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暴力衝動と平和主義者4

不定期連載なのでご了承ください。

文字数が少ないのも勘弁してください。

 頭のおかしい少女と出会った。

 そもそも、スタートラインがおかしくて、彼女はあたしの配下に襲われてそれを返り討ちにして、気づけば集団戦闘(彼女は一人)に突入し、部下を逃がした後は一対一の戦闘になっていた。

 正直、戦闘技術が化け物クラスだ。あたしでなければ一回の接触で五回ずつは殺されているかもしれない。もし、彼女のステータスが一般的な戦士レベルであれば、あたしは首がちぎれて死んでいるだろうな。

 というか彼女の話を聞く限り、彼女は頂点ではないだろうし、それ以上の化け物が複数存在するらしい。そんな者たちとは間違っても戦いたくないし近づきたくない。むしろ、村人クラスの身体能力しかないのにあたしと向かい合って生きている時点で彼女の技術は人外だ。

 人は死ぬ。本当にたやすく死んでしまう。

 軽い気持ちで殴りつければ上半身が消し飛ぶ。

 本気で大地を踏みしめれば蜘蛛の巣状に砕け散る。

 でも、彼女は生きている。

『いや、ありえないから』

 何度か反撃した。力に任せた稚拙なものだけれど、人間相手なら十分に必殺であり致命のつもりだった。苦しませる趣味はないからな。

 なのに、彼女は回避した。

 いや、ありえないから。どれだけ危険予測しているの? それこそ未来予知レベルだから。そういう打撃を数度はなっているけれど彼女は生存している。この世界に勇者はいないと思うけど、そういうレベルの幸運か身体能力・・・いや、彼女の身体能力は限りなく低いし、運という要素を技術で補っているのか。

『いや、本当にあり得ないから』

 あたしは最強じゃない。だけど、種族でいうなら人間の十倍くらい強い。身体能力だけなら三倍くらいだけど、保有魔力であったり耐性であったりで総合でいうと、魔族一人と戦うには十倍の戦力が必要と言われている。あたしは別だぞ?

 その上であたしの攻撃を回避して一方的に打撃などを入れてくる人間。ちなみにダメージは全くない。だけど、ダメージがないのを理解しているかどうかはわからないが、様々な攻撃方法を試しているということは、理解した上で向き合っているのか。

 本当に頭がおかしいのかもしれない。

 勝てない存在に向かい合う神経が理解できない。

 なぜなら、それは自殺と変わらない。

 しかし、彼女は自殺に失敗してしまった。生き残ってしまった。そもそも、自殺の自覚がない。

 生き残った上であたしと向き合ってしまった。


「戦うのをやめるのは構いませんが・・・いや、業腹ですが」


 いや、やめてください。あたし戦闘民族じゃないから。

 なんでそんなに戦うのが好きなんだろうか?

 聞かないがね。

「まずは君の名を聞かせてくれ」

 少なくとも戦う雰囲気じゃない。向こうだって手づまりなのは自覚しているだろう。

「殺す相手の名前なんて知りたくありませんよね」

 手づまりはまだのようだ。というかあたしを殺す気満々だ。

 なら蹂躙するか?

 圧倒的な暴力を叩き付けて命乞いを求めようか。

 それもまた良いな。

 まあ、そんな未来が見えない時点で失敗しているだろうが、衝動は抑えられないものだ。

 良いだろう。

「今から十秒本気になる」

 だから、生き残ったら話をしよう。

 話をした上で考えよう。


「死ぬなよ」


 踏み込んで腕を大きく振るう。

 同時に顔に感じる薄い打撃の連打。鼻と唇の中心に穿たれる衝撃。同時に消える細い体。視界の端に映るのは衣服の切れ端と残影。

 すごいな。あたしの視界から消えるだけじゃなく、首に対する圧迫感。後ろに回り込んで腕を回しているのだろう。同時に浮遊感。投げられたのか。視界は反転し、直後に続くのは後頭部への衝撃。首投げを放った後に頭部を踏みつけたのだろう。まったく反応できなかった。だが、言うまでもなくダメージはない。この程度で魔族は死なないよ。

 でも、続くのは再び首に回される細い腕の感触。背中に加わる彼女の重さと左脇の下から回って動きを封じるそれ。絞め技は有効だ。魔族だって呼吸はするし血の巡りだってある。ある程度は耐性はあるかもしれないが、呼吸をしなければあたしたちだって死ぬのだ。

 だが、

「力が足りないよ」

 唯一自由な右腕・・・ではなく、固められた左腕のホールドを力づくで外して、彼女に振りかえる。

「っ!」

 一瞬言葉を失ってしまう。

 彼女の顔をはっきり見たわけじゃない。紅の瞳を持つ黒髪の少女。そんな認識だった。

 しかし、土やほこりで汚れているものの、美しい少女だった。

 黒曜石のように濡れた色をする黒髪に、雪のように白い肌。鼻は高くないかもしれないが紅の大きな瞳に準じたすき通る鼻梁。先ほどのように弧を描く口元ではなく小さな唇。目元が険しいのは難点だが言うまでもない。彼女は美しかった。

「っ!」

 あたしとしたことが思わず言葉を失ってしまった。

 続くのは衝撃。

「?!」

 あろうことか彼女は頭突きを敢行したのだ。いや、まったく効かないから。

 しかし、それどころか、あたしの首筋に己の歯を喰い込ませてくる。若干血流が乱れて意識が遠くのが、振り払えばその限りじゃない。実際、彼女はあたしの腹部に乗ったまま、拳を振り上げて固まっていた。

「好きにするといい」

 笑みと共に言ってやった。


 振り下ろされる。

 続く打撃。

 痛みはない。けれどいつまでも続く。

 時折関節を極められたり呼吸器官を止められたりするが、やばいときは抵抗するし基本的にはなすままにされた。なぜなら、この程度であたしは死なない。

 彼女もわかっているのだろう。

 彼女にあたしは殺せない。でも、あたしは彼女を殺すことしかできない。

 なら、どうするべきだろうね?


「もう満足したかな?」

「まだあなたを殺していません」


 今のままじゃ百年たっても無理だろうね。

 でも、なんでそこまでしたあたしを殺したいのだろう? お互いに分かり合えない世界の住人ということは理解しているはずだ。そして、だからこそ、戦いは止まっていないのだ。一方的な侵略者の言うセリフではないかもしれないが。


「届かないのですか?」

「君は人間だ。だから、限界はあるだろうよ」


 向き合う顔と顔。お互いのまつ毛が触れんばかりだ。

 しかし、お互いに向けられる視線は剣呑なものじゃない。

 少なくとも彼女は殺意が満タンだ。


「もう一度聞こう」

「なんですか?」


 対話は必要だ。分かり合えるかできないかは別として。

 あたしたちは思考できる。最初の出会いは闘争から始まったかもしれない。しかし、終わりまではそうだとは限らないはずだ。

 だからこそ、言葉を紡ごう。


「君の名は?」

読んでいただきありがとうございます。

ブックマークや評価をしていただけると嬉しいです。

よろしくお願いします^-^

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