に言われて目を瞑りながら胸の真ん中に意識を集中させる。すると胸の真ん中に暖かいエネルギーの様なものを感じた。
「この暖かいものが魔力ですか?」
「ええ、どうやら上手く魔力を理解出来たみたいね。次はあなたにどの魔法の適正があるか見てみるからこの水晶の上に手を置いて」
魔法の属性は火、水、風、土、雷、光、闇の七属性が存在する。
何の属性になるのか楽しみにして水晶上に手を置くと、水晶から風が吹き、電撃が水晶の周囲で巻き起こる。
「へぇ、風属性と雷属性か。カイリには向いてる属性だね。
「あの~ちなみにニコラ師匠は何属性を使えるんですか?」
「自慢するわけじゃないけど全属性使えるわよ」
「ええ~、全属性使えるなんて凄いです!」
「まぁね、伊達に神の使徒をやってないわよ」
そう言いながらやけに嬉しそうだ。褒められるのに弱いみたいだ。
それよりも僕に雷と風の魔法が使えるなら早く使ってみたい。
「あの~、雷魔法と風魔法を使ってみたいのですが」
「何言ってるの。まだ身体中に魔力を循環出来ないくせに魔法を使うなんて無理に決まってるでしょ。まずは胸の真ん中に感じる魔力を身体中に巡らせる事から始めなさい。とりあえず、一ヶ月間はパドリッドの筋トレメニューとブロッドの修行の後に瞑想して身体中のどこにでも魔力を巡らせられる様になりなさい」
「はい、わかりました!」
正直すぐにでも魔法を扱いたいけど、『賢者』と呼ばれるニコラ師匠が教えてくれてるのだ。焦りは禁物だ。ニコラ師匠に言われた通りに魔力を身体中のどこにでも巡らせられる様に頑張るぞ!!
読んで頂きありがとうございました。