暴力衝動と平和主義者9
取りましたよマウントポジション。腿に感じるのは柔らかい感触と多少の反発力。視界に見えるの褐色の肌と軍服の黒。そして、紅の髪の下の表情は歯を喰いしばった苛立たしげな表情です。
わかりますよ? 格下にマウントを取られた苛立ちは私も経験済みです。もっとも、ひっくり返すのはいつものことでしたが。
「これで勝ったつもりになるなよ?」
無論です、この状態でも私はあなたのワンパンで死にますから。
「それなのに・・・」
拳を振り下ろして黙らせます。ダメージはないでしょうけど。
「あなたは強い。生物としても精神としても。殺す覚悟もあれば死ぬ覚悟もあるのでしょうね。ですが、私は死ぬことが怖い。だから、あなたを殺そうとしている」
安心してください。
私はあなたを殺します。
こんな世界になってしまったんです。百人殺せば英雄になれるでしょう。もっとも、化け物を百人殺す前に死ぬかもしれませんが、目の前の存在だけは殺し切りましょう。
もっとも、その前に私が死ぬ可能性の方が高いですが。
刹那、突き出されて拳が頬を掠る。回避してなかったら頭蓋が吹き飛んでましたね。
「なんで避けれる!?」
肩の筋肉の動きでわかりますよ。あなた動きが大雑把すぎるんですよ。内側から捻って突き出してたら殺せてましたよ。あなた達には武術の概念が無いんですか?
まあ、だからこそ、伸びた腕をとって関節を極めながら押し倒しつつ、引きはがそうとした腕をリリースしつつ、うつ伏せの後頭部を踏みつけます。
「無様ですね」
関節以外はダメージはないでしょうね。それは表情からわかります。ですが、このままではじり貧ですね。一応ダメージは与えているようですが、ゲームではないので相手の残り体力がわかりません。
もっとも、私は一撃で死ぬ自身がありますが。
頭に上りかけた血流を抑える。
彼女は確かにただの人間だ。だが、こいつの手足はわたしはを殺しうる。
断言していい。こいつは化け物だ。同じ身体能力を持っていたら私は一瞬で弾け飛んでいるだろう。
人間という枠組みだからこそ生き残っている。
そして、その枠組みだからこそ、最終的には私が生き残る。
彼女はワンミスを許されない。私は体力が尽きるまで選択肢がある
今はマウントポジションを取られている。だが、私の力を利用しない拳はダメージにならないし、なにより怖くない。圧が無いのだ。まだ組み合っていた方がひりひりした。
「つまらない・・・そう思っていませんか?」
思考の余暇、それを突かれたことになる。
そして、続く打撃。そして、重なる打撃は脳を・・・視界を壊していく。
「これは、さっきの・・・」
打撃と衝撃を重ねれば脳が壊れるのは知っている。でも、彼女は非力だ。ステータスでいえば私は千倍だ。なのに、なぜ私を追いつめられる?!
でも、彼女は笑いながら、答え合わせを語る。
「波と波を重なれば頂点は高くなるでしょ? それを複数重なればどうなるかしら?」
もう少しで日常編になります。