暴力衝動と平和主義者8
一秒ごとに命の選択をしています。
選択を間違えただけで筋繊維が弾け、手足は千切れ飛ぶでしょう。
それだけの力であり、それだけのポテンシャルです。
正直な話、私が生きていること自体が奇跡です。
だからこそ、組み付きながら手を伸ばされないよう、掴み取られないよう、反発されないよう、力を込めては緩め、緩めては誘導し、誘導してから極めてダメージを蓄積させていきます。
ちなみにこの手順を一瞬間違っただけで私は死にます。爆散して死にます。
突進して車に小手返しはできませんが、こちらはこちらで無理ゲーっぽいです。
まだクマやイノシシを相手にした方がやりやすいですね。
隈は上からの振り下ろしを利用すれば投げ飛ばして首を折れば一発ですし、イノシシは突進の勢いを流して頭蓋を砕けば簡単です。
ですがこの生き物は違います。やたら固いですし、関節は砕けない。なおかつ触れられただけで・・・正確に言うなら掴み取られただけで肉が押しつぶされます。蜘蛛の糸を手繰るような選択肢を常に手にしながら最適解を選ばなければ殺されます。
死ぬこと自体はそこまで恐ろしくはありませんが、殺されるという現実に忌避感を抱きます。
望まれた命ではなかった。
それ自体は構いません。禁忌のような存在です。だからこそ、紅という家なのに青子と名付けられたのですから。
ですが、その名を呼んだ相手に殺されてやるような軟弱でもありません。
そもそも挌上との戦闘は慣れてます。
彼等は組手と言って常日頃殺しに来ますからね。
後ろに回られて気道を絞められる。脳への血流が止められかけて目の前が赤くなる。その腕を千切るために手を伸ばすがするりと抜けられ、延ばした手を十字に固められる。でも、そんなひ弱な力を弾くのは簡単だ。極められた関節を開放するために起こした瞬間、私はうつ伏せに倒れていた。
なぜだ?!
しかも、起こした腕が背中に向かって逆関節を極められている。骨が軋み、砕ける一歩寸前だ。
こいつは何なんだ?! レベル概念すら無視したダメージに私は困惑する。
逆の立場であれば私は絶望しているだろう。体力だけでも千倍だぞ?!
なのに彼女は常にリスク回避しながら私にダメージを与えている。
だが、圧倒的という意味ではない。
そう、圧倒はされていないのだ。
いつかは、触れることさえできれば逆転は一瞬だ。
場合によっては撫でるだけでいい。
それだけで彼女の皮膚は剥がれて、肉を押しつぶすことができる。
できるはずなのに!
続く打撃。打撃自体は痛くない。なのに、重なる打撃の振動が脳を揺らす。それだけで目の前が赤くなったり暗くなったりする。だから、手を振るうがそれすらも掴み取られてあお向けになったりうつ伏せになったり上下が入れ替わる。
そして、うつろう視界の中で私は青子を見上げていた。
クリムゾン
LV 100
HP 10000/5000
MP 10000/10000
STR 1000
DFE 1000
DFX 1000
MAG 1000
LUC 1000
化け物め。